甥っ子の精一杯、翔平
「意外だったでしょ?」
「超意外でした」
大人しいイメージの優華が勢いよくギターを弾き、そして元気よく歌う。そのギャップのせいもあってか優華がより一層輝いて見えた。それに一番いいなと思ったのは本人自身はすごく楽しそうにギターを弾き歌っていたことだ。もう、あれを見たら後3年は女難期が訪れても生きていける気がするってそれはよくない。
当の本人は歌っているところを俺に見られてしまったことを歌い終わってから気づき再起不能になって部屋に閉じこもっている。その際は優樹とケンカしていた。
「優樹も悪気はないと思うんだけどね」
良かれとやっていることは分かるが、俺を蹴り倒すことは納得がいかない。せめてスカートをはいてやってほしいものだ。
「あの調子で大丈夫ですか?」
「私たちの前だとあんな感じなんだけど、前にクラスの子を数人集めて人前練習させたら、トイレに行くって言って帰ってこなかったのよね」
そんな人見知りでよくステージ発表をしようと思ったものだ。
「ちなみに私はドラムで優華といっしょに出るから」
それも楽しみだ。某有名な軽音アニメみたいにメイド服とか着てやるのだったら楽しみだ。ミッキーさんのエロい服装も楽しみだがそんな服装をしている優華の方が俺的には楽しみだ。
「それで翔平君にお願い。これから毎日優華の演奏聞いてくれる?普通に演奏することに関してはもう大丈夫なのよ。後はどれだけ恥ずかしがらないかにかかってるのよ」
「そうですね。協力しますよ」
それにいろいろと思惑もありそうだ。
「ありがとう。お礼に触ってもいいわよ」
まっじy@h。p9.*ぅ{¥!?
おっと取り乱してしまった。別にミッキーさんの大きなお胸さんに触れるからと言って興奮したわけじゃないぞ。断じて違う!
「本当にそうかしら?」
あ。背後に魔王がいる。
蹴られた。
「ミッキーもあまり誘わないの。こいつへタレだけど一応男なのよ」
「一応ってなんだ!」
正真正銘俺は男だ!
「本当に不死身ね」
誰かさんが毎日のように蹴るおかげでな。
「フフ。だいぶ、いつも通りになって来たね」
「う、うるさいわよ。ミッキー」
ミッキーさんの言う通りでもある。ここ最近はこうやって無差別で蹴るようなことはなかった。ぎくしゃくして居心地は悪かったが、蹴られるのもそれはそれでいやだ。
「それにただでさえ優華は不安の要素の塊なんだからこれ以上不安なことを増やすわけにもいかなしね」
「優樹は優しいね」
やっぱりこれって。
「あの歌詞から察するに優樹も優奈ちゃんも関わってるのか?」
「まぁね。私と優奈には伝えるいい方法がないからね」
優樹は暴力で優奈ちゃんはゲーム。確かに伝えるのは無理そうだ。
「翔平君はもう分かったんだ」
「あの歌を聞けばいやでも分かりますよ」
優華の歌に込められたもの。それは優美さんに対する気持ちだった。
結婚して家を出ることになった優美さんは妹たちのことが心配でよく戻ってきていたらしいのだ。俺もその姿を何度か見ている。その優美に妹たちがもう自分たちは大丈夫だよ。心配しないで巣立っていいんだよと伝えるものだ。母親のいない家庭で母親代わりとなっていた優美さん。その優美さんへの感謝の気持ち。姉に告げる思いを込めた歌が優華がステージで発表するものだった。
「でも、優美さんはしばらく」
「分かってる。優華に聞いたわ。結構ショックみたいだったようね。今まで秘密にしてきてたし」
サプライズのつもりだったのか。まぁ、優美さんなら泣いて喜ぶだろうな。人前に出ることを拒む優華が意を決して人前に出て歌を歌うのだ。自分のために。涙を流す姿が容易に想像できる
「でも、その目的が達成できなくなった今はやる気を完全に失ってね」
「とりあえず、適当な目標を作ることにしたのよ」
「それって?」
「優美の息子の翔平君に聞いてもらう」
それってかなり脱線してない?
「無理じゃね?」
「無理だね」
「無理ね」
そこまで分かっていて目標を立てたのかよ。
「でも、ステージの演目に入れちゃったし、今更引き返せないのよね」
優華からすれば踏んだり蹴ったりというわけか。いろいろと気の毒だな。
「でも、俺は優華がステージで歌う姿を見てみたいと個人的に思う」
「それはあたしも優奈もいっしょよ。でも、あたしたちが言っても無駄なのよね」
この問題を解決するには優美さんの力が必要だな。自立するから優美さんは心配しないでねという思いを込めた計画はずが結局優美さんがいないとうまくいかないとはそれで本当に大丈夫なのか?心配でまた優美さん戻ってきちゃうよ。
「とりあえず、優華の蘇生をしてくるわね」
とミッキーさんが立ち上がる。
「ミッキーだけじゃ無駄よ」
そう優樹も立ち上がる。
二人は閉じこもった優華を蘇生させるためにリビングを出て俺一人になった。
応援したと俺は思っている。優華がただの趣味の一環として人前で演奏することは絶対にない。だが、そんな彼女の背中を押したのはやはり優美さんだ。あの人はこの綾見家にとってはなくてならな存在なのだ。優美さん本人も分かっていたのかもしれない。そんな優美さんに自分たちはもう大丈夫だと伝えるために動き始めた妹たち。これが優美さんの力を借りる最後の機会。なら、俺も彼女らの甥っ子としてできる精一杯のことをやってみよう。
ポケットから携帯電話を取り出す。
「こんな形で初メールなんて考えもしなかったな」
メールする相手は俺の携帯電の電話帳に乗った初めての女性だ。
今までに何度かメールを送るチャンスがあったのだが無駄に緊張してしまってメールどころではなかった。
だが、今はそんな緊張感はない。
相手は言わなくても分かるだろう。でも、あえて伏せておこう。優華たちにも内緒だ。




