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夢語「意志の無い道具」


夢の話、男装女剣士と三つ年下のご主人様

流血表現注意





 それは、誰にとっての罰だったのだろうか。


 警察の人達が路上に散らばった死体の写真を取っていた。腰元から肩までを袈裟に斬られた死体は腹から内臓を溢して辺りにぶちまけている。道に広がった血の跡などを手当たり次第に写真に撮って記録をつける警察のせいで、道は一時的に塞がれていた。

 死体を見慣れた町の住人は物珍しくもないとその横を通り抜けていく。誰かが踏みそうになった見覚えのあるネックレスが、赤黒く染まってストロボを鋭く反射していた。

「なあ、大丈夫か?」

 優しい声がした。ぼんやりと視界を移すと、直ぐ傍にご主人様が立っていた。心配そうに私を見上げて、右腕に触れて、言う。

「お前、酷い顔してるぞ。…………そんな顔するくらいなら斬らなきゃ良かったじゃないか」

 そういう訳にはいかなかった。あの人はご主人様に刃を向けていたし、私には殺さずにあの人を捕らえることは出来なかった。諦めて、刀を抜いた。私はご主人様のためにあの人を斬ったのだ。後悔はしない、してはご主人様に悪い。

 そうは思うが、私は泣きそうな顔をしていたのかもしれない。ご主人様は慌てて私の頬に手を当てて、もう一度大丈夫かと聞いた。

「…………ぃ丈夫、ですよ」

 こういう時は力強く返した方がいいのに、私の潰れた喉はこんな時でも掠れた音しか出さない。布越しのその音はきっと聞き取りづらいだろう。一言一言区切るように必死で話しながら、ご主人様の手をやんわりと遠ざける。

「オレの、役目は、坊っちゃんを、護る事、ですから」

 紙を擦るような、声にならない囁きを聞いて、ご主人様は苦しそうな顔をする。責任を感じさせてしまっただろうか。一介のボディーガードがおこがましい。

 警察は変わらず記録を続けている。先ほど、私から事情を聞いて記録をつけていた若い警察官が、気になっているのかこちらを何度も見ていた。

「…………ちょっと来い」

 ご主人様は私の手首を掴んで路地裏に引っ張り込む。死体騒ぎの喧騒から離れて、人気の無い所までくると、ご主人様はまた私の頬に手を当てた。温かい掌に思わず目を細める。心地よい温もりは、あの人を殺した穴を埋めるには十分だった。

 そうして心地よさに浸っていたのだが、ご主人様は何か気になることがあったらしい。ぐっと私の手首を握る腕に力が込められ、絞り出すような声で言った。

「まさか…………好きだったんじゃないだろうな」

 きょとんとした。ご主人様は何を言っているのだろう。

 よく私の武器を見てくれたあの人の事を思い出す。片刃の細く鋭い剣を光にかざしながら笑っていた声を思い出す。そんなものに、何の意味もないのに。明るく、あまり思い詰めるような人ではなかったけれど、おかしくなっちゃったものは仕方がないじゃないか。

 ご主人様は私の腕を強く掴んだまま路地の壁に押し付ける。もとより抵抗する気など無いが、その力が随分と強いことに彼の成長を実感した。ついこの間まで非力な少年だったのに、あと三年もしたら私の護衛など要らなくなるに違いない。

 今はまだ私より低い背丈も、直ぐに私を追い抜く。この歳の男の子とはそういうものだ。寂しい、というより少し切ない。

 どんなに努力しても、私では屈強な男の人に劣るのだ。

「そんなわけ、ないじゃ、ないですか。あの人は、ただの、武器屋の店員で…………」

「お前がそう思っていても、向こうはそうは思っていなかったんだろうが」

 ご主人様が声を出すと私の掠れた音は掻き消される。私がまともに喋れないのを、普段のご主人様は汲んで私の言葉を遮るようなことはしない。でもそれをしたということはせっぱ詰まっているのだろうか。

 何に、と自問する私を置いて、ご主人様は口角を歪めて掠れた音を立てた。笑いにも似た声が誰もいない路地に反響する。

「…………まあ、仮にあいつがお前のことが好きで告白したとしても、それは“男のお前”が好きってことだろ?」

 それじゃあ結局は無意味な話ってことだ、と意識して悪どくご主人様は言う。そこには、私は自分のものだという自負は思春期特有の不安に幾らか歪められていた。

 でもそんなひねくれた物言いに私は首を傾げてしまう。何がご主人様はそんなに不安なのだろう。少し考えて、自分の物が他人に取られるのは誰でも嫌だろうと結論付けて、ご主人様の耳に口を寄せるようにして掠れた声で囁いた。

「大、丈夫ですよ。私は、どこにも、行きませんから」

 軽く笑って、ご主人様の頭にぽんっと左手を乗せる。右手は掴まれたままだがほどかない。

「信じ、られるかよ。証拠も無ぇのに」

 約束を欲しがるのは子供の証だよ、とご主人様の父親が言っていたのを思い出す。若冠十五歳にして会社の重役となったあいつもまだ可愛いげのある子供なのだ、だからお前がきちんと見てやってくれ、私の代わりに、と。

 私はもとよりそのつもりだ。ご主人様の傍に身尽きるまで寄り添い、その内どこかで誰かに斬り殺される。あの日拾って貰った恩は忘れやしない。

 とりあえずご主人様がそんな風に不安を抱えてるのは良くない。仕事に支障が出るし、何よりご主人様にはいつも通りでいて欲しい。だから私は口元を覆った布のマスクを外して、醜い顔を風に晒して笑った。

「私は、あなたの傍にいますよ。約束します」

「…………約束なんて要らねぇよ」

「受け取って、くださいよ。私は、約束しか、あげられないんです。いつかあなたにも、分かります」

「そういう問題じゃあ」

「そういう問題なんですよ、ご主人様。私とあなたじゃあ身分が」

 そこまで口にしたところで、壁に力任せに叩き付けられた。服の下に着たプレートがぎしりと軋む。

 オレンジがかかった濃い黄色い瞳が、爛々と輝いて私を見ている。睨み上げる視線は鋭い。ご主人様は普段はあまり怒ったりしない人なのだが、今日はやけに感情的だ。

「お前が、よりによってお前が、身分がどうだと言うのかよ!」

 まるで裏切られたと言いたそうに、ご主人は息を吐く。今にも泣き出しそうに、私の肩に頭をつけて歯を食い縛る。

 そうする理由が分からなくて、困って空を仰いだ。

「昔と何にも変わってねぇじゃんか…………変えれてやれてねぇじゃんか…………」

 か細い声に視線を落とす。ほとんど抱きしめるように私の腕に力を込めたまま、ご主人様は呻く。

「…………目、瞑れ。分からせてやる」

 何をと反問はしない。私はご主人様の命令は全て聞く、ただの護衛だ。

 だから何も言わずに目を閉じた。




見事に意味不明。夢独特の、こうなんと言うか察しろ的雰囲気が出せてるならそれでいいことにする。

俺にしては珍しいことに割りとナイスなバデーをお持ちの主人公ちゃん。俺の夢なのに背も高い。まあ一人称だったから差し込む場所はなかったけど。



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