女らしくない悩み、優樹
遠い記憶。俺の家族がまだ3人の時の記憶。
今住んでいる家よりも小さくて狭い家に俺はいた。名前を呼ばれて積み木で遊んでいる俺は振り返る。そのせいで積み上げた積み木が倒壊する。俺はそのせいで泣きだす。すごくどうでもいいことで泣いている俺はまるでバカみたいだ。そんなバカな俺のことを優しく包み込んでくれる女の人は一体誰だ。分からない。それでもその女の人の膝の上は暖かくて落ち着く。俺は泣き止んだ。泣きだした理由も分からないまま、泣き止んだ理由も分からない。その感覚に今の俺は浸っている。俺はこの感覚を知っている。どこで知ったのかは覚えていない。でも、すごく懐かしい。
すると目の前が急にかすんでいく。女の人も消えといく。行かないでほしい。待ってくれ。待ってくれよ。
「待って!」
「・・・・・・・どうしたの?」
目の前には優美さんがいた。すごく不思議そうな顔をしていた。寝言を聞かれてすごく恥ずかしい。めっちゃ恥ずかしい。そんなことよりも俺が今置かれている状況は夢にも見たことだ。というか俺のシュミレーションもしたことのない状況だ。俺は優美さんにひざまくらされている。
「翔平君?顔がすごく赤くなってきているわよ」
「は・・・・・・・・はい。そ、そうですか?」
声が完全に裏返っている。体が固まってしまって動けない。これが金縛りという奴か。優美さんの太ももの上は暖かくて柔らかい。後頭部から肌の暖かさを感じることが出来る。これが女の人の臭いか。自然と落ち着くことが出来るわけでもない。がちがちで緊張している。でも、この人は俺の母さんなんだよな。残念。
「・・・・・・・・・は!」
俺は優美さんの膝から脱出してリビングの窓からゆっくり外を覗く。
気のせいか。今庭に誰かいたような気がした。和成か?工作員が俺の家を監視していたと言っていたから隣に住んでいる和成が自然と工作員になる可能性が高い。今度は庭を堂々と除くが誰もいない。よかった。
「本当に挙動不審ね」
「なんだと?って優樹」
カッターシャツを腕まくりをしている状態の優樹がいた。ブレザーとその他の荷物は机の上に置かれている。
「優樹がここまで運んでくれたの。力だけはお父さんにも負けないのよ」
俺は自分の娘をこんな凶暴にしないように心がけよう。
「今悪口言った?」
「いいえ。別に」
「なんで棒読み?」
すると俺は自然と台所の方に目がいった。すごくきれいになっている。優美さんがお昼を作ってそのままにしていると思ったが今日は使っていないのか?
「洗い物はあたしがやっておいたから」
「マジか!」
「それと洗濯物も回収して置いたわよ。そこに畳んでおいたわよ。どこにしまうか分かんないからあんたが仕舞っておきなさいよ」
「やるじゃないか」
「・・・・・・・だって、家だったらあたし以外誰もやらないんだもん」
苦労してるんだな。
「優美さんも見習ってください」
「どうして?」
逆に俺がどうしてと訊き返したいですよ。どうしてあなたはそこまで片づけを拒むんですか。その執念が分かりません。
「無駄よ。あたしは優美に片づけなさいって10年近く言ってるけどまともに聞き入れたことは一度もないから」
なんかすごく苦労人に見える。
「優華や優奈ちゃんはやらないのか?」
「自分の身の回りのことくらいはやるわ。身の回りのこともすべて人任せなのが優美なの」
こんな姉貴で大丈夫なのか?
「そういえば、優華は?いっしょにいたよな?」
「帰ったわ。今日は優奈が家でひとりだから」
「そうか」
今日も優華の弱点探しをすることが出来なかった。ここまで綾見姉妹を見てきたが一番まともなのは優華。情報が少ないというものあるが大人しいし、話が聞き取りにくいと以外では普通にかわいい女の子だ。優樹は見た目はいいが、見た目とパワーが一致していない。反比例している。優奈ちゃんのあのゲームの腕に引く。ネットゲームをよくやる身としてあれはない。優美さんは言うまでもない。
だが、暴力的なところを抜けば優樹が一番まともだ。しっかり者だし、よく働くし、なんて言ったって話しやすい。まるで男と話しているみたいだ。っていかん。そうやって男といると落ち着くとかいう考え方がホモなんだ。気をつけよう。
そうだ。いくら暴力的でも。
「優樹は女の子だもんな」
「それはあたしがまるで男みたいってこと?」
優樹の拳が俺の顔面にめり込む。その細い体のどこにそんなパワーを秘めているんだ?
すうと優美さんが何かを思い出したように言う。
「そうだ。優樹」
「何?」
「せっかくだったら相談してみれば?」
「・・・・・・・そうね」
なんだ?急に恥ずかしそうに?
「女の子みたいだな」
「女だって分からないの?あんたの目は何?飾り?」
再び拳が顔面にめり込む。
いや、おかしいな。俺の目の性能はいいぞ。人ごみの中にいる女の子を一目で見分けることが出来る目だぞ。しかも、かわいい子限定だ。そうか。
「優樹はかわいくないんだ」
「それはどういうことだ!」
顔面に拳がめり込んでそのまま振り抜けれる。床に頭を強打する。
これからはこいつとケンカをするのをやめよう。命がいくつあっても足りない。
「で、悩みってなんだ?」
「あんたって不死身?」
男は不死身の生き物だ。女の子一言で復活するぞ。真東高校限定かもしれないけど。
「そうね。あんたに話しても解決するのかしら?」
「きっとするわよ」
優美さんが笑顔で言う。その笑顔で優樹は決心がついたのか大きく深呼吸をしてから話し出した。
「あんたがさっき言ったことなんだけど」
「さっき言ったこと?」
「そう。あたしって・・・・・・その女らしくないらしいのよね」
それはそうだろ。いきなり出会いがしらで回し蹴りされたり、回し蹴りされて気絶させられたりしたんだぞ。俺はそんな暴力女を聞いたことがないぞ。だが、ここで女らしくないと言えば、また痛い目に合う。ここは嘘でもいいから誉めておこう。
「そんなことない。優樹は女の子だ」
「そ・・・・・・そう?」
顔を赤くして少しうれしそうに言った。そのもじもじとしている姿は完全に女の子だ。でも、女の子と証明できることが絶対的な証拠がある。
「だって、スカートの下は完璧な女の」
回し蹴りがさく裂。庭に蹴りだされる。
「当たり前でしょ!体はどう間違っても女よ!」
顔を真っ赤にして身を寄せる。大丈夫だ。俺はそんな未発達の体に興味はない。
「女らしくないってのはこう見た目じゃないのよ!」
「じゃあ、どこが女らしくないんだよ?」
体を起して鼻血をふき取る。
「そこが分からないから困ってるんじゃないのよ!」
俺は大きくため息をついて立ち上がる。
これのどこが女の子らしくないんだ?俺から見れば、優樹は女の子だぞ。洗い物はしてくれるし、洗濯も回収してくれるし、気の利く女の子だ。女らしくないのはその凶暴さが優樹の魅力を殺しているだけだ。それを覗けば、女の子だ。
「優樹はいつも俺にするみたいに暴力を振るってるのか?」
「そんなわけないじゃない!道場ではここで学ぶことは人を守るために使っていうことを教訓に毎日練習してるのよ。今日は優華の身と・・・・・・・その・・・・・あ、あんた!の身が危なかったから・・・・・・・」
ツンデレじゃないか。これで優樹のことを女の子らしくないとかいう奴は邪道だろ。俺が女の子とはどういった魅力があるのか1ヶ月コースで教え込んでやるよ。
ここで俺の言うことは決まっているぞ。ゆっくり、優樹に近づく。体はまだまだ小さい。俺の方が見下せるくらいの身長だ。俺は優樹の頭を撫でる。
「そうか。助けてくれたのか。ありがとう」
すると優樹の赤面が限界を達してポンッと蒸気が噴き出た。
「あ、あんたを助け訳じゃないんだからね!」
そういって俺にボディーブローしてリビングから出て行った。肺の中の空気がすべて抜けきってしばらく呼吸ができず、腹を押さえてその場に倒れる。あの女の子離れした力はまるで・・・・・・。
「女らしくない」
誰か同意してくれ。




