早朝の驚き、翔平
それは夜中の4時くらいのことだった。いつものように綾見家のリビングのソファーで腰の痛みと闘いながら寝ていた時のことだ。電話が鳴った。時間は手の届くところに携帯電話をいてあったからだ。それで時間を確認した。まったく礼儀というものがなっていない。こんな時間に電話を掛ければ迷惑だとなぜ分からない。だから、電話には出ない。ただでさえ寝つきが悪いのに起こされて不愉快だったからだ。しかし、電話は鳴り続ける。あきらめが悪いようだ。優華とかミッキーさんが起きて電話に出てくれると願っていたが淡い願いだった。仕方なく体を起して電話に出に向かう。子機がキッチンにおいてある。そこまで眠い体を引きづって電話に出る。
「はい。やす・・・・・じゃなくて綾見です」
「その声は・・・・・・・・翔平君?」
なんか久々に聞いた声だった。そのおかげで目が一気に覚めた。
「優美さん?」
「正解」
あれから5日になる。優華たちとはちょくちょく連絡してみたいだが旅行中の優美さんの声を訊くのはたぶん俺が初だろう。
「そっちはこんばんわかな?」
「もうすぐおはようです」
それでも外はまだ暗い。
「ごめんね。起しちゃって」
「全然大丈夫です」
逆に元気をもらえた。最近、体全体が腐りそうで仕方ない。
「優華から聞いたわよ。謹慎中だって?」
「まぁ」
あの暴動があった日の次の日、いつも通りに学校に向かうと駐車場にパトカーが止まっていた。校門をくぐるとジャッジメントではなく教師どもに襲撃されて捕獲された。暴動に参加していた生徒を探していたらしい。すでにあの時に現場にいたジャッジメントは全員捕まっていた。病院送りになった奴は学校に来次第生徒指導室に召集を掛けられた。
教師ども話では現場にいた女子中生が事情を話してくれたおかげで俺たちの処分は軽く済んだらしい。その女子中生はたぶん優樹だろう。優樹のおかげで謹慎だけで済んだ。だが、その謹慎は異常に厳しいもので狭い部屋に閉じ込められて暑苦しい筋肉先生にしごかれる地獄を毎日のように受けている。
「なんか優樹のせいらしいわね」
「ああ、そのことに関して気にしないでください」
その優樹とは話をしていない。向こうからこっちを避けるようにしている。そこで無理やり話に行こうとするのはよくないと女の子大好きの俺の勘が告げる。いずれ、普通に話せるようになることを期待している。女難期である俺としてはこれであっているのか不安だ。
ちなみに高見は優樹以外にも多くの女子生徒に悪さをしていたらしく、今回のことが学校中に広まり完全に孤立状態にあるらしい。今までやって来たことの報いだ。これを期にしっかり反省してほしいものだ。
「それでこんな時間に何か用ですか?」
優美さんなら俺たちが寝ている時間だと分かって電話を控えてくるはずだ。でも、電話をしてきたということはおそらく緊急事態なのだろう。
「ちょっと緊急事態」
やっぱり。
「帰れなくなった」
それってちょっとじゃなくね?
「どういうことですか?」
「翔平君は子機で電話に出てる?」
「そうですけど」
「テレビ付けてみれば。できればニュースがやってそうな番組」
そう言われて俺はテーブルの上に転がっていたリモコンでテレビをつける。つけると放送終了で麺な画面が出てきた。適当に変えるとテレビショッピングくらいしかやっていない。変えていくとニュースをやっていた。世界中に支部を持つ大手航空会社の従業員がストライキを起こして空港の機能が停止状態と出ていた。
「もしかしてこのストライキに巻き込まれたと?」
「影響力大だよ」
予定では明日帰ってくる。でも、空港の機能が停止状態ときた。
「つまり、まだ帰れないと?」
「そうだね」
「・・・・・・俺はどうすればいいですか?」
「帰れるのがいつになるか分からないから綾見家にいてもいいよ。寂しいでしょ?」
そんなことはないと強がってみたいが、女の子の家に1週間ではなくそれ以上いていいというなら大歓迎だ。今はジャッジメントの一部は入院中で謹慎中だ。邪魔されることはほとんどない。ついに俺にもやって来たのかもしれない。女の子と関わっていいよと神のお告げが。まぁ、それが全員身内なんだけどね。
「このことは優華たちに教えておいた方がいいですよね」
「うん、そうだね。よろしく」
でも、そのことくらいならいつものようにメールで伝えればいいのに誰も出ないかもしれない電話でなぜ伝える必要があったのだろう。その疑問はすぐに解けた。
「それでね翔平君」
「はい」
「優樹のことなんだけど、翔平君のことだから怒ってないよね?」
「まさか」
女の子に対して俺が怒ったらそれは俺の皮をかぶった偽物だ。本物の俺かどうか確認するのにマニュアルなんてものを用意しなくてもすぐに分かるぞ。
「なら、私から少し押してみるね。優華があの一件以来元気がないらしいのよね。特に翔平君がいると」
優樹はやさしいし真面目な女の子だ。俺の女の子を観察する特別な能力によるものだ。ちなみにこの能力を取得するには女難期に入らないといけない。女の子いっしょにいる奴に限って朴念仁で鈍い。マジで殺したくなる。
「優樹が話しかけてきたらいつも通りに接してあげてね。私も妹たちと翔平君の関係が悪いのは気持ちわるから」
「分かりました」
いつも通りか。いつも通りってどんな感じだったけ?
確か蹴られてパンツを見て、それに怒って蹴り技を食らってパンツを見て、普通に会話してて蹴られてパンツを見て・・・・・・あれ?俺って優樹といつも何してるっけ?
蹴られるかパンツを見ることくらいしかしていない。でも、大丈夫だろう。最近、優樹のパンツ見てないし。
「任せてください」
「・・・・・・一瞬不安になったのはなんでだろう?」
さぁ、何でしょうね?
とにかく俺の綾見家の在住期間が伸びた。一番喜んでいたのは優奈ちゃんだった。ゲームをやる相手がいることがそんなにうれしいのか?俺はうれしくない。女の子と一緒にいるのはうれしいけど。
その2時間後。
「痛っ!」
ソファーから落下して目が覚めた。ソファーの上で昼寝をするとすごく気持ちいのに夜の睡眠をとるのに適していない。理由をつけるとしたら寝返りが打てない。当たり前だ。よって、動くことが出来ない。だから、腰などの体の節々が痛むということに至るのだ。今更というのが結論だ。
時間は午前6時。外は朝日が差し込んでいないものの明るい。この綾見家に来てからはこの時間に起きて朝飯を作っていた。大抵、朝練のために優樹がもう起きてくるのだがここ数日は姿を見ない。朝も朝飯を食べずに学校に行ったりしてなるべく俺との交流を避けているみたいだ。理由はよく分からない。まだ、あの一件のことを引きづっているのだろうか?気にしなくてもいいと言ったはずだ。女の子利用されることは生きがいだということは嘘ではない。というか女の子の前で嘘をつくことなんてできない。
「とりあえずトイレ・・・・・・」
ぶつけた腰を押さえながらリビングを出てトイレに向かう。するとトイレの方で水が流れる音がした。この時間に起きてくる人物。ひとりしかいない。
「おはよう、優樹」
「あ。えっと・・・・・おはよ」
俺と目を合わせないようにして二階に上がろうとする。ここでいつもなら俺は優樹にいったいどういう風に声を掛けていただろう。覚えていることいえば、パジャマ姿の少しエロい優樹。寝ぼけていて無防備でそれを回らない頭で隠そうとするかわいい優樹。お腹の音で顔を赤くして目を背ける女の子の優樹。あれ?ろくなこと話してなくね?
やばい。部屋に戻る前に何かいつも通りの言葉を。
「・・・・・・・し、下着の色は白」
何言ってんだ俺は!
優樹の動きが止まった。なんだかんだで作戦成功かと思った。ゆっくりと俺の方に近寄ってきて軽くとんと飛ぶと俺に回し蹴りを放ってきた。
そうこれがいつも通りの優樹だ。でも、今はスカートじゃない!
「あんたって本当にバカ!」
「ああ、バカだとも!」
いつも通りの優樹の声を訊いて少し安心した。
「朝飯食べるか?」
「いらないわよ!」
「遠慮するなよ。買い置きのパンを切らせていることを俺は知っている」
だって、昨日俺が食べたから。
「やっぱりあんたには悩み事なんて相談しない!」
いつも通りで元気な優樹だ。
それからは優樹とは普通に会話するようになった。壁を破壊したのは優美さんの一言なのか俺の一言なのかそれとも優樹の蹴りなのか考えるのは面倒なだけだ。




