1シーンお題ったー「彼女達の日常」
RTされたらトランジスタは『「君は、私のものでしょう?」彼女は口をとがらせる』というシーンの入った話をかいてください
百合っぽいので注意
1
浅く、息を吐いた。
「っっ」
お腹が焼けるような引きつった痛みを訴えてくる。何度か力を入れ損ねて内臓に直接ダメージが通っていたのか、息を吸う度に鈍い痛みが走る。荒く波打つ心臓を鎮めようと口を閉じると、切れた端から滲んだ鉄錆が口内に広がる不快なすっぱさと苦さを上書きした。
2
彼女達は、もう行ってしまっただろうか。
鈍い頭でそう考える。先程まで私を襲っていた暴力は今は無い。耳を澄ませても誰の息遣いも感じられない。恐る恐る頭の後ろで組んでいた手を下ろして、丸めていた体を伸ばした。別に何も起きない。彼女達はもう行ってしまったのだろう。
3
横に転がって、取りあえず仰向けで空を見上げた。制服が汚れてしまうが、どうせもう汚れているのだから関係無い。今の時期では濡れた服も中々乾かないが、夜までには乾くだろう。さすがに洗濯しないといけないが。その前に屋根に上げられてしまったバッグも取らなくてはいけない。あぁ、面倒だ。
4
「はぁーあ」
声に出して溜め息を吐いた。
「女の子ってめんどくさ」
喋ると切れた口の端が痛い。ついでに口内の不快さが限界だったので、お下品だが横の地面に唾を吐いた。こんなところをシスター(笑)に見られたら大変だが、そもそも見付かるようなへまを彼女達がやらかすわけがない。
5
まあきっかけは良くありがちな些細なこと。クラスの苛められっ子を庇ったら私が代わりにぼっこぼこ。いらっとしたけどその子が帰るまでは暴れるの我慢しようと思ってたら、あっという間に動けなくされて仕方なく体育倉庫の壁を背に芋虫ごっこしてるしかなかった。全く、何がお嬢様校だ、ど畜生。
6
「あー痛い痛い」
体がだるくて上手く動いてくれない。無理に立とうとするときっと無様を晒してしまうだろう。それが分かっていた私は、だからそのまま寝転がったまま、待っていた。
ざり、と靴が砂を噛む音が枕元でして、傾いた日の光が遮られる。私は身動きせず相変わらず空を眺めていた。
7
その場にしゃがんだ彼女の細い指が、私の傷付いたほっぺを容赦ない力加減で思い切り突いた。
「あなたは、私のものでしょう?」
彼女は口をとがらせる。
「何で私以外にいじめられてるの?」
「いや痛いです、連打しないでください」
「聞いてるの? ねえ」
「聞いてます聞いてます」
8
手を払いのけて、立ち上がる。体を起こした瞬間に視界がぶれて平行感覚が無くなった。と、思った時には彼女が支えていてくれて少しだけ頬が緩む。
「重い」
「すみませんね、どこかの誰かさんが助けにも入らずにいたせいで体の自由が利かないもんで!」
文句を言うならしなきゃいいのに。
9
まあ、彼女が見ていて、しかも動画撮っているのが分かっていたから敢えて痛々しくして見せたりもしたもんなんだけど、私のもの宣言するくらいなら最初から直接潰しに行けばいいのに。私をけしかける意味は一体どこにあったのだ。
「そーいえばさー」
彼女は愉快気な口調で私の左手を取る。
10
「これ、何を持ってるのかなぁ? 何されても手放さなかったよねぇ?」
そっと手を開くと、そこにあるのは小さな指輪だ。揉み合っている最中に鎖が切れてしまったから、ずっと手に握っていたのだ。
「うん、壊されるわけには、いかなかったから」
素直にそう言うと彼女は意地悪く笑った。
11
「ふぅん、良かったね気付かれなくて」
私のスカートを叩いて埃を落としながら彼女は目を細める。本当にだ全く、と息を吐くと、彼女の指が私の顎を捕えた。頬を細い指でなぞりながら、一転して邪気の無い満面の笑みで私に笑いかける。
「でも、大切にしてくれてて純粋に嬉しい、ありがとう」
12
間近で見詰めた視線が絡む。さっきまでのお腹の痛みなんてとうに無い。どこまでも澄んだその笑みに私は言葉を失くして、そっと目を逸らしてまぁねと呟いた。それから痛いの痛いの飛んでけとか言いながら傷をべたべたと触ってきた手を軽く押し返しながら、難とかバッグを落とすことに成功した。
13
「ああでも、私以外にいじめられたからやっぱりあとでおしおきだね」
「えー、こちとら怪我人だよ? 労わってよー」
などと言いながら帰路に就く。まだ痛みの所為で足元がおぼつかないけど、さりげなく支えてくれる彼女を思うと心が安らいだ。少し預ける体重を増やして一人笑む。私きもい。
14
「手当てくらいしてあげるよ勿論。あとペンダントのチェーンも余ってるのあるからあげる」
「ねぇ、撮った動画どうするの? 先生にでも見せる?」
すると彼女は悪い顔でくつくつと笑う。
「そんなことしないよ、あいつらには自分のしてきたことを後悔してもらわないと……」
怖いよ。
15
「だってねぇ、けしかけたのは私だけど、許せるものでもないし……」
彼女はむっとした表情で口をとがらせる。まあ、あくどくあざとい彼女のことだ、きっとエグいことを考えてるに違いない。私は頭脳派ではないのだし気にしなくていい。それより二人きりの帰り道をもっと楽しまなくちゃね。
16
ぱっと彼女の手を取って、無理矢理指を絡ませた。少し心拍数が上がったのは気恥ずかしさからだと思いたい。大丈夫、不覚にも顔が赤くなっても夕日のおかげでわからない筈だ。
そう思って私は、慌てるそぶりを見せる彼女の手を握り、鼻歌交じりに家に帰った。ぼろぼろでも最高に幸せだった。
これまた同じく以前書いてたやつ、百合っぽいのを目指したキリッ