奇跡の瞬間、白
そこに正の答えがあるのなら必ず負の答えが存在する。といっても回答者の応力次第でこの負の答えが出てこないこともある。優美さんと優奈ちゃんの見た目が正の要素だとしたら、片づけられない女と誰もがドン引きするゲーマーであることは負の要素ではないのだろうか。俺はそう思う。だから、優華にも何かあるはずだ。その見えない恐怖に俺は怯える。
いろいろと衝撃なことの連続だったその日のその後特に大きな出来事は起こらなかった。だが、優華の話によれば、優美さんの綾見家での役割は料理と優奈ちゃんの世話くらいだったらしい。つまり、それ以外は全くできないと言ってもいいらしい。俺のイメージでは母親というのは家事を率先してやってくれるというイメージがある。だが、優美さんが来ても俺のやることは変わらない。
いつもは不愉快になる目覚ましの音も今日から異常にありがたいものだ。
音がなると飛び起きる。そして、いつもより3倍速くらいで行動に移る。顔を3倍の速さで洗って、3倍の速さで歯を磨いて、3倍の速さで着替えて朝飯の準備をする。もう、俺が赤く染まっても誰も疑わないだろう。
起きた時間はいつもより30分くらい早い。非常に眠い。だが、そうも言ってられない。俺は眠い目をこすって朝飯と弁当を作る。優美さんの料理は確かにうまかった。でも、毎日のようにあんな風に散らかした台所を放置されると俺の家にGという住民が移住してきてしまう。それだけは何としても阻止しなければ。女の子をいつでも誘えるように清潔な家を守らなければならない。俺の執念は誰にも負けない。
「あれ?翔平君、今日は早いのね」
「は、はい」
結局、優美さんが来ても俺のやることは変わらない。
朝飯を作って食べておやじに弁当を渡して洗濯をして慌ただしく家を出る。
「いってらっしゃい」
「・・・・・・・・行っています」
このいってらっしゃいと言われために俺は今朝も頑張ったのだと思えばいい。マイナスに考えるな。プラスに考えるんだ。そうすれば、人生楽しいじゃないか!
「あ~。疲れた」
帰ったら優美さんが散らかした部屋を俺が片付けるんだろう。優美さんには掃除と整頓、片づけという概念を教えるしかない。というか学生時代は一体どうしてたんだよ。掃除当番とかあっただろう。それはちゃんとやっていたのかどうか心配だ。血の繋がりこそないが息子に心配される母親って大丈夫なのか?
そんな多くの心配事を抱えながら俺は学校に向かう。
「そういえば、和成と遭遇しないな」
いつもなら待ち伏せしているのに。何か嫌な予感がした。
とりあえず、一人とぼとぼと学校に向かう。いつもならこの角で女の子とぶつかって運命的な出会いをできたらいいなと起きもしない妄想を膨らませて気を引き締めている。ぶつかったらどんな言葉を掛けようか20パターンくらい内容を考えていた。和成が横にいても同じことだ。あいつの話すことの大半がどうでもいいことなので聞き流しても問題ない。
だが、今日はそんなことを考えている暇がなかった。これから母の優美さんをどう教育するか考えていた。息子に教育される母親ってなんか頼りない。
そして、ここで俺がいつも思っている妄想が現実になる。人は考えていて備えている時に限って大して思っていることは起きないことが多い。だが、それは忘れたころにやってくる。俺もそうだった。
とぼとぼ歩いて角で誰かとぶつかった。俺は勢いに負けてその場に倒れる。
「痛っ。大丈」
俺は途中で言葉が詰まった。ぶつかった人物。制服姿の女の子だ。カッターシャツに結ばれていないリボンは朝寝坊でもしたのだろう。ブレザーは腰に巻かれている。よほど急いでいたのか汗で下着が据えて見える。色はピンクか?身長は俺の頭一つ小さいくらいの艶のある髪を後頭部でまとめてポニーテールにしている。しかも、普通にかわいいじゃないか!
ここで何か気の利いた言葉を掛けなければ!いつも頭の中で何千回とシュミレーションして来ただろ。その無駄な努力を無駄にしなためにも生かすんだ。
「どこ見てるのよ?もう!」
若干不機嫌だった。その不機嫌さがツンデレを物語っていいぞ!
って堪能している場合じゃない。女難期を逃れるためにも気の利いた言葉をかけてお近づきになるんだ。
しかし、この時の俺は慌てていた。いくらシュミレーションしていてもうまくいくとは限らない。それは頭では分かっていても実行できない。なので最初に出た言葉はまさかのとんでもない一言だった。
「・・・・・し、白ですね」
「・・・・・・・白」
すると女の子はやっとのこと気づいた。
女の子はこけたせいでスカートが捲れあがってその中身を俺に大々的に公開していたのだ。俺はうれしいと思う自分がいた。男なら当たり前の感情だ。だが、女難期を脱することを考えている俺にはそれは完璧なる失言だった。
女の子は顔を真っ赤にしてスカート押さえる。その恥ずかしがりながらも強がっているそのツンキャラに俺は癒される。
が、それは次の瞬間、痛みに変わる。
「このド変態が!」
女の子とは立ち上がるととんと軽く跳び上がって俺の懐に回し蹴りをクリーンヒットさせた。もちろん俺はそんなことされると予想しているはずもなく直撃する。
「うごごー!」
脇が死ぬ!呼吸がうまくできん!これはマジで死ぬ!肋骨いったんじゃね?
その後女の子は走り去ってしまった。
普通女の子ならビンタとかかわいい攻撃をしてくるものじゃないのか?俺の女の子情報網に間違いでもあるのか?あんな空手技が出来るなんて名探偵の娘くらいだろ。
しかし、あの回し蹴りのおかげであの子のスカートの中の白がはっきりと見ることが出来た。なので悔いはない・・・・・・・・。
「翔平?こんなところで何やってる?」
和成がやって来た。息を切らしているところを見ると寝坊でもしたのだろう。
「遺言を聞いてくれるか?」
「いいから学校行くぞ」
こうして俺は和成に引きづられながら学校に向かう。
最初に言っておこう。今日は厄日だ。これ以外にさらに俺はひどい目に合うのだ。この時、俺はそんなことを知る由もない。




