31記憶消去と復活の瑞木
宿の部屋に帰りつくと、いつもの声が飛んでくる。
「いい加減腹くくりなっ!いつまでも泣いてんじゃないよ」
元気な叱咤の声だ。
「でもさ、もうどうすれば良いか。わからなくなった」
流れる涙は止まらない。
「瑞木!!良く考えな。今日はこのレストに来て何日目だい?」
なに当たり前の事を言ってるんだろ?
「昨日来たところだから二日目だよね」
「たった二日だよ!!たったのね。しかもまだ終わってない!!その二日の間に瑞木は何をしたか。思い出してみな」
「初めてのデート」
「それが一番かい!?まあ童貞としては正しい姿か。他にも一杯あるさ!!初めての戦闘に勝利。初ギルドに初の褒賞金。初めて宿に泊まって、初魔法も忘れちゃいけないね」
初めて尽くしだよね。
「うん」
「そして、剣と魔法を使って狩りを続けてアンタのレベルは28だよ。伝説の精霊魔法が信頼級だ。金だって手持ちは百万ラードを超えてるじゃないか。アンタは二千万円近くをたった二日で手に入れたんだ」
まぁ、インフレしてるけどね。
「頑張ったからね」
「うん。頑張った。でも…頑張りすぎだよ。私だってたった二日でこんなに成し遂げるなんて思っていやしなかったんだ」
でも足りない。
圧倒的に!!
「頑張ってもさやかさんには届かなかった。足りなかったんだ」
「違うよ。さやかには足りてたんだ。ただアプローチの問題だけだったさ!!相性を見てみな。下がってないんだよ?あれだけ泣いて喚いても、瑞木に対する信頼そのものを下げるだけの要因になってないのさ」
榊さんの言ってた話か。
「つまり?」
「話の持って行き方を間違えただけで、やり方は間違っちゃいなかった。そういうことさ」
マジですか。
「どうすればいいと思うのさ。どうすれば良かったんだろう?」
「まず寝な!!なにも考えずにだよ!どうすれば良かったかも考えるのを止めちまいな。無駄だし心労が増えるばかりさ。次回があったらちゃんと検討する時間はあるよ。でも今はその時じゃない」
「でも!!でもっ!!もう時間が無いんだよ。さやかさんと話しててわかったでしょう?もう、皆食糧が尽きちゃう!!また…またあの時の表通りにいたあの子の様に!人がゴミの様に!!いや、ゴミとして棄てられるんだ!!」
「原因はそれかい」
そうさ!!
「もう絶対嫌なんだ!!あんな、あんな光景!!防ぐんだ!!きっと!!あの子のような餓死する人を助けたいんだ!!」
「瑞木、落ち着くんだ…落ち着くんだよ。確かにアンタには出来る。必ずだ。私も全力で力を貸すからね。でもね。今は無理だ。努力しても頑張っても無理なんだよ。今は……諦めな」
「嫌だ。諦めない……。あの何も見つめない乾いた瞳をまた見るなんて耐えられないよ。年端のいかない子供が乾いていく…そんなのダメだ。社会としておかしい。そして、僕が許さない!!絶対だ!!」
「……わかったよ。……助けな。榊が言ったように……。明日から二人で救おう。直接な。食い物を恵美に用意させて下町を回ろうじゃないか」
「でも、それじゃあ一時しのぎにしか……」
「一時しのぎ上等じゃないか!!人はね、生きていてこそ輝けるってもんだよ。瑞木、アンタのその気合いで一時しのぎと抜本的解決の両立が出来ないとでも思うのかい?」
ご冗談を!!
「出来ないだって?馬鹿なことを言わないでくれ。やるのさ!!出来るとか出来ないじゃない。絶対に成功させるんだ。失敗なんかさせるもんかよ!!」
「さすが私の見込んだ男だよ。良い啖呵だ。惚れちまうねえ」
僕は既に惚れてるけどね。
「あぁ頑張るさ」
「でもね。今、頑張っちゃまずいって言ったろ。まずは忘れて寝な!!ゆっくり休んで明日の朝から動きだそう」
嫌だ!!
「無理だよ。あの光景を思い出すんだ。あの光景が……立ち止まるなって急かすんだよ」
「いい加減にしな!!このままじゃ瑞木が壊れるってんだ。いや、既に壊れかけてるよ!!もう…もう忘れな。私が忘れさせてやるからそこに横になりな」
えっまさか?
愛の奇跡で?
言われたとおり横になる。
「一時しのぎにしかなりゃしないが、上等だよ。さあ目を閉じるんだよ」
セーフが息を飲む音が聞こえる。
ついに大人の階段を?
「いくよっ!!記憶封印!!」
えっ!?
びっくりして目を開けたところで光が集束していく。
「これで、もう大丈夫。瑞木悩みはあるかい?」
何いってるのさ。
「さやかさんに振られたんだよ。一番って言えばそれでしょ?」
「さて、明日からはどうしようか?」
んー。
しばらくはさやかさんは話聞いてくれないって話だし…
「榊さんの言ってたみたいに浮浪者の子達を助けながら、声をかけて仲良くなれる子を探そうかな。一時しのぎと抜本的解決を両方やるんだからさ」
「どうやら上手くいったみたいだね。私の力じゃ二日位しか持たないけどね」
なんの話?
「どういう意味?」
「とりあえず明日考えれば良いことさ。さぁ飯を食って、風呂に入って寝るよ!!腹が減っては戦は出来ぬって言うだろ」
「そうだね。まずは晩御飯だな。恵美さんに明日持ってくご飯も依頼しなきゃね」
こうして、瑞木はかつて少女だったものが運ばれていく光景を忘れた。
瑞木美孝18才
レベル28(1)
体力値215(1)=215
魔力値219(1)=219
力339(1)=339
知力231(1)=231
俊敏さ214(1)=214
器用さ220(1)=220
幸運値250(1)=250
魅力437(1)=437
風10(1)=10
称号
貧乳好き、童貞、心清き者、地母神の養い子、殺害童貞喪失、狩人、精霊の親友
スキル
鑑定、他種族言語理解、スキル取得補正、レベルリセット、緊急避難、スキルリセット、収納ポケット、レベルアップ時の魅力値上昇十倍補正、範囲観測初級、叱咤激励、大声、槍レベル13、剣レベル8、投擲レベル19、打撃レベル1、短剣レベル20、解体・交渉・召喚中級、精霊魔法信頼級、回復・催眠・風魔法・馬術初級、降霊術
相性
綱芳(260)さやか(653)恵美(105)風の精霊(5,8)武司(70)
奴隷
なし
設定
一部非表示
楽しんで頂けましたか?
実はこの後、21時から瑞木の心に大きな傷をつけた少女の話を投稿します。
その時にまた会えれば幸いです。