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目線、翔平

奇跡とは起こそうといているそうにしか起こるものではないと俺は思っている。奇跡は偶然と偶然が運よく重なって起こるものだと思っている。

今回の俺の計画というかサプライズは奇跡的なものだった。

まずは女難期である俺が女の人のメールアドレスを手にいれることなんて言う可能性はゼロに近い。だが、俺は優美さんのメアドを持っていた。始まりはここからだった。次に起きた奇跡が優美さんがたまたま日本行の飛行を見つけて乗ることが出来たということ。さらに次はステージが順調に進んでいなかったこと。これらの偶然が運よく重なって起きた奇跡。誰も否定はしないだろう。

その奇跡によって優美さんは優華のいるステージの会場にやってくることが出来た。

正直間に合わなかったらただのかっこ悪い奴だと思われるだけだ。でも、女難期の俺だ。別に起きて不思議じゃなかった。でも、優美さんは間に合ったのだ。

会場である体育館にはかなりの人がいた。優華もこの人の量は想定外だろう。どうせ身内しかないことを心のどかで祈っていたのだろう。だが、あの衣装を着たまま優華やミッキーさんが歩き回ったのがいい宣伝になってしまったのだろう。皆優華の衣装に興味を持ってやって来たのだ。メイド服のような格好をしている女の子はほとんどいなかった。俺みたいな男は飛びつくように見に行くだろう。

ステージに立つ優華は緊張で硬直している。足が震えてまだ何も始まっていないのに汗だくになっている。俺たちの押す力ではあそこまで優華を誘導することで精いっぱいのようだ。目的を見失い迷っている優華。


「たぶん、これが最後ですよ」

「何が?」

「優華があなたに力を借りるのも」


優美さんは少しさびしそうな顔をした。

そうだ。優華は巣立つべきなんだ。優美さんの胸の中から。だから、最後に優美さんに大きく押してもらえ。これからもし立ち止まるようなことがあっても


「俺が手伝って押してやる」


俺だけじゃない。優樹や優奈ちゃんやミッキーさん。優華はひとりじゃないぞ。

この俺の中で発している心の声。優美さんにもろ聞かれていたことを後で知らされる。


「見ててください。優華の勇姿を」


優華がまったく動かないことに会場がどよめきだした。ミッキーさんたちのバンドのメンバーが動き始めた。優華は何も見えていない。目の前に広がる人の量に圧倒されて目的であった優美さんが見えていない。だったら・・・・・。

俺も羞恥心を捨てる。


「優華!」


会場に人たちが一斉に俺の方を見た。ここまで人に見られるのも少し恥ずかしい。でも、優華に俺の声が届いたようだ。俺の方を見るとすぐに隣にいる優美さんを見ると抜けていた魂が戻ってきたように動き出した。

キーンというマイクの音が響くと会場全体が静まり返った。


「ど、どうも。こ、こんにちは。わ、私はこのバンドのギター兼ボーカルの綾見優華と言います。わ、私は自分で言うのも何ですが根倉で目立つのが嫌いです。そ・・・・・・そんな私が今このステージの中心に立っているのにはり、理由があります。今、私の名前を叫んだ男の子の隣の女性は私のお姉ちゃんです。わ、私には他にも下に妹が二人います。母は今別居中でお姉ちゃんが母親同然でした。そんなお姉ちゃんは先日結婚してお嫁に行きました。それでもお姉ちゃんは私たち妹を心配してよく戻って来てくれました。嫁ぎ先でも大変なはずなのにです。私はその妹の中で一番頼りのないです。そ、そんな私がここに出てき、気持ちを伝えればきっと・・・・・お姉ちゃんは安心してくれる。そ、そう思ってここに立っています。これから演奏する曲はそんなお姉ちゃんの感謝と私たち姉妹は・・・・・・・」


静まり返った会場。自然と皆優華に引き込まれるように見ている。そんな中心にあの優華がいる。それが現実じゃないみたいだ。

優華は目を閉じて大きく深呼吸した。その目を開いてこう続けた。


「お姉ちゃんがいなくても私たちは大丈夫だよ。そういう思いを込めてこの歌を作りました。皆さん。私のわがままにつきあって聞いてください!」


会場が盛り上がった。いや、優華が盛り上げたのだ。あの優華が。


「My Sister!」


ドラムのミッキーさんがカウントすると軽快な曲が流れ始めた。


「・・・・・・翔平君。これって・・・・・・」

「結構前から準備してたみたいですよ」


優美さんの目じりには涙がたまっていた。

すると会場の人たちがひとつの道を作るかのように移動した。その道を優樹と優奈ちゃんが駆け抜けてきた。


「翔平君」

「はい」

「確かにね。私は妹たちが心配だったのよ。でも、それは逆なのよ。私も妹たちと暮らせなくなると寂しくて逃げてたのよ。家に。本当の息子じゃない翔平君とうまくいくかって不安だったのよ。でも、あの優華が逃げないであそこにいる。私も逃げていられないわね」


その流す涙は暖かくて心地よいものに見えた。女の子も涙もいいものだと女難期である俺は知った。


「お姉ちゃん行くです!お兄ちゃんありがとうです!」


優奈ちゃんが優美さんの手を引いていく。その時に俺の方見て言う。


「翔平君。あなたは最高の息子よ!」


小走りで特等席に向かう。俺は行かない。姉妹水入らずもこれが最後かもしれないのだ。邪魔するわけにはいかない。

息子か・・・・・・・。彼氏がよかったという欲望を必死に抑える。

すると優樹が戻らずにこちらにやって来た。


「あんた優美がいつ戻ってくるか知ってたの?」


誰も教えていない。いや、教える必要もないだろう。


「知らな~い」


すると優樹は笑って言った。


「あんたって本当にバカ!バカで最高よ!」


そういう優樹は優美さんの後追うように走って行った。

優華の歌で会場は常に盛り上がりを絶やすことはなかった。

優美さんが俺を息子だと言った。優樹がバカで最高だと言った。優奈ちゃんはありがとうと言った。そして・・・・・・。

曲の伴奏で優華が思い切り叫ぶ。


「翔平君!ありがとう!大好きだよ!」


何となくだが俺も涙が出てきそうになった。たぶん、目にゴミが入ったのだろう。

そういうことにしておく。

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