28二つの交渉と僕の告白
「いきなり叫んでどうしたの?」
びっくりした様子でさやかさんがきつく抱きついてくる。
嬉しいっ。
「何でもないです。新しいスキルを手に入れたので、びっくりしたんですよ」
「えっスキルを知覚できるの?凄いわね」
鑑定の力だっけ。
「多分、努力次第ではさやかさんも手に入れられそうですよ?」
「そんなこと出来るものなの?」あれ?
「あまりその事を話すんじゃないよ」
セーフに素早く諌められた。
「すみません。多分ですから、なんとも言いがたいです」
「そっかぁ」
一応納得してくれたみたい。
「この世界に鑑定は無いんだから、不用意に情報をばら蒔くようなことは慎みな。まだ、この子は仲間にすると決めたわけじゃないんだろ?」
囁くようにセーフが伝えてくる。
「そうだけど、出来れば仲間になって欲しいよ」
小声だ。
「それなら止めないけど、伝え方は考えな」
そうだね。
「ところで、コイツらはどうしたら良いですか?」
「さっきも話したけど、強盗の現行犯だから、殺しちゃっても一応大丈夫よ」
穏やかじゃないな。
「そこまでしたくないですよ、警察とか衛兵に引き渡したいんですけど」
「警察って何かわからないけど、衛兵には引き渡せるわ。初犯みたいだから褒賞金はでないけど、殺す手間は省けるかしら」
えっ。
「基本死刑ってことですか?」
「そうね。食糧に余裕があれば懲役や禁固刑もあったけど、今の状態で無駄飯食いを養う場所は無いわ。悪質な犯罪者には死んでもらうって、国王様が演説していたから間違いないわね」
厳しい!!
「そこまではしたくないなぁ」
「優しいのね。下手したら殺されてたのに」
そうなんだけど…
そうなんだけどさ。
「そのとおりですけど未遂ですから」
「じゃあどうするかは、瑞木君が自分で決めなきゃね」
そうなりますね。
「取り敢えず、ロープは用意してあります。目を覚ます前に縛り上げましょう」
「手伝うわね」
うん。
「ありがとう」
道の真ん中や建物の影で昏倒する一味を縛り上げ一列に並べて、各々の足を隣の奴に結び付けておく。
三十八人三十九脚状態だ。
「刃物を持ってないか調べなきゃ」
そうだね。
「セーフよろしく」
小声だ。
「あいよっ。コイツとコイツだけだね」
素早い。
対象の輩を調べてナイフを取り上げておく。
他の奴も一応調べるふりだけはしておいた。
勿論、襲ってきた時の武器は、取り上げ済みだ。
「さて、次は確認だね。称号を見てみようか」
調べると殺人と強姦の称号が付いてる奴が一人だけいた。
声を掛けてきた奴だ。
それ以外の奴等は逆にごく普通の称号しかなかった。
全員未婚だったけど、恋人がいる奴すらいる。
……羨ましい。
きっと、今回みたいな事がなければ真面目に働いていたものと思われた。
「うーん。どうすっかなぁ。まず、コイツだけは衛兵に引き渡すことに決定だけど、問題は他の奴だよな」
「何でコイツだけは衛兵なの?」
不思議顔ですね。
「コイツだけ殺人二件と強姦を五件犯してます。弁明の余地はないと思いますからね」
「なんですって?」
視線に殺気が篭る。
「だから衛兵に引き渡します」
「そうなの」
残念そうに指をワキワキさせないでよ。
可愛いけど時々怖いんだよね。
流石元冒険者か。
「残りのは起こして、説得してみるか」
衛兵に引き渡す南口白宇右衛門だけ別個にして、ロープでぐるぐる巻きにして足元に転がした。
踏みつけて、目覚めても逃げられないようにしておく。
「我が友、風の精霊よ。彼の者達に目覚めの風を与えたまえ。ウェイクアップ」
「うわっ」「何だこりゃ」「イテッ」
騒がしく起き出した。
立ち上がろうとして転がる奴も二人。
「黙って聞け」
ざわめきは止まらない。
「黙って聞きやがれ!!」
最大限の大声で叫んだ。
ポーン。スキル【大声】を取得。
取り敢えず静かになった。
「お前らは、俺が捕まえた。衛兵に引き渡せば死刑だ」
告げた途端、悲鳴が上がる。
「知らなかった」「助けてくれ」「嫌だ」
ざわめいている。
「黙れ!!」
スキルの影響か、今までで一番響き渡った。
「次勝手に喋った奴は首をはねるぜ」
静かになった。
「俺はお前らの事なんか知らないが、殺されかけた。殺人未遂は死刑だそうだ。このまま衛兵に引き渡せばな」
物音一つ聞こえない。
「だが、取り敢えずお前らを衛兵に渡す予定はない」
歓声が上がった。
「死にたいのか!?」
止まる。
「タダでとは言ってないぞ。条件を伝えるから、静かに聞け」
無言まま、首を縦に振るものが続出した。
「一つ、二度と俺を襲わないこと。二つ、今回参加しなかった奴にこの事を伝えて、次はないと知らしめること。三つ、インフレが終わるまで待て、以上だ」
一人から手が挙がる。
「手を挙げてる奴言ってみな」
「三つ目はどんな意味があるんだ?何を待てと?もう食糧は底をつく。女の勇者も来るって言うし時間がねぇんだ」
焦りすぎ。
「俺が交易の再開のための準備をしてるんだ。お前らが邪魔しなければ、一週間で目処をたてる予定だ」
「どこにそんな保証があるんだよ!!」
喚き出した。
「うるせぇ。納得できねぇなら今ここで死ぬんだな!別に、お前に明日の朝日を拝ませてやる義理は、こっちには欠片もないんだぞ?」
大声スキルが良い仕事してる。
「文句があるなら手を挙げろ、衛兵に引き渡してやるぜ」
手は挙がらない。
「一つだけ気を使ってやろう。俺は今から狩りに行く。肉をだ。交易が回復したら俺の仕事を手伝うつもりがある奴には狩ってきた肉をやろう。その肉で食いつなげるだろ。どうせ一週間くらいだ。十もあれば足りるな?」
歓声があがった。
「じゃあ、さっきの誓いを一人づつ誓え。そうすりゃ縄を切ってやろう」
「なんだっけ?」
って奴が三人ほど居やがった。
「1俺に手出ししない。2俺の実力を周知して次は死ぬということ。3インフレが終わるまで待て。以上だ」
結局一時間ほどかかって、全員に誓わせて、縄を解いた。
「俺も誓えば良いのか?」
足の下から声がかかる。
南口だ。
「いや、お前は死ね」
言い捨てると、無理やり顔をあげ目が限界まで見開かれた。
「なんでだ!!奴等と俺の何が違うってんだ」
うん、違う。
「殺しと強姦。心当たりがあるはずだよな?」
「いやっそれは…その」
ギルティ!!
「スリープクラウド」
お前はそのまま消えてくれ。
「じゃあ、衛兵に引き渡しに行きましょう」
「そうね。でもさっきの瑞木君と今の瑞木君はどちらが素なのかしら?」
えぇっ?
心外だなぁ。
「さっきまでのは演技ですよ。証拠に誰も殺してないでしょう?」
「ちょっと失礼」
首から下げているギルドカードを摘ままれた。
「昨日までレベル6だったわよね?それが今日はもう28。普通に考えて初陣も昨日よね?恐ろしくなってしまうわ」
僕は時々貴女が怖いんですけど。
「ある人に精一杯頑張るって約束したんです。努力すると」
「頑張り過ぎな気がするけどね。だって貴方、私の四年間を一日で楽々超えていっちゃったんですもの。嫉妬しちゃうわ」
俊敏さとか、現時点ではさやかさんには普通に敵いませんよ。
「いや、さやかさんの方が強いと思いますよ?」
「レベルが8も違うんだからあり得ないわよ」
「戦い方次第ですよ。僕じゃ敵わない部分が絶対ありますから」
「どこだっていうのよ」
「魅力ですよ。さやかさんに微笑まれたら、僕では全く敵いません。降参しますよ。心を撃ち抜かれちゃいますから」
「はぁ!?」
目を見開いてあんぐり開けた口が非常にキュートだ。
食べちゃいたい。
「だから怖がらないで下さいね?」
笑って告げる。
「バカねっ!!そんなこと言われたら二の句が継げないわよ」
かーわいいネ。
「さぁ衛兵のとこに行きましょ」
「こっちよ」
わかってらっしゃる。
「はい」
衛兵への引き渡しは滞りなく終わった。
罪状を告げると、非常に事務的に「死刑だね」と呟かれた。
南口白宇右衛門に二度と会うことはないだろう。
「さて、目的は果たしましたが、まだ時間も早いので森へも行きたいのですが、お付き合い頂けますでしょうか?」
「喜んで」
良い笑顔だっ!!
誰にも渡したくねぇ。
馬に乗って森へと向かう。
二人乗りだ。
さやかさんが前で僕は後ろ。
途中の門で、門番の松本くんが目を剥いて、仮眠室に飛び込んでいった。
挨拶くらいすれば良いのに。
そのまま森へと馬を進める。
「さっきの魔法を駆使して戦闘をしてるの?」
馬に乗ってるから顔は見えない。
「さっきの魔法は使わないですね。殺さないために使った奴ですから。いつもはもっと殺傷力が高いです」
「あの強力な魔法を使う必要がないってこと?今日はあの大量のコボルトをどうやって狩ってたの?」
まぁ、さっきの奴等の為に習得したしね。
殺してくないからさ。
「初回は、昨日狩った獲物の血の臭いで誘き寄せて仕留めて、その後は血抜きの血に勝手に集まってきましたから、投擲と槍で狩りましたよ」
「それで血抜きがしっかり出来てるのね。」
好評らしいね。
「えぇ。肉は血抜きをしっかりしてやると旨いですからね。大地の恵みは美味しく味わってやらないとバチが当たります」
「普通は出来ないのよ?コボルトは血の臭いに敏感だから、すぐ集まって来ちゃうの」
確かに。
「ええ、そうですよね。お陰で初回は血抜き作業と耳の切り取りで息つく暇もありませんでした。積み込みをしてくれた綱芳さんに感謝です」
「あれ?二回目以降は耳の切り取りしてないわよね」
そうですな。
「二回目以降は、血抜きの為に作った池に集まってたコボルトを、魔法で一網打尽にして、積み込むだけの簡単なお仕事でしたから。血抜きも狩った時点でほぼ終わってますしね。散発的に来る群れの対処をしつつ積み込んで終了です。やっぱり綱芳さんに感謝です」
「コボルトを一網打尽ってなんの魔法なの?」
呆れ声だ…
顔を見なくてもわかる。
「それはですねぇ。言ってしまうと効果が発動しちゃうので、あそこの樹の枝を狙いますね。…ウィンドカッター」
枝にむかって呟く。
風が樹の一枝をバラバラに切り刻んだ。
「ありがとな…」
礼を言う。
「凄いわね。詠唱に力を込めるでもなく。確かにあんな魔法を使ったら血の海ね」
そうですよ。
「殺さなくて済むものは、殺したくないんです」
「貴方らしいと言えば良いのかしら。でも、それが出来るだけの力があるものね」
普通の考え方とは違うかもしれませんけどね。
「まだまだ、足りないものだらけです。精霊魔法は結構上達しましたけど、その他の魔法は全然ですから」
「…貴方…また無茶なこと言ってる自覚が無いようね。精霊魔法って伝説上の魔法なのよ?」
珍しいとしか聞いてませんが?
「何か問題でも?」
「いいえ。威力に納得しただけよ。普通の三倍でも当たり前だってね」
ふぅむ。
「三倍…まだまだ精進しなければいけませんね」
「…貴方はいったい何を目指してるのよ?一番強い奴に会いに行きたいとか言い出さないでよ?」
何故貴女がその話を知ってるのか…
「貴女は知ってるはずですよね?僕の目指す先を」
「あの優しい願いの為か…本当にそうかしら?」
ん?
「僕が嘘をついていると?心外ですね」
「そうじゃないわ。でも…目的じゃなくて、手段を説明してる感じが少しするのよ」
そんなつもりはないけどな。
「そう言えば、準備がさっき整ったので、希望の力について話しましょうか」
「そうね!!聞きたいわ!!少しだけ怖いけど…」
怖い…か。
「瑞木、大丈夫かい?この子は言い方を間違えると大変だよ?」
そうだよね、鋭いものね。
「ありがと、精一杯やってみるよ」
小声だ。
森の中でも小高い丘になり、周りを見渡せる場所にたどり着き、馬を降り、二人向き合うように立った。
「少し待ってね索敵だけするから」
良し大丈夫。
「周りには敵はいませんね。では、……希望の力とは、僕のパートナーです。ただし、性奴隷でなくてはいけません」「えっ!!」「バカだね!!」
二人の叫びが響いた。
瑞木美孝18才
レベル28(1)
体力値215(1)=215
魔力値219(1)=219
力339(1)=339
知力231(1)=231
俊敏さ214(1)=214
器用さ220(1)=220
幸運値250(1)=250
魅力437(1)=437
風10(1)=10
称号
貧乳好き、童貞、心清き者、地母神の養い子、殺害童貞喪失、狩人、精霊の親友
スキル
鑑定、他種族言語理解、スキル取得補正、レベルリセット、緊急避難、スキルリセット、収納ポケット、レベルアップ時の魅力値上昇十倍補正、範囲観測初級、叱咤激励、大声、槍レベル13、剣レベル8、投擲レベル19、打撃レベル1、短剣レベル20、解体・交渉・召喚中級、精霊魔法信頼級、回復・催眠・風魔法・馬術初級、降霊術
相性
綱芳(260)さやか(652)恵美(105)風の精霊(5,5)
奴隷
なし
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