新たなターゲット
「愛ちゃん、おはよう」
「おはよう」
あれ以来、桜宮さんは私のことを“愛ちゃん”と呼ぶようになった。
名前で呼ばれるのは、何年ぶりだろうか。まぁ、名前で呼んでいるということは、それなりに私を信頼しているととっていい。ということは、周りのやつらよりは、利用しやすいということだ。これほどよい道具はない。
「愛ちゃん、お昼食べに行こう」
「うん」
私はほとんど、桜宮さんと行動を共にしている。共にしていると言っても、彼女は私以外の人間とは全くと言っていいほど話をしない。そのため、彼女はいつも私についてくるのだ。
私は昼休み、知ってはならないことを知ってしまうことになるのだった。
「愛ちゃん、私が転校したあとに、クラス内でいじめみたいなのがあったんでしょう?」
「えっ!?」
いじめみたいなもの? それって、まさか……。
「クラスの子のほとんどが、一人のクラスメイトを徹底的に痛めつけるみたいなやつ。友達がそんなようなこと言ってた。誰がやられてたかまでは知らないけど」
こいつ、あのことを知っているのか。転校したのに。
私はこの話を聞いたとき、私の頭の中ではすでに、たった一つのことしか考えていなかった。
“どうやって痛めつけるか”
それだけで頭がいっぱいだった。
「そうなの? 私桜宮さんが転校してすぐに違うところに行ったから、わかんないや」
当然これは嘘。転校したということにしておかないと、このことについて、詳しく聞かれる可能性があるからな。
「えっ! そうだったの?」
次のターゲットはあんただよ。桜宮皐月さん。
さぁ、友達ごっこの始まりだ。