SS戦鬼と雷神
さやかさんが、出勤した理由が判明します。
「ただいま…」
「おう、サリー、お帰り!!どうだった?」
「あんたの娘、残念だけど諦めて…」「殺す!!私の娘を返しな!!」
「うわっ!!待て!!話を最後まで聞け!!私とアンタが戦ったら、この家がオシャカになるよ?良いのかい!?」
「駄目だよ…ここは私と武司さんの愛の巣なんだから…表へ出な!!」
「いい加減にしな!!可愛い娘が落ち込んでるから、話を聞いてやってくれと、土下座して頼むから行ってきたのに!!その態度がアンタの言う誠意ってやつなのかい?」
「すまん…一言もない…」
「全く…子供と旦那のことになると、見境無くなるんだから…」
「武司さんかい?武司さんは誰にも渡さないよ!!私の命なんだから!!」
「はいはい、取りゃしないから話を聞きなよ!めんどくさい子だねぇ」
前に、あんたの旦那なんて要らないと言って、半殺しの目に遭ったから、言い方に気を付けてる…
全くもって面倒くさい子だ…
「で、何を諦めるんだって?」
「よーしよし、良い子だ、私の話を聞いてたじゃないか…偉いぞ、ポチ」
「あたしゃ犬かい!!しまいにゃ殴るよ!?」
「いぢぢぢ、殴ってから言うんじゃないよ。このバカ戦鬼!」
「アンタがポチとか言うからじゃないか!!自業自得だよ。アホ雷神!!」
「その2つ名は、結婚と同時に返上したんだ。雷神なんて呼ぶんじゃないよ!!」
「五月蝿いねぇ。アンタは30年も前から雷神なんだから、雷神で良いんだよ!!私の目が黒いうちは返上なんてさせるもんか!!」
「ったく。お互いに40もとっくに過ぎたのに、戦鬼だの雷神だの呼ばれてどうすんだい…」
「ふっふっふ…私ね精神年齢は3才だから、別にいいのさ」
「いいの?本当に?」
「あぁ、もちろんさ!!」
「玲子、アンタが良いなら、もう何も言わないよ…好きにしな…」
「好きにするに決まってるじゃないか!!」
はぁ…
付き合いきれないね。
「話を戻すよ。玲子、アンタの娘は、例の瑞木君に首ったけだ。大好きなんだとさ…」
「大好きねぇ…」
玲子は苦渋に満ちた顔を浮かべる。
「昼前に部屋に行ったらベッドに腰掛けて放心してたんだ。昨日泣きすぎたのかねえ…声をかけたら、喉が乾いたって、水を随分飲んでたよ…」
「それで?諦めなってのは!?」
「会えないことが、苦しいって泣くんだよ…昨日、話を聞かなかった事を凄く後悔したって言うのさ…真面目なあの子が理由もなく、アンナ事言うわけ無いのにってね。結局何の事かは聞けなかったけどね…」
「だから?」
「聞けば、冒険者なんだろ?で、さやかはギルドの受付だ…行きなって行ってやったのさ…」
「そしたら?」
「最初は、今日は代休で休みだから、行けないとか言ってたが、悶々として過ごす休日が楽しいのかい?って聞いたら、すぐに仕事着に着替えて出掛けたよ」
「さっきの言葉の意味は…」
「あぁ…あの調子なら、結婚なり、ベッドインなり、秒読みだろ?だから、諦めて祝福してやりなって言いたかったのさ…」
「はぁ…そうかい…さやかが覚悟を固めちまったのかい…」
「なんで、そんなに悲しそうなんだい!?娘の門出を祝いたくないってのか?」
「あぁ…さやかが自分の意思で決めたんなら止める気もないが、親としては祝えやしないね」
「どういう了見でその言葉を口にしてやがる!!事と次第によっちゃあ…喧嘩も辞さないよ!?」
パリッと辺りに放電が始まった。
雷神の異名は伊達ではない。
最近は丸くなったので、放電まで至ったのは、かれこれ10年ぶりだが…
「相手が勇者だって言っても、祝うのが当然かい?」
「勇者?あの勇者かい!?」
「他にどんな勇者がいるのか!!言えるもんなら言ってみな!!」
戦鬼の…
玲子の頬を涙が伝う。
「馬鹿な事を…本気なのかい、さやか…」
足元から崩れ落ち、床に手をついてうなだれる雷神サリー。
「本気だったって、サリーが見立てたんじゃないか…本気なんだろ?」
「すすんで変態の虜になるなんて…信じられないよ!!でも、あの目は本気の恋の目だった…玲子、アンタも覚悟を決めたって事なんだね…」
「娘が真剣に考えて選んだ道だ…祝ってはやれなくても否定なんてしたくないね…」
「そうか…じゃあ飲みに行こうぜ!!豪傑の酒樽亭が良い!!お前の息子のとこ程じゃないが、濃くて旨い奴がそろってるからな…」
「昼間ッから酒かよ!」
「うるせえな。私にも夕方帰ってくる旦那と子供がいるんだ!!夜なんか飲みに行けるもんかい!!アンタの旦那は夜勤かい!?」
「夕方帰りだ!!」
「で?どうすんだい!!」
「行くに決まってるじゃないか!!奢りかい?」
「馬鹿な事を…戦鬼の異名に恥じない飲みっぷりで、ラード中の酒場から、出入り禁止を言い渡された玲子に奢る酒はないよ!!自分の分は自分で持ちな」
「ケチ臭いねぇ。サリーだって、電撃で酒場の客を感電させて、出禁くらってたじゃないか!!」
「だから、私はあんたみたいに飲めないからだっての!!その出禁だって、アンタに付き合わされた結果じゃないかい!!で?行かないのかい?」
「何をぐずぐずしてるんだい!!行くよ!?」
「あっ!!てめえ!!」
盛り上がった2人は、飲み過ぎて、夕食の時間に3分ほど遅れて帰り、家族に苦笑いで迎え入れられた。
2人の頬には、涙の跡があったので、武司と虎丸が激昂しかけたが、愛の力によって、事なきを得た。
楽しんでいただければ幸いです。