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第1話 好青年VS転校生

俺達の恋には期限があったんだ






「今日はみんな知っている通り、転校生を紹介する。さあ、入れ。」

熱血顔の担任、山口が黒板に大きく転校生の名前を書いている。その文字は癖のある字で少し読みにくい。桜木花音(さくらぎかのん)。そう読み取れた。

俺を含む殆どの男子は朝からソワソワしていた。みんなで転校生がどんな奴か賭けた。俺のダチは、がり勉orブスに賭けていた。あんまり親しくない奴らも入ってきて、「じゃあ、俺は眼鏡さん。」などと言ってかなり盛り上がった。肝心の俺は『ロングヘアーの可愛い奴。』と冗談交じりに賭けた。賭けた金は1000円。負けたらパアだ。

入ってきたのはロングヘアーのどっちかって言うと可愛い方だ。よしっ。賭けは俺の勝ちだな。

「桜木花音です。よろしくお願いします。」

爽やかな声で挨拶する桜木花音。ラッキーなことに彼女の席は窓側の一番後ろに座る俺の横となった。まあ、どうでもいい。今の言葉が俺の本音。クラスの奴らとバカ騒ぎしてれば俺の居場所が確保できる。傷付かない。仲良しごっこをしてれば嫌われない。俺はそんな奴だ。

カタッ

桜木花音が席についた。

そして俺のほうを見ている。

「桜木花音です。よろしくね。」

「は?何で自己紹介すんの?さっき教壇とこでしたじゃん。俺はそんな耳悪くないって。」

にこやかに笑う俺。これは必須条件。どうでもいいのに変わりはないが、好印象を与えておいて損は無い。

彼女もアハハと笑った。かわいいのは本当だ。でも、あえて言うなら『天然』だろう。間違いなく。

不意に俺の前の席の加藤が顔を向けてきた。一番仲がいいと言える奴だ。目的は勿論俺じゃなくて桜木花音。

「ねえっオレ加藤祐樹(かとうゆうき)。よろしくっ。花音ちゃんめちゃくちゃかわいー!彼氏とかいないんだったらオレなんかどう?絶対オススメ!!」

「祐樹、自分で言うなよ!バカ丸出し!」

こういうツッコミは毎回のこと。実際はめんどくさいんだけど…。

「ていうか、賭けは俺の勝ちだよな。」

「…おう。お前強すぎ!!外れねーんだもん!」

「こぅら!!加藤、朝原!さっきからうるさい!少しは黙らんか!」

山口が声を張り上げて怒った。ぐっさんが怒ると面倒なんだ。ぐっさんと言うのは説明しなくてもわかると思うけど山口のニックネームだ。ぐっさんって言ったら怒るけど。

「すんません〜」

素直に謝るのも必須条件の一つ。「普段はバカやってるけど授業はマジメ」みたいだと先生からの好感度もUPってもんだ。俺の人生はみんなから信頼されることから始まる。って言うのもかなり大袈裟だけど…。

「朝原…君?合ってるよね?」

話し掛けてきたのは勿論桜木花音。

「あ?ああ。そういや名前言ってなかった?俺は、朝原紫央(あさはらしおん)デス。ヨロシクオネガイシマス。」




一時間目は数学。またまたぐっさんが教壇に立つ。ぐっさんはSHRのときはうるさいが、授業の時は殆ど注意しない。言っても聞かない生徒に対して無駄な労力を使いたくないのだろう。でも、うちのクラスは意外と静かだ。いつもバカ騒ぎしてるのに……。

残念ながらみんな勉強などしていない。意味不明な数式とぐっさんのお経のような声に嫌気がさして寝ているのだ。一時間目から寝るのはすごいと思うかもしれないが、それほどぐっさんの授業はつまらないのだ。

チラッと桜木花音の方を見てみると、かなりマジメに授業を受けている。こんな授業をよく受ける気になるな。



キーンコーン…

やっとぐっさんの授業が終わり、みんな目覚めた。

「ふぁぁ…マジでかったりぃ。紫央、フケねえ?今日の授業全部ウザイしさ。転校生楽しみにしてたけどもう、それも終わったし。アカリとか誘って行かねえ?」

「おっ、い〜ね。」

アカリって言うのは俺らの連れで、クラスのリーダー的存在(女子だけ)だ。アカリが言うと大抵の奴はのってくる。

「朝原君たちどっか行くの?」

俺は桜木花音と目が合ってしまった。『しまった』の意味は余り無いけど。小動物みたいな目をしている。なけなしの良心もうずく…みたいな?

「うん。サボリ。」

祐樹が答える。でも、納得いかないのかジッと俺たちを見ている。「サボるな」とか言いたいのか?それだったらマジメスギかも。

「……」

何故か沈黙。言いたいことがあるならはっきり言え!

「一緒に行きたいな。」

そっち?やっぱり変な奴だ。祐樹は喜んでるみたいだけど、俺は嫌だ。

結局祐樹の言葉で一緒に行くことになった。そのかわりにアカリ達は来なかった。


「ねえ、朝原君。毎日楽しい?」

唐突な質問。

「え?めちゃくちゃ楽しいよ?見てて分かるでしょ?」

一瞬ドキッとしたけど大丈夫だろう。自分は楽しくないとかそういう系統だ。

「さっきちょっと見ただけだからわかんないけど…朝原君は楽しそうじゃなかった。みんなとワイワイ騒いでる時とか…目が笑って無かったよ。」

え?っていう感じ。一瞬見ただけで俺の内の性格見抜きやがった。普通ありえない。笑ってなかったらネタがつまらないとか、めんどくさいだけとか思う筈なんだけど…天然かと思ってたけど案外鋭い勘(?)の持ち主かも…

「そう?最高に楽しんでるけど?目が笑ってないとか言うのは…地顔。じゃない?」

ヤバイかも。これ以上話すとボロが出そう。それは無いと思うんだけど。成績優秀の紫央くんに限ってそんなこと……

俺は考えるのに夢中で好青年モードを自動的にOFFにしていた。にこやかな笑顔は消えていった。

「朝原君、ちょっと嘘下手かも。」

そう言って桜木花音はクスッと笑った。めちゃくちゃムカつく!!こうなったらめんどくさい。必殺!開き直り!!

「凄いじゃん。桜木。こんな早く性格を見破られるとは思わなかった。このこと誰にも言うなよ?しってんのはあんたと祐樹だけ。言ったら、怒るよ?」





こんな小さな始まり。俺は花音に心を開いていくようになる。



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