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女神とともに転移した世界がまるで地獄(エロゲ)でした  作者: 瑞木美海
第8日目 ドワーフの国へ出かけよう
472/503

SSレイルクラフト鉱山地帯の主

451話のドラゴンさんの話です。

特に本筋には関わらないので読まなくても、問題ありません。


 我は主。


 この世界の主だ。

 そう…

 ついさっきまでは、我はそう思っていた。


 我と同じドラゴンですらも、その力など、幼竜の頃の我と比べても弱々しく、貧弱な者たちばかりだった。


 我は、この世を統べるドラゴン、そう思っていたのだ。


 成竜となり、日々を過ごすうちに、我は住みかを定めた。

 主たる我に相応しい、この世界最高峰に穿たれた洞窟に、寝床を作り、集めた財宝を並べて、日々を過ごした。


 ここに住みかを構える前とは、全く違う静かな日々だった。

 粋がった若い竜が絡んでくることも、我の集めた財宝を掠め取ろうとする竜を八つ裂きにすることも、我の魅力に狂った雌竜にしなだれかかられ、凍り漬けにして、熔岩に投げ入れることもほとんどない。

 時折眠り、財宝を愛で、散歩に出かけたついでに、ドワーフや人をこんがり焼いてつまみ食いする穏やかな日々だった。


 極たまに、ドラゴンの里に遊びに行って、食事用のドラゴンを数匹確保して帰る時は、少しだけ本気を出したが、それすらも、アクビがでる簡単な作業だ。


 いつだったか、出かけている間に、我が住みかに入り込み、生え変わりで剥がれ落ちた鱗を集めて、持ち帰っている奴を見つけたことがあった。

 戯れに、見逃すかわりに、素晴らしい宝を次回持ってこいと言ってやったのだ。


 そして、ソイツは中々の品を定期的に持って来るようになった。

 もう数百年の間、ソイツは代替わりをしながら、我に品を捧げ、代わりに鱗を拾っていく。

 我にとっては戯れに過ぎず、痛くも痒くもなく、面白いものを見る機会が増えた。

 もちろん、我が楽しめなかった品を捧げた輩は、1度目は右腕を、2度目は左足を、3度目は頭から喰らってやった。

 少し容赦が過ぎたかもしれん。


 そんな静かな日々を遮る輩は、たまに現れた。

 前述のバカなドラゴン位がほぼ全てだが、今日の朝は様子が違った。


 空気を引き裂くような甲高い音をたてながら、人間が我の住みかの近くを飛び回り、我の眠りを妨げたのだ。

 なんと不遜で下劣で低脳極まる輩だ。


 我は怒りの咆哮を、ぶつけてやった。

 そう、いつもならドラゴンですら、全身の穴という穴から、血を噴き出して絶命する我が咆哮を、正面からぶつけてやったのだ。

 しかし、奴は全く動じることも、ふらつくことすらなく、我の近くに飛んできて、声をかけてきたのだ。


「おはようございます。もしかして、起こしてしまいしたか?もしそうなら、ごめんなさい」

この世界の主たる我に、なんと気安い不遜な態度だろう。

そもそも、我の住みかを把握せずに、生きている事が間違いだ!

我の眠りを妨げたのだから死ね。

我の咆哮に耐えて生きているのも不遜だ。

死んで償え!


「いや。確かに知らずに起こしたのは悪かったですけど、死ねとか言われる筋合いは無いですね。あんまり、無茶なことを言われるなら、僕も対応を考えますよ?」

虫けらが、何を言い出すのか!

お前らは、我の退屈をまぎらわせるためだけに生きているのだ!

我の怒りをかったお前に生きる権利など無い。

今すぐ死ね!


 我の怒りを含んだ咆哮は、熱をはらみ、風を呼び寄せ、灼熱の圧縮空気とともに、不遜な輩を飲み込んだ。

 一片の塵すら残さない様に放った長い長い咆哮は、周囲の景色が歪んで見えるほどの熱量を、不遜な輩に叩き込んだ。


「1度ならず2度までも、必殺の攻撃を叩き込むなんて…悪いけど、ちょっと傍若無人過ぎるよ。もう少し他人に対して礼儀を持って接する様に、少し痛い思いをしてみようか」

奴は、我の必殺の咆哮を至近距離で浴びた直後に、何の気無しにそう呟いた。

そして、呟いた直後に奴の目が光った気がした。

一瞬のタイムラグの後に、とてつもない殺気が我に突き刺さり、心胆を寒からしめた。


「ほら、痛いだろう」

殺気はそのままに、空気を引き裂くような甲高い音がしたと思うと、身体中を痛みが這い回った。

一瞬の内に、身体中の鱗という鱗が剥ぎとられた事に、辺りに飛び散って落ちていく鱗の姿を見て初めて気がついた。

気がついた一瞬の後に、丸裸になった体表全体から血が滲み出す。


 初めての甚大なる痛みだった。

 初めての絶大なる恐怖だった。

 初めての最大音量の絶叫だった。


 そこからは必死だった。

 全身を使って抗った。

 角で突き刺そうとして奴の体を覆う障壁に折られ、爪で引き裂こうとして、同じ障壁に逆に割り砕かれ、牙で咬み千切ろうとして、障壁を穿てず、全ての牙を失った。


 それでも、我は抗いを止めなかった。

 咆哮や、魔力を使っての攻撃の手を緩めなかった。

 奴には何の効果もなかったが…


「死の恐怖や暴力の痛みを思い知ったかい?わからないなら……今度は全身の骨にわからせるしかないけど?」

それでも抵抗は止められなかった。

この世界の主の矜持として、こんな小さい人間などに負けるわけにはいかなかった。

結果として、奴からの2度目の攻撃が始まった。


「辺りに生きる命も自分と同じく、痛みに怯え、精一杯生きている事を理解しなよ。生きる糧を手に入れる事を否定はしないけど、弄ぶのは相手に対して失礼だよ!」

言葉1つ1つを話しながら、我の身体中の骨を砕く奴は、酷く悲しそうな表情を浮かべていた。

魔力も尽きて、身体中の骨を砕かれて、内蔵に折れた骨が、突き刺さった状態でうずくまる我の目の前に、奴は静止した。


「もう、何も出来ないと思うけど…反省した?」

くっ!

殺せ!

我を使って、様々な宝具を作り出すが良い!

我のあとをとって主として君臨するのも良かろう。


「いやいや、金にも困ってないし、宝具なんていらないよ。君臨なんて馬鹿馬鹿しいし。僕が求めてたのは全く違う事だったよね?反省したかと聞いているよ」

反省とはなんだ?

それは何を意味している?

そんなことはしたことがないので知らんな!


「本気で言ってるみたいだね。今まで君が傍若無人に生きてきた事だけはわかった…」

ふん!

もういいだろう。

さっさと殺せ!

この世界の主に生き恥を晒させるな。


「君が?主?世界の?あははははっ。面白い冗談だね。僕に良いように翻弄される君が、そんな大それた存在なわけないじゃない。君より強い存在を僕は最低でも7名知ってるよ?」

なんだと?

お前以外にそんなに我より強い奴が!?

あり得ない!!


「君より実際強い僕が言ってることが、信じられないの?」

うっ!

確かに、我は負けた。

ならば、敗者の我に何も言えん。

もう良いだろう!

殺せ!


「だから、君を殺しても僕には何も益がないんだってば!反省して、今後は気安く喧嘩を吹っ掛けたり、他人の話を無視したりしちゃダメだよって言ってるの!君は僕より弱かったんだから、僕の言うこと聞くんでしょう?」

はぁ?

まぁ、良かろう。

もう、我も長くない。

事切れるまでの、数分間だ。

その指示に従ってやろう。

しょせん戯れだ。

話は終わりださっさと去るが良い…


「はい、契約を頂きました。約束したからには、破ろうとしたら激痛を伴うペナルティがあるからね!具体的には、今味わった痛みを感覚のみで再現します」

だから、あと少しでこの世を去る我にそれが何の関係があるのだ…

心底どうでもいいわ!


「ん?ヒーリングブロウ」

何を?

身体から痛みが消えていく。

なっ?

鱗と爪が生え揃った?

角や牙までが?

あぁ…

なんと心地の良い風…

はっ!

我は何を?


「はい、これで死ぬ心配は無くなったよね!当然、さっきの約束もちゃんと生きてるから、忘れないようにしてね?悪意のある契約不履行はさっき言った通り、酷い目にあうから気をつけて」

余計な事を!

後悔させてやる!

死ね!

死…

死ぬ!

死んでしまう!

ぐぁああああああ!

痛いぞ。

痛い痛い!!


「ほら、言った通りになったでしょ?気を付けないと、その痛みはどんどん強くなるからね?幻痛だから強さの際限も無いんだよ?」

くそ!

もう死ぬしかないから、戯れにした約束で、こんな状態に縛られるなど!

こうなれば、自爆だ。

自爆しかない!


「あっ!止めときなよ!それも、契約違反に該当するから、痛い目にあうよ!」

あがっ!

あばばばばばばばばっ!

更なる痛みが?

何をしてくれとるんじゃい!

さっさと契約解除しろ!!

こんな理不尽に耐えられるか!!


「契約の解除なんか僕がすると思う?君さ、全く反省していないじゃない…有り得ないでしょう。まぁ、真面目に普通に生きてく分には、大丈夫だからさ。頑張ってよ。あぁ、鱗とかは放っておくと勿体ないから貰っとくね」

何だってーーっ!

くっそーーぉ!!

もうふて寝してやる!

バーカバーカ!


 再生して、綺麗になった我の頬を悔し涙が伝っていく。

 しかし、その涙が地に落ちることは無かった。


「そんなに泣かなくても…おっ、そうだ。ドラゴンの涙なんて、凄い素材を捨てたら勿体ないから、それも貰っとくね?」

こいつ嫌いだ!!

もう会いたくない!


 この後、滅茶苦茶ふて寝した。

楽しんで頂ければ幸いです。

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