SSいじわるおばさんエリカの最後
いつもとは毛色が少し違います。
いつもより厳しめな成分多目ですので、苦手な方はそっと閉じてくださいませ…
「何様よ、あんた!!離しなさいよ!なんで私がつかまるのよ!!」
縄を打たれたエリカが薄暗い石造りの建物に連れ込まれてきた。
服飾店で男どもを蕩けさせている仕草や表情は、全く伺い知る事が出来ない有り様でだ…
「お前を捕まえる前にもきちんと罪状は伝えたぞ!!聞いてなかったお前が悪い」
連行してきた職員が、あきれた様子で返答を返す…
「はぁ?聞いたけど納得なんて出来るわけないでしょう」
私が作った書類上の不備は無い。
そのために、わざわざ、白紙に兄夫婦のサインが入っただけの紙切れを、手に入れるために色々と画策したのだから間違いない!!
兄夫婦の財産相続は、問題ない形で完璧に私が受けとることを、証するものになっている。
店の売り払いだって、書類上は私に相続が完了してからの事になっている。
あのガキも、店の子供を身代わりに仕立てて受け答えさせたってのに!!
ガキの事だけはバレたみたいだ。けれど、勝手に出てったガキのことなんざ知るもんかよ!!
「はぁ…なんで納得できないんだよ。お前自身が王とした約束を破ったからに決まってるだろ?」
と、職員が懐から契約書を取り出して見せてきた…
「この紙切れが何だって言うんだい!!このくそ野郎が!!」
口で奪い取って、ビリビリに引き裂いて、半分は胃袋の中に入れてやった!!
ふん!!
これで、内容の確定なんぞできゃしない。
私の前に証拠なんか突き出すから、こうなるのさ!
ニヤリと浮かべた笑みはすぐさま凍り付いた。
「お前らみたいな奴等は、大体同じ事考えるんだなぁ…ほれ。ここにもコピーはあるぞ?まだやるか?原本から何枚でも複製は出来るからな?」
それは、もう一枚の契約書が、職員の胸元から取り出され、複製はすぐ出来ると宣言されたからだった…
「卑怯くせぇ!!」
噛み砕いた紙切れの切れ端が、職員の顔に降りかかる。
「あのなぁ…さっきの自分の姿をかえりみてから言うべきだと思うぞ?あと、この契約書の、ここの部分についてのペナルティーを今から執行するので悪しからず…大人しくする必要はないが、今後の事は考えた方が身のためだ」
「や、やめやがれ!!」
エリカが焦った声をあげても、するすると伸びてきた動く蔓に足を閉じたまま固定され、括られている縄を上に引き絞られて抗えなかった。
直立不動のエリカは、下着を引き下げられ、臀部に赤く鞭の跡をつけられる。
結局、10本のラインが赤く血を滲ませて、刻まれる事となった
「はい、終了。パンツは上げといた方が良いよな?」
言いながら、上げられた下着に、血の跡が3本程滲む。
「いてぇ。もっと慎重にやれや!!」
痛みに身をよじろうにも、直立不動は継続中だった…
「因みに、さっきも言ったが再度同じように破った場合は、グレードアップした鞭を使用して追加で執行する事になるから、気を付けることだな…」
無機質に刑を執行し、下着を元に戻した員が淡々と告げた。
指差すその先には、先ほどエリカを打った教鞭の向こうに、ゴツい棍棒のような鞭や猛獣を調教するための鞭がならんでいる…
「このくそ野郎がぁああーっ!!こんなペナルティーがあるなら、簡単に契約書を渡すんじゃねぇよ!職務怠慢じゃねえか!」
痛みに耐えかねたエリカの怒号が部屋一杯に響く。
「そもそも、サインの時にこんなに、デカデカと書いてある言葉を忘れるお前が悪いんだよ!!あとな、前に契約書を守ろうとして、バカに指を食い千切られた職員が居てな。契約書のコピーは公式に守らなくて良くなったんだ!!」
ラード王国としては犯罪者よりも、職員の安全を重視している様子だ。
因みに、契約書には一番大きな文字で、この契約書のコピーを故意に破損させた場合は、臀部の鞭打ち10回と明示してある。
ついでに、エリカは契約書に書いてある自分のサインと、原本の場合は鞭打ち1000回という記載を見つけてゲンナリした。
「で?私が捕まった理由が?なんだった?」
痛みと羞恥と怒りで、顔を歪ませたまま、さっきと同じ質問をくり返す。
「バカな事をしなけりゃ、痛い目にだけは合わなくて済んだのに…」
一息ため息をつくと、職員はタバコを吸い出す。
「職・務・怠・慢!!」
「うるさいな…いいじゃねぇか、少し位伸びたって…結局、未来永劫、お前が外に出られないことはもうすでに変わらない事なんだから。こんな事を何度も告げなけりゃならねぇ、こっちの身にもなれや!気が滅入るっての!!」
投げやりに職員が口にした言葉は、エリカにとっては衝撃的だった。
「えっ?取り調べは!?」
「終わった。有罪確定」
「何の罪!?」
「ラード王国国王との約束不履行の罪」
「何故有罪なの?」
「契約に記載されてるお前の姪が亡くなった時点で有罪確定。死亡確認が終わってるから、もう罪状も動きようがない」
「はぁ?」
「キチンと書いてあるぞ?子供は我がラードの宝なり、この宝を害した場合、故意、過失によらず、保護を申し出た者が責を負う。特に死亡した場合は、同じ死因で、死ぬ事に同意せよ。って書いてあって…」
「ハイに…レ点がついてるね…」
「な?理解できたか?」
「ま、待ってよ…あの子は両親が死んで不安定だったのよ!!勝手に出てった子供が死んだからって…」
「あのな、さっきの項目で過失でも、ダメって書いてあるだろ?更にこの項目…見えるよな?」
「…万が一、情緒不安的になり、行方不明となった場合は、すぐに城へ届けること…捜索隊とともに探しだし、国でその後は保護する?……もし、届けない場合は殺人と見、な…す?」
「しかも、同意のレ点がしっかりついてるな?」
「なにこれ!?どんだけ子供が好きなのよ!!ロリなの?ロリロリなの!?ロリータコンプレックスなのかしら!?」
「さてな。知らんね…でだ…確定した刑の執行内容だが?聞きたいか?」
「死因と同じだっけ?」
「そうだ…餓死だな」
「バカな…」
「そこの蛇口から水だけは出るぜ…せめてもの慈悲だ。あと、この契約書はここに貼っておく。これを読んで反省しろとさ…言っとくが…破損の条項は生きてるからな?」
「くそ野郎が!!さっさと失せろ!!」
「言っとくが泣いても叫んでも無駄だ…ここは、城の地下、特別収容牢。俺以外には誰も近付かないからな…」
「ふん!!」
最後の会話から3日、エリカは弱っていた。
拘束されていた縄は、あの男が居なくなった途端に蛇になって、牢の外へと這っていった。
足を拘束していた蔓も同時に消えている。
静寂が自身を押し包んでいて、気が狂いそうになるのを自覚する。
「この契約書も、何度も読んだのよね…」
生き延びる可能性があるとすれば、この契約書のこの項目にかけるしかない。
だが、それはあまりにも部の悪い賭けだった。
因みに、もし、姪を立派に育て上げた場合の恩賞と謝礼金は、色々画策して手にした金が雀の涙に思える位には良い金額だった…
契約書を良く読まずにサインした私の尻を蹴り上げたい気分だ!!
「やっちまったことはしかたねえ。やっても、やらなくても死ぬなら、やるだけよねぇ…」
呟いた時に、空気の揺らぎを感じた気がした。
「ん…んん?兄さん!?そこにいるのって兄さんよね?」
牢の外に佇む人影を見つけたのだ。
「こっちに来て!話をしましょう!」
力の限り呼び立てる。
その後、3時間以上に渡って呼び続けたが、その影は微動だにしなかった。
エリカは叫びすぎて、気絶した。
「あれ?私は…?」
朝、目覚めると、影は消えていた。
「くっそーっ!!ラストチャンスが!!」
ひとしきり、色んなものを罵った後、ふて寝した。
「ん?」
ふて寝して、数時間。
昨日の影はより近くに立っていた。
そして、近くに来たことによってわかってしまった事がある!
「これ、人形じゃねえか!!」
かなり精密に作られた人形だった…
「死ねぇ!!おちょくりやがって、死ぬがいい!!」
悪態を人形に浴びせて、再び、ふて寝に戻る。
「またかよ!!いい加減死ねよ!!」
次の日も、人形は置かれていた…
初日と同じ位置に…
「一昨日のバカな私を思い出すからどけろよ!!」
当然、怒りが込み上げてくる!!
勝手に道具屋を手に入れて売った話や、姪を虐めた話まで持ち出して、罵った。
そう、その影がクルリとこちらを向くまでは…
「に…兄さん?」
「よぉくわかったよ。よぉくな!!良くもうちの子を…鈴華を殺してくれたな!!」
本物だった…
「え?じゃあ、あのガキも復活してるんじゃないの?何で来てないの?」
「鈴華はなぁ!!何も言わなかったんだ!!お前の名前を聞くと、泣きながら震えだしたが、それだけだ!!何を聞いても全く答えない!!今日はお前から、直接話を聞きに来たが…よくわかったよ。お前が最低だってな!!そこで、乾ききって鈴華の気持ちを理解するといい!!」
そのまま、兄は歩き去っていった…
「そんな…待ってよ!!鈴華ちゃんを連れてきて!!お願いよ!!」
兄は振り返らなかった。
「お前なんかに会わせたら鈴華に更なる傷を負わせちまう。俺はお前の事を忘れる。鈴華にも思い出して貰いたくない!!」
歩みを止めないままの言葉、既に独り言に近かった。
「畜生ぉおおおーっ!!鈴華が来ねえと私はここで死ぬしかねぇんだ!!戻ってこいよ!!鈴華の奴を連れてこい!!」
既にその瞳は視点が合っていない…
そんな言葉を吐いて誰が立ち止まると言うのか!
60日が経過し、牢に動く者が居なくなった…
あの職員が現れ、カラカラになったエリカを、床に叩きつけて、粉々に粉砕した。
甦ることの無いように、焼却炉に運んで、火を入れる。
ついでに、タバコにも火を着けた。
「結局、反省の言葉は無かったな…まぁそんなもんか…折角の契約書の条項も無駄になっちまったな」
剥がしてきた契約書を眺めながら呟いた。
契約書に記載された内容は、何らかの理由で殺害した場合でも、殺害された者が甦った時、殺害された本人が契約者を許せば、刑の執行を取り止める事が出来るとなっている。
ここに来たのは、姪ではなく兄だけだった…
契約書も焼却炉に放り込んで、鞭使いにして掃除夫の彼も去っていく…
あとには、静寂のみが残った…