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スーパーマンが死んだ

作者: 軒 昴
掲載日:2026/03/02

スーパーマンが死んだらしい。

朝の電車でそれを知った。

ニュースアプリの通知が、天気予報の下に挟まっていた。

「第一号執行者、死亡」

理由は未発表。調査中。


正式名称は「超法規的治安執行者法」。通称、スーパーマン制度。

治安悪化を受けて成立した、ほとんど非常事態みたいな法律だ。

警察権を一人に集約する。令状の即時発行。発砲判断の自己決定。必要とあれば、自衛隊の一部部隊を直接指揮できる。国家が一人に圧縮されたような存在。

成立時の支持率は七八パーセント。

反対派もいた。「独裁だ」「民主主義の終わりだ」とデモが起きていた。

けれどテロや無差別事件が続いていた時期だったから、反対の声はうるさく聞こえただけだった。

犯罪発生率は三年で過去最低を更新した。

夜道は静かになった。

ニュースの赤いテロップも減った。


一度、大きな炎上があった。

立てこもり事件。

爆発物を抱えた男が、商業施設で子供を人質に取った。

スーパーマンは現場到着から二分で男を射殺した。

子供は助かった。

映像は繰り返し流された。

男が撃たれる瞬間は編集されていたが、血痕は映った。

後日、その男に精神疾患の既往があったことが報じられた。

家族が泣きながら会見を開いた。

「殺す必要はなかった」


反対派が再燃した。

#処刑ではないか

#国家が人を殺した日


支持率は四二パーセントまで落ちた。

僕はそのときも、動画を見ながら思った。

仕方ないだろ。このおかげで僕たちが安全なんだから。

でも同時に、少しだけ物足りなかった。


今回の死は、少し期待した。

殉職では弱い。

事故ではつまらない。

僕はすぐに彼の死因を空想した。

反対派の中には、「アンチヒーロー」という活動家がいて、彼の自宅に押し掛けたりするヤバイ集団がいるらしい。もしかしたら、そいつらが裏社会の人と手を組んで暗殺したんじゃないか。

いや、でも最近スーパーマンは国際治安の悪化に伴って自衛隊を軍隊にして安保理条約の破棄を目指してた。もしかしたら、アメリカに目を付けられて狙撃されたとか。狙撃ではなく誘拐で今もどこかで拷問みたいなものを受けてるんじゃないか。

いやいや、彼がスーパーマンたる理由はその超人的な能力だった。日本中の事件を一人でやるわけだから肉体的にも精神的にもなにか改造とかドーピングとかを国家にされてたはず。この機密情報の漏洩阻止で暗殺とかもありそうだ。

だけど個人的に一番ありそうだったのは、粛清説だ。

支持率が落ちた彼を、政府が切り捨て、英雄として神格化するために、計画的に消した。

完璧だ。

悲劇性もあるし、政治的含みもある。

物語として筋が通っている。

海外フォーラムではさらに派手だった。

AI監視網が自律進化し、彼を「非効率」と判断して排除したとか。

実は彼は二代目で、本物はすでに死亡していたとか。




数日後、遺書が公開された。


「本制度は機能した。社会は安定した。

 ただし、人間は変化しなかった。」


全文だった。

暗号もなければ、告発もなかった。

名前も署名もない。

自殺。

公式発表はそれだけだった。

コメント欄は一瞬止まり、すぐに方向転換した。


SNSはすぐに騒がしくなった。

#ありがとう守護者

#ごめんなさいスーパーマン


支持率は九六パーセント。

僕はスマホを閉じた。

なんだ、自殺か。

国家に消されたわけでもなく、

敵に撃たれたわけでもない。

自分で終わらせただけ。

正義のわりに、ずいぶん地味だ。


数日後、政府は発表した。

「第二号執行者選抜手続き開始」

反対派はまた騒いでいるらしい。

でも街は変わらない。

コンビニは明るいし、終電も走る。

治安は良いほうがいい。

新作ゲームの配信通知が来た。


スーパーマンが死んだらしい。

でも、今日も街は静かだった。

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