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夢語「求む、死人。Company社は元気な死人を採用します。保険代わりに契約しませんか?」

夢の話、死体を買って社員にするCompanyの新米君の初めての戦場






 右目に映る僕の状態を示すグラフが、激しい心拍数と脳の緊張を示す。隣に立つI'botのBlitzさんが僕の背中を叩いて、力を抜けと言う。何度か深呼吸をして、まだ緊張するには早いぞと言い聞かせた。

 目的地は何処とか敵は誰とか、そんなことも聞いていないのだけど、回りの仲間達はそれはもう落ち着いたものだ。皆自分が戦闘不能になる事を、いや彼らは死ぬ事すら恐れていないだろう。バックアップは取ってあるわけだし。その点、自分はまだまだ甘い。新兵だから、戦場は初めてだから仕方ないなんて許されないんだ。

 それでも不安を塗り潰せなくてBlitzさんの方に体重を預ける。どうしたよ、と訊かれて俯く。

「あの、Blitzさん、ちょっと良いですか?」

『応、何だ』

 ガラガラとした機械音声には快活な響きがあって、僕は少し安心してその青いボディーを見上げる。

「初めての戦場って緊張しました?」

『そらぁしたさ。まぁ、俺ぁずっと戦場にいっからよ。かれこれ50年近い、もう慣れたさ。お前みたいな生体兵ってのは、Company的にはボディーガードとか暗殺とかの方に回したいかららしいし、戦闘不能になる心配してんのは生体兵だけだぜ?』

 Blitzさんはコードネームの刻まれた左手で僕の頬を包む。手の大きさが僕の頭位もある。金属のごつごつとした手はエンジンの廃棄熱の所為か温かくて心地好い。

「別に、戦闘不能が怖いわけじゃ、ないです」

『強がんな。お前まだ17歳だろ、人生捨てて来たって言うにはちぃと若すぎるぜ』

 心臓が止まった程度での入社は珍しい、とCompanyの医師が言っていたのを思い出す。実際、交通事故程度で入社した僕の身体は五体満足だった、ただ右目と頸の脊髄と骨と内臓が何ヵ所かイカれてただけで。脳が無ダメージだったのはとても良かった。手術で頭はプロテクト済みだし、身体が使い物にならなくなってもCyborgになれば良いわけだし。

 心肺停止した僕の身体をCompanyが引き取りに来た時、家族は相当驚いていた。Companyと入社契約してたなんて僕は一度も言わなかったからだ。でもそのおかげで妹は手術を受けられて半身不随も治ったわけだし、感謝こそされ、怒られる筋合いなんて無い筈だ。なのに戻ってこいなんて身勝手すぎる。

『無理すんなよ。他は知らねぇが戦場は俺らがプロフェッショナルだ。ロボットは命知らずなんだぜ?』

 笑って見せた、のだろう。首を竦めたBlitzさんは緑色に変わった目で意味ありげに僕を見たけど、まだ付き合いの浅い僕には彼の表情は良く分からなかった。

『Attention、諸君、ブリーフィングを始めるぞ』

 今回指揮を取るJudderさんの声が、車内放送で聞こえて各々居住まいを正す。

『今回の戦場についてだが、まぁ映像を見てもらった方が早いな。見てくれ』

 言われて右目に意識を集中させると、先行の兵士のEyeCameraらしい映像が見えてきた。

 まず兵士がEyeCamraの電源を入れて録画が始まる。どうやら廃墟の屋上に降下したようだ。一瞬視界がフェンスの向こうを見るが内戦と思われる悲惨な状況が広がっている。兵士は仲間が降りてくるのを待ってからドアを蹴破って建物内に突入した。建物内の安全を確保してから援護に回るのだろう、装備は狙撃用の物が多い。3階の踊り場で武装して黒いターバンを巻いた男と鉢合わせたが直ぐに撃ち殺す。そのまま階下へ進んでいくと更に10名程を見付ける。さっきの男と服装が似ている。兵士はアサルトライフルを構えるが、彼らは雄叫びをあげながら大振りのナイフを手に突っ込んできた。腹や腕を撃たれても、痛がる素振りすら見せない。頭を撃っても近付いてくる。兵士の前にいた仲間が一人ナイフの餌食になって、兵士は半狂乱で銃を乱射する。敵は近付いてくる。顔を真っ赤に染めた男がふらふらと兵士の目の前までやってきて、肩を揺すりながらナイフを振り上げる。視界はそこで背後を振り返る。ひきつった顔の仲間達を最後に、映像は途切れた。

『痛覚を鈍くして快楽に変え、極度の高揚と興奮状態にするという…………まぁ簡単に言えば覚醒剤だな。それがここでは流行ってるらしくてな、増援に行った筈の軍が幾つも全滅しかけてる。既に国からの許可は貰ってある。Dragでキモチよくなってる連中はぶち殺して可、だとよ。出来るだけ周囲への被害と正常な連中とを考慮しつつ皆殺し。お前等、全力で食らえ』

『『『『『「Sir,yes sir!」』』』』』

 明確な命令に全員が返事を返して、それから右手で指を2本揃える敬礼をした。

『お前ぇら行くぞぉ!』

 Blitzさんの声に勢いよく車外に飛び出す。途端に感じたのは血と火薬の焼ける匂い、それから絶えず響く銃声。噎せる程の熱気は正と死の拮抗の結果で、そんな中既に一度死んでいる僕等は異質なのだろう。

 僕は出来るだけ落ち着いて素早く補助機が動いているか、装備が揃っているかを確認する。ヘルメットのグラスを下ろして地図を見ると、友軍らしき点がバラバラに引き離されていた。肩にかけたCompany製殲滅式突撃銃AS-T36“DeadPecker”を構え、辺りを見渡した。

 前方100程にさっきみた映像で兵士が制圧しようとしていた廃墟があった。廃墟自体かなり大きい。

『Period、あそこを制圧するぞ。他の奴ら、背中は任せたぞ』

『『『『「I, sir!」』』』』

 巨体の割には小さな駆動音でBlitzさんが前に出る。左腕のCompany製制圧式機関銃MJ251“REDslag”が唸りをあげて稼働し、目に付いた黒ターバン連中を吹き飛ばす。それにDeadPeckerの銃床を肩につけて脳天と心臓に一発ずつ叩き込みながら後をついていくと、Blitzさんは低く笑って言った。

『それじゃあ足りねえぜ、Period』

 REDslagが吠える。空気を食らって吐き出した超高威力の特殊弾“WindEater”が長い距離を駆けて敵の頭に突き刺さり、脳味噌をそのまま外に晒した。確かに敵は活動を止めたわけだが、オーバーキルのような気もする。

 頭を吹き飛ばせば動かなくなる。それに注意しながら殺せば怖くなんてない。初めて戦場だからか、それともこんなに人を沢山殺したのは初めてだからか、酷く頭がぼうっとしている気がした。僕等はそのまま順調に廃墟の前に着いた。奥からはテンションの上がりきった連中の楽しげな声が聞こえてきていた。覗けば突撃銃片手に歓声を上げている連中が15ほど。Blitzさんの合図で踏み込む。一人ずつ確実にぶち殺していって、しかしそこで右目が階段に立つ少女を捉えた。

 眼の覚めるような長い銀髪、こちらを射抜く灰の眼、耳の代わりについている集音機兼無線機、片手で保持した2丁のDeadPecker。無表情で佇む彼女は階下の惨状にも眉1つ動かさずに煙草を燻らせていたけど、僕に気付いて目を少し見開いた。

「Blitzさん、Wackが!」

『なんだと!?』

 声を上げたが遅かった。銃声が鳴り響きBlitzさんが不自然に動きを止める。関節を撃ち抜かれたのだ。歪な音を立ててBlitzさんは左のREDslagを向けようとしたが、側面を叩き付けるように飛来した弾丸が重い筈のBlitzさんを転がす。

「Hi、Period。元気してた?」

 久し振りに聞いた彼女の声に思わず身が竦む。甘く耳に響く優しい声音は愛を囁くように脳を直接揺らした。

「Wack、君は、何して…………」

 訊いた声は震えていた。Blitzさんが呻き声をあげて体を無理に動かす。

「別に何だって良くない? 私はもうCompanyの社員じゃあないんだし、自由にしてて。…………あぁ、そうそう。最近ね、もっのすごくヨクなれるクスリを作ったんだけど、Periodに飲ませたいなぁって思うのよね」

 思い出すまでもない、Wackは元Companyの薬剤師だ。担当薬剤師兼かけがえのない友人だと思っていたのに、僕の苦しむ顔が見たいとか言ってCompanyを辞めてしまった。普通、辞められるわけないのだけど、彼女は副社長の娘だからなのだろう。

『おいおい、まさかここの連中がヤってる奴じゃあねぇだろうな?』

「まさか。あんな質の悪いのを私がPeriodに飲ませるわけないじゃん。…………あぁ、でも頭おかしくなって自分傷付け出すPeriodもイイかも」

 言って浮かべた笑顔は恍惚としながらも凄惨で、芯が熱くなるような熱を伴っていた。あの細い指が触れてくる感触を覚えている。耳元で囁かれる快感を覚えている。僕はまだ全然彼女を忘れられてはいなくて、まるでバカな犬みたいに条件反射が身体に染み付いてしまっていた。

 結局、僕は彼女のものなのだろう。1年程度では、何も変わりはしないのだ。

 煙草の火が赤い線を空間に曳く。両手の無骨な突撃銃を軽く構えて、彼女は至極楽しそうに、嬉しそうに、愛しそうに笑う。

「さぁPeriod、私と踊って? 久し振りだからって手加減は無しよ?」

 声に操られるように、僕はDeadPeckerのグリップを握り締めた。





そう、僕は不運(BadLuck)(Dance)ってしまったのだ。


なんつって。

今回は設定一杯突っ込んでありますね、流石に名前は聞き取れないから後付けですけど。



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