第3話 涙の告白
俺は面と向かってじゃないけど花音に告白した。花音の意識があるときに言わなきゃいけないのはわかってるんだけど……。
ハァ、自分がこんなにヘタレだとは思わなかった。告白したのを知ってるのは祐樹だけ。祐樹には何故か速攻でばれた。花音同様、祐樹も勘がいい。祐樹には散々バカにされた。
「何で寝てる相手に告白するんだよ。」とか…
ほっとけよ…。どうせ俺はヘタレだよ!!
「おはよう。紫央、祐樹。」
花音がいつも通り明るく挨拶してきた。俺も祐樹も同じように挨拶する。
俺がアカリにキレてからアカリ(その他の女子を含む)は近付いてこない。反省したのか、俺が恐かったのかわからないが、その方が楽といえば楽だ。
俺って惚れっぽいよな。まだ一ヶ月足らずでいきなり告白なんてさ。(実際はしてないだろ)
「花音、今日さ放課後ゲーセンとか、カラオケとか行こうよ。」
祐樹がかばんを開けている花音に話し掛けた。朝一番の会話が放課後の事かよ。
「えっ今日?ゴメン。今日は無理なんだ。ピアノだから。」
「ピアノ?」
俺達2人は同時に聞き返した。初耳なんですけど…
でも、イメージがぴったりだったりして…
「へぇ、いいじゃん。」
素っ気無く相槌(?)を打つ俺。俺はこんなだったか?もっと、普通の奴じゃなかったか?
「ゴメンね。」
俺は単独でサボってる。祐樹はぐっさんに捕まった。アイツの成績があまりにも悪すぎるからだ。1年のうちから赤点とりまくり。そのうえ授業はサボる。それはさすがにヤバイだろ。
もちろん俺は成績優秀!自分で言うのもなんだけど…。サボってても成績がよけりゃ教師は何も言わない。たまにぐっさんが「サボるな。」というくらいだ。
それよりも、俺こんな奴だったか?この頃好青年モードOFFだし……
花音に係わってから?いやいや、それは考えちゃいけねぇ。そんなこと考えたら俺の思いが行き場無くすことになる。
やっぱりまず告白か?それは関係ないか?
「しっおん君!な〜にブツブツ言ってんの?怪し〜よ。」
その声の主は祐樹だった。
その言い方がかなり頭にくる。
「なんでも無い!お前ぐっさんの説教終わったの?」
「ん?ああ。だってもう休み時間だしぃ、次、ぐっさん他のクラスの授業だしぃ。」
またムカツク言い方を…
そんなときどこからとも無く『音』が聞こえた。
「ピアノの音だね〜。花音っぽくない?花音とか弾きそうだし〜。紫央君見てきたら〜?花音ちゃん見たいでしょ?」
祐樹がひやかすように言ってくる。ムカツク!!…けど否定できマセン。めちゃくちゃ見たいです。
「…うるっさいな。お前はエスパーかよ。いちいち人の心理をさぐるんじゃねえ。」
そう言いつつ足が音楽室に向かう。祐樹の思うツボのような…
カラッ
音楽室のドアを開けるとやっぱり花音がいた。やさしい顔で穏やかな曲を弾いている。
「やっぱり花音だった。」
「あ、紫央。またサボってたね。屋上に居たの?」
音を奏でながら話す花音。
「…うん。そしたら音が聞こえたから。」
祐樹にそそのかされた事は黙っていよう。笑われそうだし。引かれそうだし。
「そっか。今日、ピアノの日だから、練習してるんだ。」
ぴたっと音が止まる。花音が俺の方にやってきた。練習しててもいいのに。
「花音?どうした?」
「ん?別に。ねえ、紫央、お話しようよ。」
オハナシ?ちょっとドキドキ?平静に平静に。
俺たちは椅子に隣に並んで座った。俺は机に突っ伏しながら話を聞いた。突っ伏すなんていっても顔は花音に向けている。
「このあいだいじめられてるの助けてくれてありがとね。あんまり心配かけたくなかったんだけど。でもやっぱり嬉しかった。」
「あんなんいいよ。俺がそうしたかっただけだし。」
おいっ俺!愛想良くしろよ。素っ気無さスギ……
いや、俺何も考えんな!
「でもやっぱり辻さんかわいそう。ずっと紫央が好きだったのに……あたしが横取りしたみたいで…」
俺は顔を起こした。
あたしが横取り?もしかして俺のこと好き?
それは無いな。俺絶対バカだ。
花音は本気で悩んでいるようだ。やっぱり優しい。
それで自分が悪いとかよく言えるな。祐樹も自我を抑えられるし、花音も自分より他人のことを考えるし。
それに比べて俺はいいところなんか全然ない。性格を偽って、自分の居場所を確保して。それで独占欲が強くて…自分を守る為なら誰かを犠牲にする。
こんな俺、誰も好きになってくれないんじゃないか。
突然、そんな思いがよぎった。
花音が大切なのに自分を好いてくれてないんじゃないか。そう思ったら何故か急に涙が溢れた。
バカみたいに涙をこぼした。
「し、紫央?どうしたの?」
花音がオロオロと俺を見る。
俺は何も言わない。言えないんだ。言葉が見つからない。
花音はあきれたように俺の隣から離れた。
カタン
椅子を引く音がした。
そして優しい音がする。さっきと同じ曲。花音が弾いてくれている。
「この曲ね、カノンって言うの。あたしと同じ名前なの。すごく優しい唄。あたしはここまで優しくないけど、元気出して。何があったのかわからないけど、なんでも言って?
紫央が前に、『悩みや困ってることがあったらなんでも言えよ。』って言ってくれたみたいにあたしも力になるよ。だから、泣かないで。いつもみたいに笑ってよ。」
花音が笑った。
また、涙が溢れ出しそうだった。それを必死にこらえた。泣くと言えなくなるから。
「花音、好きだ。」
これだけしか言えなかった。精一杯の告白。
断られるのはわかってる。覚悟はできてる。
俺はまっすぐに花音を見つめた。
「ホントに?ありがとう。あたしも、紫央のこと好きだな。」
花音は小さい子をなだめるような口調で言った。
予想とは大きく違った答えだった。聞き間違いかと思った。
「嘘だ…俺なんか誰も好きになってくれない。」
「嘘じゃないよ。紫央。」
花音は俺にキスをした。
俺は軽く照れた。
そして俺達は付き合うことになった。
あとでかなり祐樹にひやかされそうだけど……