最強の三女、綾見優樹
放課後である。
帰りのHRを告げるチャイムが鳴り本日の授業がすべて終わることを告げるチャイムだ。このチャイムを聞くと気がすごく軽くなる。帰ってゆっくりするとしよう。
「和成。帰るぞ」
「おお」
和成に声を掛けて教室の後ろの扉を開けると異様な覇気を放っている黒装束の集団が入り口を塞いでいた。
俺は無言で扉を閉める。
その黒装束の謎の宗教団体みたいなあいつらは何を隠そうジャッジメントだ。
というか一体いつあんなに集まった。まだ、HR終わって1分と立ってないぞ。あいつらは修行を重ねることによってテレポートでも覚えたのか。一体人間は執念だけでどれだけ人を強くするのだろうか。
というかジャッジメントは一体だれを裁きに来たんだ?
ここはジャッジメントで大尉という上級階級の和成に聞いてみよう。ちなみに和成は風紀委員ではない。
「なぁ、和成って!」
振り返ると廊下にいたような黒装束の集団が教室を埋め尽くしていた。和成だった奴も黒装束に身を包めている。というかこいつは和成だろうな。
「おい!和成!」
「我は和成ではない。我はジャッジメント第7班班長のデモンズ・和成大尉だ」
「いや、和成だろ」
というか風紀委員でもないのにジャッジメントの中枢人物になってやがる。てか、第7班ってどれだけ班があるだよ!
しかし、こいつらの敵意ある視線は明らかに俺に注がれている。
「・・・・・・・・・和成?」
「デモンズ大尉だ」
やばい。殴りたい。
「デモンズ」
「なんだ?」
ドヤ顔すんな。大してえらいことでもないかな。
「ジャッジメントの目的は?」
「貴様。安那翔平への制裁裁判の招待だ」
「・・・・・・・は?」
制裁裁判。ジャッジメント主催の裁判。ジャッジメントが一度邪魔しても女の子との交際を続けるような命知らずを懲らしめるための価値のない裁判だ。基本的にその場で行った制裁行為が過激すぎて多くの生徒が制裁裁判まではいくことはほとんどない。まだ、片手で数えられるほどしか行われていない。で、そんな制裁裁判を俺が受ける羽目になっているとはどういうことだ?
「な、なんで?」
制裁裁判の内容を知らない。なぜなら俺が入学してから一度も執り行われていないからだ。その分からない恐怖に冷汗が止まらない。
「それは我が説明しよう!」
後ろの扉が開く。もう周囲を黒装束に囲まれた。
「委員長!」
「我が委員長だ」
なんだろ?俺ってもうすぐ死ぬのかな?
「貴様は昨日、我々が制裁活動したのにもかかわらず、女の子といっしょに下校してさらにその女の子を家に招いた!」
「いや、何で知ってんだ!」
「工作員をひとり送り込んだ」
こいつら普通じゃねーよ。
「そしてその後、貴様の家から連れ込んだ女の子の他にふたり別の女の子が出てきた」
優美さんと優奈ちゃんだ。
「しかもひとりは小学生ではないか!貴様をロリコンで警察に叩きださなければならない!」
「つーか、ずっと見てたのかよ!」
「見ていたよ!楽しそうにケーキ食べたり、ゲームをしているのも見ていた!」
警察に叩きださないといけないのはお前らの方だろ!
「うらやましい」(男子生徒A)
「うらやましい」(男子生徒B)
「うらやましい」(男子生徒C)
「うらやましい」(男子生徒D)
「うらやましい」(男子生徒E)
おい!気持ち悪いよ!
このままでは命が危険だ。何か対策を打たなければならない。
「あ!校門にカップルが!」
「何!」(男子生徒A)
「何!」(男子生徒B)
「何!」(男子生徒C)
「何!」(男子生徒D)
「何!」(男子生徒E)
全員が校門の方を乗り出すように見に行く。こいつらはマジでバカだ。扱いが楽だ。
さてと・・・・・・・。
「いないじゃないか!」
逃げる!
「逃がすな!」(委員長)
黒装束は何か投げてきた。
「危ね!」
シャーペンが壁にひびを入れて突き刺さる。どうしたらただのシャーペンにこんな殺傷能力を与えることが出来るのか謎すぎる。
「弾幕薄いよ!何やってんの!」
「弾幕ってなんだ!」
黒装束の集団から次々と鋭いものが飛んでくる。シャーペン、三角定規、鉛筆、コンパス、ナイフ、カッター、錐、はさみ、教科書といろいろ。たまに本物の凶器も使っているところを見ると奴らは本気で俺を殺しにかかっている。これはマジでやばい。
なるべく、直線上に出ないように逃げる。直線上に出れば、弾幕に襲われて全身にあの凶器が刺さる。だが、それも難しい話だ。廊下を通らないと学校から出れない。
その時、俺の中の野性の勘が止まれと悟った。俺は急ブレーキをかける。その直後、俺の目の前で金属バットが振り下ろされた。
「っち。勘のいい奴め」(男子生徒A)
「当たったらどうするつもりだったんだ!」
「うるせー!どうせあの彼女に看病してもらうんだろ!腹立つ!」(男子生徒A)
「それはお前らのせいでもあるだろ!」
その時、神のいたずらなのか廊下に落ちていたバナナの皮に滑ってこけた。そして、俺の頭があったところに矢が通過して壁に突き刺さる。それはアーチェリーに使うシャフト。要するに矢だ。
廊下の端にアーチェリーの弓を持つ黒装束を発見した。
「っち!」(男子生徒B)
そう舌打ちをすると矢を持ち構えた。
おかしい!メンツがおかしい!バラエティ豊かすぎるだろ!
俺はジグザグに動いて狙いが定まらないように逃げる。角を曲がり射程から外れたが今度はまわし姿をした顔だけ黒装束がいた。
「俺には味方はいないのか!」
目の前には黒装束と力士。背後には黒装束とホークアイ。完全にはさまれた。逃げるとしたら窓しかない!
「二階だから大丈夫!」
俺は二階から飛び降りる。かっこよくは着地できず、苗木に尻が挟まる。だが、そんなことをやっている場合じゃない。奴らは人の恋路を邪魔することに命がかかっていたとしても問答無用で邪魔しにくる。だから絶対に飛び降りてくる!
俺は苗木から尻を引き抜いて前に飛び込む。俺がさっきまでいた苗木のところに竹刀を持った黒装束。
「ちくしょー!」
俺は再び校舎に戻る。すると目の前にスーツを着た先生を発見した。
「先生!助けて!」
「なんだ?」(和成)
「お前かよ!」
教師の格好をした和成を蹴り飛ばして逃げる。もう、この学校には味方はいない。学校から出るしかない。校外で暴れるようなことをあいつらもしないだろう。と信じたい。
校舎を出る。全力で正門に向かう。するとその校門に人影を俺は見た。そこにいたのはつやのある長い黒髪に東高校の女子生徒。優華である。
タイミング悪すぎだろ!
「テメー!今日もいっしょに帰るのか!」
「うらやましい!」
「絶対に殺してやる!」
「叩き殺す!」
「射殺す!」
「投げ殺す!」
「斬り殺す!」
「生きて出れると思うな!」
やばい!このままだと確実に優華が巻き込まれる!だからと言って方向を変えると俺が死ぬ。でも、女の子を守るために死ぬことはむしろ本望だ。俺は男だ。死ぬことに恐怖なんて感じしない。逆に幸せだ。だから、俺のことをどうか覚えていてくれ。目を閉じて走る速度を下げる。
だが、いつまでたっても死なない。おかしい。いつまだたってもジャッジメントが追いついてこない。俺は目を開ける。校門に激突する。額を強打する。さすがに涙目になる。
「だ・・・・・・大丈・・・・・夫?」
「ああ」
優華だ。
優華も無事だ。じゃあ、なんでジャッジメントが追ってこない。
「貴様は誰だ!」(委員長)
ジャッジメントはとある人物に動きを止められていた。暴徒と化しているジャッジメントの前に立ち塞がるその人物には見覚えがあった。ブレザーは腰に巻いて艶のある髪を後頭部でまとめてポニーテールにしている女の子。その腰に巻かれているブレザーを見て俺はこの子が中学生であることが分かった。俺の情報網が正しければ、北中学校の制服だ。俺の守備範囲にぎりぎり中学生も入っている。なので、高校の他に中学の女の子制服も完璧に把握している。
「誰だって?誰でもいいじゃない」
その子は構える。戦意むき出しだ。
「邪魔するな!」
ジャッジメントが襲いかかる。だが、人の恋路を全力邪魔する集団であるが、女の子をこの世の宝だと思っているくらい大事にする集団だ。襲おうとしているが実際はそんな気はない。でも、今のあいつらは完全に血迷っているので保証できない。
「逃げろ!」
俺が警告するがその子は動こうとしない。
「大・・・・・・丈夫」
「なんで!」
「ゆ、優樹は・・・・・・・・強いから」
「優樹?」
それって確か三女の?
三女の優樹に飛び掛かろうとしている黒装束。優樹はトントンと軽くその場で小さく跳びそして、タイミングのいいところで軽く跳び上がって回し蹴りを黒装束にお見舞いした。なんかバキバキとか変な音がしたけど大丈夫だろう。あいつら不死身だから。だが、回し蹴りのおかげでスカートの中身がしっかり見ることが出来た。色は白。で、この白は一度見たことがある。最近だ。今日の朝だ。そして、あの蹴り技。
そう、今朝のスカートの中が白の子だ。それがまさかの三女の優樹だった。再会した運命を感じて女の子は恋に落ちる。もちろん、俺にだ。女の子は王道の運命を感じる話とかが好きだ。だから、俺にもホレてくれるだろう。でも、それがまた法律上肉親になってしまった。もし、神を殺せる力があるのなら俺にください。惨殺させて見せます。
「まだ、やる気かしら?」
何だろう。相手は武器とか持っている集団なのにこの安心感は。
「よくも仲間を~!」(委員長)
あれ?棒読み?そして、何かうれしそう?
委員長は特攻して行って優樹に蹴り倒される。それから次々と特攻してはやられていく。流れ作業みたいに。
「優樹って何者?」
「か、空手の・・・・・・け、県・・・・・・・・チャンピオン」
「なるほど」
あの強い蹴りと自信はそこから来ているのか。それにしてもあいつら何で抵抗もしないで殴られに言ってんだ?俺の知る限りドM集団ではないはずだぞ。
「もう!何のよ!きりのない!」
優樹も少し嫌になっている。
そこで俺はあることに気付いた。全員、仰向けに倒れている。そして、全員目線を優樹の方を向いている。つまり奴らの目的が分かったぞ。
「あいつら!パンツを見たいだけじゃーか!」
俺も優樹に向かって特攻。やられる。そして、仰向けになって倒れる。
「なるほどよく見える」
「だろ?」(和成)
荒ぶる足さばきに激しく動くパンツ。さすが、常にそんなことしか考えていないような集団だ。尊敬するぞ。
「ゆ・・・・・・優樹・・・・・・」
優華が赤面している。どうやら俺たちの目的を知ったみたいだ。それはこれだけ大量の男子生徒が全員仰向けで優樹の方を見ている異様な光景に気付かないのは普通じゃない。
優樹は姉の声に呼ばれてついに気づいた。
顔を真っ赤にしてスカートの裾を抑える。気の強い女の子がそうやって恥ずかしそうに赤面する姿はグッチョブだ。
「そうだろ。和成」
「そうだな」
赤面した優樹はスタートの裾を抑えたまま近くの黒装束に近寄りこう叫んだ。
「見てんじゃねー!」
そして、その黒装束の腹に向かって殴った。ドンという鈍い音がグラウンド中に広がった。それでその優樹からの強烈なパンチを食らった黒装束は口から泡を吹いて白目をむいたまま失神した。それは明らかに冗談では済まない威力だった。それを証明するのは俺たち生き者なら必ず持っている死への恐怖だ。
「全員。頭を地面につけて土下座の態勢になりなさい。・・・・・・さもないと」
そのさもないとの言葉の次が出る前に俺たちは行動に移していた。全員が一斉に一瞬のうちに土下座の態勢になって一斉に「すみませんでした!」と謝った。全員怯えていることだろう。俺もそうだし。
「は・・・・・早い」
優華も驚いている。男というのはすごくバカな生き物だ。どうしようもなくバカな生き物なのだ。俺はこんなバカどもと青春のほとんどを共に過ごしているから分かる。だが、逆にそれがとてつもなく最高なのだ。
「全員そのままよ」
女王の言葉のように全員が指示に従う。
足音が刻々と俺に近づいてくる。そして、俺の前で止まった。
「こいつでいいのよね?」
「う、うん」
「そう。あんたが安那翔平?」
「は、はい。そうでございます」
「顔をあげなさい」
俺は恐る恐る。顔をあげる。吸い込まれそうな大きな瞳と目線があう。
「あ!あんた今朝!」
今気づいたのかよ!
「てことはあんたがこの中の男どもの中で一番私のパンツ見ているのね・・・・・・」
その口調は震えていて怒りを必死に抑えているような感じだった。
「いや。あれ・・・・・事故というか・・・・・・なんというか」
体は俺の方が一回りほど大きい。だが、それでも影は俺の3倍も4倍も大きく俺を飲み込む。
「大丈夫。痛いのは最初だけよ」
「痛いの嫌だ!」
それから記憶が少しとんだ。




