1シーンお題ったー「夢の欠片」
RTされたらトランジスタは『「えっと…お姉ちゃん、ちょっとあなたが何を怒ってるのかよくわからないんだけど…」少女は僅かに困ったような顔をする』というシーンの入った話をかいてください
1
その子は、公園の隅に立っていた。
「……?」
学校からの帰り道、いつも通りの通学路。いつも通りに通りがかった公園の入り口から一番遠い所で、膝を抱えて空を見上げている子がいた。まだ小さい子だ。それだけなら、別に通り過ぎても良かったのだけど、目を引いたのは、白い雨合羽だった。
2
今日は晴れている。雨だという予報は無い。何故?私はそう思いながら、公園へ足を踏み入れた。
「ねぇ、キミ、こんな所で…何してるの?」
しゃがんで目を合わせてそう聞くとその子は不思議そうな顔で私を見上げた。声をかけられたこと自体を訝しむように。
「なにって…空を見張ってるの」
3
「見張ってる?空を?」
どういうことだろう。雨合羽である意味があるのだろうか。
「今日は雨は降らないってテレビで言っていたよ?」
「そうじゃないの、そうじゃないのよ」
首をふるふると振って、その子は否定する。合羽のフードが滑り落ちて、その子の顔が良く見えるようになった。
4
「あのね、お空からはユメのカケラがふってくるの。でもそれはお空のものだからそれを返さなきゃいけないの。だから、見張ってるの」
首を傾げる。夢の欠片とは一体なんだろう。この子は何を言っているのだろう。
「ねぇ、夢の欠片はどうしてお空に返さなきゃいけないの?拾っちゃダメなの?」
5
綺麗な色をした目を見ながら私がそう言うと、その子は頬を膨らませて立ち上がり肩を怒らせた。
「ダメなの!カケラはお空に返すの!じゃないと皆頑張らなくなるの!」
「えっと…お姉ちゃん、ちょっとキミが何を怒ってるのかよくわからないんだけど…」
その子は僅かに困ったような顔をする
6
「だって…ダメなんだもん…」
ショボンとした顔でそう呟く。悪いことしたかなぁ、と少し思って、私はその子の頭をぽふぽふと撫でながら言った。
「えっと、ごめんね?返さなきゃいけないのね?分かったから、ね?」
あやす様にそう言う。何かきっと理由があるんだ、言えないだけで。
7
と、その時、こつんと頭に何かが当たって。瞬間に、目の前を色とりどりの綺麗な光景が飛ぶように過ぎていった。とても綺麗な、儚げで、触ると壊れてしまいそうな。どこかで見たような、今まで見たことのないような、懐かしくて新しくて素晴らしい何かが。
それに、思わず手を伸ばしかけて、
8
「ダメ!」
手を払われた。強い力に目を白黒していると、眉を寄せた子が私の目を睨みつけて頬に手を当てていた。じっと、見つめてくる瞳は不思議な色をしていた。覗き込んでくるその色は…まるで、ついさっき見た光景のような色で。
「…ん、おねえちゃんはだいじょうぶそうだね。よかったぁ」
9
安心したようにそう言って、その子は離れた。手には小さな虹色の雫の形をした石を持っていて、それを大切そうに握っていた。
「…それが、夢の欠片なの?今見えたのは…」
「がんばって、がんばってね。今見えたのは、忘れなきゃダメだよ?」
それだけ言って、身を翻す。
「ま、待って!」
10
声を上げた瞬間には、もうその子の姿は無かった。白い鳩が一羽、羽音を立てて飛び立って、青い空へ消えていった。
「……どういう、ことなの?」
不思議なこともあったものだ。私は誰もいなくなった公園で、さっきあの子がそうしていたように空を見上げて、首を傾げた。
久し振りに掌編。いぇす。