第4話 約束
「へぇ〜花音と紫央、付き合うことになったんだ〜。」
予想通り祐樹がひやかしてきた。三連休分のひやかしだ。
「なんだよ!」
「へタレの紫央君がね〜。」
「うるっさいつーの!いいだろ、別に!」
ムカツク〜。反論できないのがまた…
「花音、こいつどんな風に告ったの?『ヘタレ』のこいつが。」
「えっとねぇ…」
「花音!余計なこと言うな!」
俺は花音を怒鳴った。
「紫央、ヨカッタな。お前この頃いい顔してるぜ。あのときよりもかなりな。」
祐樹が肩をポンと叩いて教室を出て行く。祐樹は冗談とかで言ったんだろうけど、俺はだんだんテンションが下がってきた。
あのとき――。思い出したくないことだ。
「紫央、どうかした?」
花音がいつもの笑顔を俺に向ける。そうだ、俺には花音がいるんだ。テンションMAXとはいかないが、少しだけ元気が出た。花音はなんかバファリン(優しさでできてます)みたいだ(笑)。
「んーん。大丈夫。それよかさ、今日本屋行きたいんだけど付き合って。」
ドサクサに紛れてデート(仮)に誘う。
「いーよ!」
またまた屋上で俺と祐樹は話していた。
「祐樹、花音に言うなよ?」
「そんなに嫌?あの時のこと…」
祐樹がニヤつく。俺は前髪をかきあげて上を見た。空は今にも大粒の雨をこぼしそうだ。
「当たり前だ。お前は違うのかよ。」
「ん〜、紫央のがやってたし。俺は」
ポツポツと雫が落ちてくる。
「そうだな。」
そんな時俺のケイタイが震えた。花音からだ。
『ゴメン今日一緒に帰れなくなっちゃった。ゴメンね。また今度行こうね。』
というメール。所々に絵文字が使われている。
「あ〜紫央くんフラれた〜。」
「約束キャンセルされただけだろ。」
「なあ、あのこと、気にしなくていいんじゃん?過去だし。ポジティブシンキング!!」
やっぱり祐樹はすごい。明るすぎて困るけど。
帰りに俺は、CD屋に立ち寄った。本屋は花音と行く予定だから、行かなかった。
CDを何枚か手にとってみるが、いい商品は見つからない。
諦めて帰ろうとしたとき、
ドンッ!
俺は余所見をしていたのか前にいた奴にぶつかってしまった。
「いてっ。あ、ゴメンナサイ。」
「余所見してんじゃね〜よ!!って…紫央?紫央じゃね〜か。」
聞き覚えのある声。でも思い出せない。もうボケてきたのか?
「誰だっけ?」
そう言ったら怒られた。
「ふざけんじゃねえ!俺を忘れんなよ!」
そう言われてもわかんねえんだからしょうがないじゃん。やっぱりボケか?ヤバイな。『脳を鍛える大人のDS』しないとダメかな(笑)。
「俺だよ。田嶋新だよ。」
田嶋新――思い出した。中学のときの連れだった。コイツと祐樹と俺でそこらを荒らしまくってた。学校の窓ガラスを優に10枚は割った。タバコも吸ってたし、警察にも連れて行かれた。その数は数え切れないくらいだ。これが祐樹の言ってた『あの時』だ。
新はかなり変わっていた。だからわからなかった。(つまり俺はボケていない!)
今、一番会いたくない奴なのに…
「紫央、今も暴れてんのか?俺、ウゼェ奴いるんだけど手ェ貸せよ。どうせ暇だろ?祐樹も誘ってさ。」
「…暴れてない。毎日学校も行ってるし(殆どサボってます)。祐樹もちゃんとしてる。もう、あんなガキみたいなことしないよ。面倒くさいし。お前もいい加減止めれば?」
何気ない言葉だったのだが、俺は新を怒らせてしまったらしい。
「はあ?説教かよ。バカにすんじゃねえ。」
何故これで怒るんだ?説教なんかしてないし。バカにもしてないし。やっぱり頭悪い奴は嫌だな。理解力に欠ける。
「ウザイ奴がいるなら自分でやればいいだろ?それとも、一人じゃ何にも出来ない腰抜けか?」
「紫央!!テメェ殺すぞ!」
口が勝手に動く。怒るってことは図星だろ…
「お前みたいな奴に俺が殺されるわけ無いだろ?」
その言葉で新はキレたらしい。やっぱりバカだ。暴力で全てを片付けようとするなんて。
俺は新の拳をしゃがんで避けた。新の拳は商品に直撃する。
「ヤバ…」
俺は新の腹にケリをかました。よろけた隙に店から走り去る。
横断歩道を赤に変わるギリギリで渡る。そのまま走って、路地裏に逃げた。
新なんかすぐに倒せるだろうが、痛いのは嫌だ。
「何とか、撒いたか?」
嫌だな〜。この先どっかで会ったらやられそうだし。
となると祐樹も危ないかもな。花音と一緒に居るときに会ったら―。
「えっ!新に会った!?しかも怒りを買っただと?フザけんな!!俺まで巻き添え食らうじゃん!紫央のボケ!!」
祐樹は俺をポカポカと殴った。軽く痛い。
「しゃーねぇだろ?新が勝手にキレたんだよ。『ガキみたい』って言っただけだ。」
俺は悪くない。あれだけでキレる新が悪い。……俺が悪いのか?
「何の話?」
ひょこっと顔を出す花音。ビックリしたぁ。今日は花音は髪を二つにくくっている。
「このバカのせいで〜。俺らが中学のときつるんでた奴の怒りをこの『バカ』が買ったんだ!俺まで危ないの〜。怪我するじゃん。紫央のバ〜カ!!」
何度も何度もバカって言いやがって!祐樹には絶対言われたくない言葉だな。しかも、花音に説明してたはずなのに、何でか俺に矛先回ってるし。
「その人強いの?そんな人と一緒に居たの?」
さすが花音。かなり痛いトコついてきます。
その質問には祐樹が答えた。
「強いんじゃない?中学ではかなり恐れられてたし。まぁ俺らもかなり…」
「祐樹!!余計なこというな!」
俺は気付いたら叫んでいた。それが、逆に、花音に不信感を抱かせるということを忘れて。
「もう、いいじゃん。花音は勘がいいし、いつかバレるんだから。」
「…そう、だな。俺から話すよ。」
花音は俺のこと嫌いになるかもしれない。でも、やっぱり言わなくちゃって思った。どうせ、隠せないし。花音を信じたい。
「俺と祐樹は、中学の頃はすごい荒れてた。」
「荒れてたのは紫央だろ?俺は別に荒れてないもん。」
祐樹が口を挟む。俺は無視した。
「それで、田嶋新って奴と三人でつるんでたんだ。俺達は手が付けられないほどだった。毎日、ムカついてた。うさ晴らしに、何人も殴った。(何人なんていう少数じゃないけど)窓ガラスを暇つぶしに全部割ったり、タバコだって吸ってた。警察に連れてかれたりもした。人は殺してないけど、間接的に殺してるかもしれない。
俺は、そういう奴だった。いや、そういう奴だ。今も、きっと変わってない。」
俺は真っ直ぐに花音を見た。花音も俺を見る。その目は『怯え』なのかはわからなかった。
「そっか。それ、すごいね。驚いた。でも、今はそんな人じゃないでしょう?毎日ムカついてるのかもしれないけど、人は傷付けてないでしょ?大丈夫だよ。ムカついたり、嫌なことがあったら、あたしに言って欲しい。ちゃんと受け止めるから。だから、もう、人を殴ったり、喧嘩しないで。」
花音らしい答えだった。花音は俺を思ってくれてるって自惚れてもいいかな?
「約束する。喧嘩しない。殴らない。」
花音は小指を突き出した。
「約束。」
子供みたいだ。
花音の指の温かさが体に染み込むようだった。
「なんだよ〜。俺のことシカトしちゃってさ〜。そこのバカップル、周りのことも考えろ〜。」
祐樹が机に座ってブツブツと文句を言い出した。コイツはしつこいんだ。
「祐樹ウルサイ。」
「…紫央のバカ。」
またバカって言いやがった。俺は祐樹より頭はいいぞ?
花音が俺達を見て笑ってる。花音が笑うのはいいんだが、バカと言われてるところで笑われてるのは嫌だな。
俺と花音と祐樹、3人で本屋にいるときのことだ。本当は花音と2人で来る予定だったのに…。祐樹の奴、邪魔しやがって……
「なぁ、新がいる。あっちの棚のほう。」
祐樹が小声で俺に告げた。
まだ問題は解決していないことを忘れていた。
「えっ!あいつが?本屋なんかにくるようになったのか!」
「そっちかよ!」
中学のアイツなら絶対にありえない。本どころか、マンガでさえ読まなかったのに。
「今日、一緒にきてよかった。」
「は?お前新がいること、予想してたのか?」
俺はちょっと祐樹を尊敬した。バカだけど勘はいいんだな…
「いや?お前らの邪魔しに来た。だって初デート(仮)は見逃せないし〜。」
……俺がバカだった。祐樹を尊敬してしまった。よく考えれば、祐樹がそんなこと思うわけない。アイツの頭には楽しい事(俺の邪魔など)しかない。
「…祐樹、花音を安全なところに連れてけ。俺1人で大丈夫だから。」
「かっこつけんな。でも、花音が怪我したらイヤだもんな。その頼み聞いてやるよ。昼飯おごれよ?」
「……俺の方が痛い目に遭うのに、何で奢るんだ?お前は怪我しないんだからいいだろ?」
祐樹の理屈は不明だ。流石バカ!
「…そうだけど〜いいじゃん。紫央金持ってるし。(賭けで儲けた金)」
そういう問題じゃないだろ。
俺はもう何も言わなかった。
「んじゃ、紫央クン頑張ってね〜。」
…かなりムカつく。
俺は、微妙に新に近付いた。
わざわざそんなことしなくてもいいと思うかもしれないけど、こういうことは早めに片付けた方がいい。この先ずっと狙われるなんて絶対嫌だ。
「新、また会ったな。」
「紫央!このあいだはよくも!表でろ!このあいだの続きだ!!」
「…ひとつ頼みがある。聞け。」
「それが、人にものを頼む態度か!」
無視、無視。こいつの話は聞くに堪えない。
「今回の勝負で、終わらせてくれないか?お前が勝っても、負けても。もう、こういうことはしたくないんだ。つまり、最終勝負?」
花音が傷つかないために。ついでに祐樹も。
「…いいぜ?お前とやったって面白くないからな。昔の連れのよしみだ。」
その理屈おかしくないか?まぁいいけど。
「こいよ。紫央。」
新が挑発してくる。
「こういうのは弱い奴が先だろ?お前から来いよ。」
「なんだと!テメェぶっ殺してやる!!」
だからお前には殺されないって。
「うっ」
俺の腹にアイツのケリが入る。このあいだの仕返しか?
今のは避けようと思えば避けれた。でも、俺は避けない。
「何で避けない!?お前なら避けれただろう?手加減すんじゃねぇ!」
「避けたら、お前怒るだろ?(変な理屈つけて)こっちは早く終わらせたいんだよ。」
それを言い終わる前に、顔面ヒット。これは痛い。
「紫央、打って来いよ!!」
「俺はやらない。約束したから。」
花音との約束が頭の中でぐるぐる回ってた。『喧嘩しないで。人を傷付けないで。』
バキッ
ドカッ
俺は何度も何度も殴られた。ケリもあった。鈍い音が聞こえる。
強烈なケリが俺の腹に入る。本日、5回目。
「ちっ、つまんね〜。無抵抗の奴これ以上やったってつまんね〜。」
「じゃあ、もう、止めれば?」
また俺の腹に足技が入る。
「言われなくても、終わりにしてやるよ。本気でやりたかったのによ!」
新らしい。
「気が…済んだ…のか?」
体中が傷だらけで、腹に5発入ったせいか、うまく話せなかった。
「…ああ、済んだ済んだ。もう失せろ!ウゼェ。」
新は意外に優しい。基はいい奴なのに…
「じゃあな、紫央。昔のよしみだ。」
俺はこれからどうしろというんだ?歩けないし、携帯取れねーし。
目の前が真っ暗になっていく。そのまま気を失った。
気がつくと、俺は病院に居た。当然と言えばそうなのだが。
「紫央クン、おはよう。」
目の前には祐樹がいた。
「祐樹…」
「新に呼び出されて、俺も参戦させられるのかと思ったら、紫央が倒れてんだもん。ビックリした。気ィ失ってんだもん。」
そんなとき、花音が入って来た。
「紫央、起きた?大丈夫?」
「花音、俺、殴ってないよ。殴られたけど、やり返してないよ。約束、破ってないよ。」
一番言いたかった言葉。
一瞬キョトンとする花音。
「…うん。わかってるよ。」
花音はニコッと笑った。まるで、わかってたとでも言うような、笑顔だった。
「なあ、紫央、俺にお礼ないの?」
は?お礼?何の?あ、ああ色々だな。
コイツに言うのは癪だけど、言ってやるか。
「…ありがとう。」
確かに言ったけど、もちろん、棒読みで。
「うわ、最悪。」
俺は、この後、何故かぐっさんに怒られることになる。俺はやってないのに。
ぐっさんの言い分によると
「他校の生徒と、誤解されるようなことするな!あと、CDショップの店員が、商品をダメにされた。と言っていた。誤りに行けよ?金持って。」らしい。
俺、悪く無いじゃん。