27インフレ考察と風の精霊の祝福
「じゃ、行きましょう」
ジュースの代金を猫耳お姉さんに払って店を出た。
「インフレの影響がすごいですねぇ」
一杯が千ラードしたんです…
一番大きいサイズに至っては三千ラードですって。
「恐ろしい値段だったわね」
あれ?
「ご存知の値段と違ったんですか?」
「最近までは二百ラードだったのよ。1ヶ月前に飲んだの」
おかしいでしょう、その上がり方。
「1ヶ月で五倍は辛すぎますよ、更に前はいくらだったんです?」
「嗜好品だものね。他のものとは比べ物にならないくらい上がってるわ。半年前なら二十ラードだったもの」
うわぁ。
「普通の値段の五十倍じゃないですか。完全に異常ですね」
セーフの顔の曇り具合が半端ない。
「騎士の壊滅以来、全然荷物が入って来ないから、食料品関係は値上がりし続けてるのよ」
うーん、平然とし過ぎでは?
「すごく大変な状況だと思うんですけど…なんでそんなに平然としてるんですか?」
「やっぱりそう思うわよね!!瑞木君はお話聞いてくれるのね!!良かった!!」
すごい食い付きだ。
鎧を引っ掴まれて顔を寄せられた。
さやかさんの顔が物凄く近い。
このままだと、唇を食んでしまいそうだ。
「ど、どうしたんですか。いきなり」
「実はね。今みたいな話を冒険者の頃の仲間や今の同僚やギルド長なんかにしたのよ。困りますねって」
世間話としては普通だよね。
「何かあったんですか」
「それが何もないのよ。無反応なの。皆、「そう」とだけ言って無言だったり、「そんなことより」って話題を変えたり、危機感がまるで無いのよね」
あぁ……
これって、あれの影響だ。
「自己の奴隷化の影響じゃないか!!」
セーフの声が響き渡った!!
僕以外聞き取れないけど。
「僕の他に話に乗ってくれる人はいないんですか?」
「いるけど…身内と門番仲間の人だけね」
辞めずに残ったっていう良い人達のことね。
「だから、諦めてたってことですね?」
「そうなのよ。何度話をしてもあんな反応だから、気にするべきじゃないのかなと、無理やり思ってたのよね」
まぁ、人間だもの。
聞いてくれない話を何度も続けるのはものすごく疲れちゃうよね。
「気にするべきです!!」
「瑞木君なら、そう言ってくれると思ってた!」
すごく良い笑顔が浮かぶ。
「というか、僕はまだこの町に来て二日目ですが、おかしいことだらけですよ」
「何故?」
「まず、危機感がないですよね?インフレがこれだけ起きてたら、明日の食事も不安になりませんか?」
「あぁ、それは備蓄が影響してると思うわ。ここは貿易都市だから、今回の事は想定されてたの。だから、どの家にも備蓄が半年分あるのが普通よ」
は?
「半年!?半端ない量ですね。どこにあるんです?」
「家の地下に、結界を張って入れてあるわね」
「魔法凄い!!だから、物価が多少あがっても興味薄いんですね」
「多少とは言いづらい気もするけど…」
そうだね。
「確かに。長く続けば尽きちゃいますからね」
「そうなのよ。騎士団の壊滅から約6ヶ月。うちは宿屋だから、大容量の倉庫を持ってて、まだ余裕があるけど、普通の家だともう備蓄はないはずなのにね」
え?
「えぇぇ!!全くダメでしょ!!それ!!完全に緊急事態確定じゃないですか!!」
「そうなのよ!!なんで騒がないのか。私にはさっぱりわからないのよ!!良かったぁ。同じ気持ちを分かち合える人がいて」
いや…
良くはないでしょ。
「気にしないでいられる根拠が全く不明ですよ!!」
「皆が言うには、国王様が手立てを講じてくれるから心配ないって」
何を言ってるのか!!
「バカな!!既に餓死者が出てるのに、手を打たない国に何を期待できるというのか!!」
「瑞木君。声が大きいよ。流石に不敬罪に問われちゃうよ」
おぉ激昂してた。
「すみません。我を忘れました」
「良いのよ。私も思いは同じだしね」
落ち着こう。
「話を戻して、他にもおかしいことはあるんです。一つは外からあまりにも荷が届かない事。門から町に入ってくる業者を見たことがない」
「うん」
「もう一つは、モンスターが画一的過ぎること。出没するモンスターが、オークとコボルトとゴブリンだけなんて確実に変ですよ」
「そうなの?」
えっ…
それは元からなの?
「冒険者してた時にさっきの三種以外と戦いましたか?」
「騎士団が駆除してまわってたから、戦闘経験は少ないのよ。でも、さっきの三種以外と会った記憶は無いわね」
マジか…
「騎士団の討伐記録とか見たいところですね。ラード王国が特異的にさっきの三種が多いのか、レストにはそれ以外いないという可能性すらありますね」
「それってそんなに重要なの?」
「結構重要ですよ。今のモンスターの多さは完全におかしいレベルなんです。肉食主体のさっきの三種が暮らしていくには、それに見合った食物が必要です」
「食べなきゃ死んじゃうものね」
真理ですね。
「そう、だけど彼等の食糧になりそうな生き物は皆無で、小型のモンスターも見かけない。更に…彼等が必ず持っているの装備品はいったいどこから来るのか?」
「オークなら剣、コボルトは短剣を二本、ゴブリンは短剣と鎧と盾を持ってるものね」
さすが元冒険者。
「何処からどうやって手にいれてるかご存知ですか?」
「知らないわ。そういうものだっていう認識しかないもの」
まぁ最初からそうなら深く考えないかもね。
「ということで、何らかの母体または支援者がいるものとして考えるのが普通だと思うんですよね」
「そんな話は聞いたことないけど、辻褄は合ってるわね」
「そして、外からの荷物が来ない理由にも関係してるとも思ってますよ」
「どう関係するの?」
「商人の気合を舐めちゃダメです。普通、これだけのインフレ具合なら一大商期に決まってます」
「各地に救援の文を飛ばしてるものね」
「やっぱり魔法でそういうことが出来るんですね」
「お金が凄くかかるけど、流石に国がやってるわ」
「この国の命運がかかってますからね。その状態で荷物が来ないということは、荷物を送っても辿り着けないと考えるのが妥当じゃないですか」
「それもそうね」
納得顔も凛々しいですな。
「つまり、何か強大なモンスターか何かが街道を封鎖してる可能性が高いという結論になりますよね?」
「それを調べに行くのに力が欲しいのね」
そうですよ。
「わかって頂けて幸いです」
「ということは、国王も同じ結論を考えてるのかしら?」
そうなの?
「何故そう思うんです?」
「父に聞いたんだけど、勇者を招こうとしてるらしいわよ。父は悪手だって言ってたけど、そこの調査と殲滅を考えてるなら建設的な方法じゃないかしら?」
その通りですね。
「騎士団の代わりを勇者にさせるのは、無理があると思いましたが、その意味で使うなら妙手と言えます」
「使うのがあの悪名高い勇者ってのがどうにも納得できないところだけどね」
汚いものでも見るように吐き捨てるその顔を見るのは辛かった。
「いや、勇者に何か恨みでもあるんですか?」
「えっ」
端正な顔が目一杯見開かれ口を大きく開いて驚きの表情が形作られた。
さっきの顔の一京倍位可愛い。
「ずっとそうしていてください」
「どういう意味よ!!」
突っ込まれた。
「変態さんが勇者になるって話と勇者イコール蔑みの言葉って位は知ってますが、それが関係してます?」
「伝説の数々を知らないのね…今までかなりの数の勇者が現れてるけど、一つの例外もなく変態だったわ」
原因を考えれば自然だよ?
遠い目になっちゃうけどさ……
「そうでしょうね」
「何故達観してるのかしら?まともで真面目な勇者は私たちの共通の願いだと思うけど?」
そうか…
知らないよね。
「それを求めるのは自然発生的には難しそうですけどね」
「確かに歴史的に見てもそうなんだけど、勇者の伝説はこうよ。基本露出狂で、ものすごくスケベで、口に出すのも憚られる卑猥なことばかりして、卑猥な部分にピアスを千個以上つけてたり、公衆の面前での性交などまだ良い方、もっとずっと卑猥なことを…滅茶苦茶の限りをし尽くしてるわ」
うーん。
逆にそういう人以外はひっそりとプレイしてるんじゃないかな…
人目につかないどこかで……
「簡単にいうと壊れた人しか勇者に認定されてないってことですね」
「そのとおりよ。今回呼ぼうとしている勇者は、女で比較的まともって聞いたけど、本当なのかしら、実際はどうだかわからないわ」
実例があるだけに否定しづらいよね。
「因みに今の話は誰から聞いたんですか?」
「女の子は七歳になるとお母さんから教えられるのよ。実例を細かく説明を受けて、勇者を見かけたらその場からすぐに離れなさいって」
実例を交えてですか?
実例って……
実例ですよね?
「実例は無茶じゃないですか?」
「以前その辺りをぼかして説明してて、興味を持っちゃった女の子の集団三十人が、勇者に会いに行ってそのまま、全員性奴隷になったそうよ。そいつはロリコンだったらしいのよ」
その子達はきっと魅力にやられてるな。
イエスロリータノータッチの精神など…
この世界にはあるまい。
「痛ましい話ですね」
「だから、卑猥だろうが汚かろうが、真実を子供のうちから知らせて、危機感を持たすことになったのよ」
まぁ…
人の親からすれば当たり前でしょう。
「それで嫌な顔をみんなするんですね」
「当たり前の認識だと思うわ」
まぁね。
「普通の勇者が出てきたときに可哀想ですから、決めつけない方が良いと思いますよ」
「そうかもしれないけど私には無理ね」
「そうですか。まぁ立ち話も何ですから、馬に乗りながら、そろそろ森に向かいましょう」
結構立って話した気がする。
だって…
馬は店の隣に繋いであるしね。
「瑞木、来たよっ!!」
セーフの声が響いた。
直ぐに範囲観測を展開して索敵に移る。
「38人か」
「よう兄ちゃん。昼間から良いご身分じゃねえか。女連れで高いジュースなんか飲みやがってよ」
結構話してたけど、出待ちでもしてたのか?
「デートなんです。邪魔しないで貰えませんか」
「その剣と鎧と籠手とすね当てを寄越せば、見逃してやらんこともない」
想定どおり、それが狙いか。
「38人じゃあ、別けきれませんよね?どうするつもりですか?」
「手に入れてから考えるに決まってるだろ!!」
うわっ。
奪い合う未来しか見えないな。
「適当すぎるでしょ」
「どうやって俺達の人数を知ったか知らねえが、全員でかかられたらどうしようもねぇだろう!!降参しやがれ」
そうでもない。
「やってみたらどうです?」
「何ぃ!!死んでも知らねえからな。出てこい、やるぞ!!」
「基本素人臭いな。さやかさん、そろそろ反撃しても問題ないですかね?」
「もちろん。最初の恫喝の時点で黒確定だけど、仲間も出てきたみたいだから、全員黒ね。犯罪者よ。例え殺しても罪には問われないわ」
えっ?
いや、殺す気はないっす。
「なに!?」
髭のおっさんが叫ぶ。
「つまり、誘き出されたのはアンタ等なんだよ」
さやかさんを抱き寄せて詠唱に入る。
「きゃあ」
驚いた顔も素敵だ。
「眠りの雲よ。現れよ。スリープクラウド」
紫の霧のようなものが辺りに現れると、次々と人の倒れる音が聞こえる。
「残りは三人だね、南西の方角に雲を追加しな」
セーフの連絡が入る。
「了解。眠りの雲よ。現れよ。スリープクラウド」
追加で音が聞こえ、一網打尽が完成した。
「これって魔法よね?見たことないけど何?」
興味津々だ。
「召喚魔法で催眠性の雲を喚んだんですよ。体の周囲には風の精霊にガードを頼んでいます。弓で狙われる可能性があったので、宿を出る時から頼んであったんですよ」
「そう言えば、顔近い近いっ!!」
逃げようとするので抱き締めた。
「待ってください。離れたら寝ちゃいますよ。雲を散らしますから、少しだけ待って!!」
「分かったわ」
素直に力を抜く。
「我が友、風の精霊よ。ポーン。【風の精霊の祝福】を手に入れた。取り囲みし雲を空の彼方へ運び去りたまえ」
雲が上に流され、消え去った。
「「ええっ!?」」
セーフと僕の声が響き渡った。
瑞木美孝18才
レベル28(1)
体力値215(1)=215
魔力値219(1)=219
力339(1)=339
知力231(1)=231
俊敏さ214(1)=214
器用さ220(1)=220
幸運値250(1)=250
魅力437(1)=437
風10(1)=10
称号
貧乳好き、童貞、心清き者、地母神の養い子、殺害童貞喪失、狩人、精霊の親友
スキル
鑑定、他種族言語理解、スキル取得補正、レベルリセット、緊急避難、スキルリセット、収納ポケット、レベルアップ時の魅力値上昇十倍補正、範囲観測初級、叱咤激励、槍レベル13、剣レベル8、投擲レベル19、打撃レベル1、短剣レベル20、解体・交渉・召喚中級、精霊魔法信頼級、回復・催眠・風魔法・馬術初級、降霊術
相性
綱芳(260)さやか(552)恵美(105)風の精霊(5,0)
奴隷
なし
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