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第9話「爆ぜろ倉庫、跳ねろKPI!」

大小さまざまな煤喰いワームが、棚の隙間から、床の割れ目から、ぞろぞろと這い出してきている。大きなものは人の胴ほど、小さなものは蛇のように素早く這い回る。


「ひっ……まだ増えてる!? どんだけ巣食ってるんだよこれぇぇ!」

亮太が絶望の声を上げると、ロッコが苦々しく唸った。


「煤喰いワームは群れる習性があるんだ。弱点は……強烈な光! 奴らは煤の闇にしか棲めねぇ!」


「じゃあ、光を浴びせれば――」

「少なくとも退かせられる! だが松明程度じゃ足りねえ。もっと一気に光を放つもんが要る!」


二人の視線が倉庫の棚へと向かう。

「……閃光弾! 確か王国軍用の備品があったはずだ!」




二人は散乱した棚の中を必死に探し始めた。

しかし――


「うわっ!」


亮太の足首に小型ワームが食らいついた。焦りの中で、亮太はハッとする。

「……あっ! こいつ、煤を吸いすぎると爆発するって言ってたな!? じゃあ……離せぇぇぇ!!」


思い切り足を振り払うと、ワームは棚の方へ飛んでいった。

次の瞬間――


ドゴォォォンッ!!


火薬を多く収めた棚が爆発。

衝撃で周囲の薬瓶や筒が連鎖的に破裂し、倉庫全体が白煙と閃光に包まれる。

「バカヤロウ! なにやってんだ!!」



爆煙の中から、胴ほどもある巨大な煤喰いワームが姿を現した。

その尾が鞭のようにしなり――


「ぐっ……がはっ!」

ロッコの体が宙づりに持ち上げられ、尾で羽交い締めにされる。

「おい、亮太……っ、息が……! 急げ、光を……っ!」


「くそっ……!」


亮太も小型ワームに追われながら、必死に棚を探し回る。

床を這うもの、天井から垂れ下がるもの、まるで倉庫全体がワームの巣窟と化していた。



「――あった!」


崩れかけた木箱の中から、小型の金属筒を見つけ出す。

火縄を擦りつけ、目をぎゅっと閉じた。


パァァァンッ!!!


閃光弾が爆ぜ、倉庫全体を白昼のごとき光が満たす。

ワームたちは悲鳴のような鳴き声を上げ、一斉にひるみ、奥の闇へと退いた。


「よ、よし……!」

亮太は安堵の息を吐く。



その時――

ガチャリ、と倉庫の扉が開き、涼やかな声が響いた。


「やはり……嫌な予感は当たりましたね」


光の魔法陣が展開され、倉庫全体に柔らかな聖光が降り注ぐ。

煤喰いワームたちは次々と炭のように崩れ落ち、完全に動きを止めた。


ミーナが扉口に立ち、静かに詠唱を終える。

「……全く、あなたたちったら。危険物倉庫で暴れるなんて、正気の沙汰ではありません」


――返す言葉もない



煤喰いワームが焼き尽くされ、倉庫には焦げ臭さと白煙、壊れた木箱の残骸が散乱していた。

亮太とロッコは肩で息をしながらも、必死に残骸を片付けていた。


その時――

「……やっぱりこうなっていたか!」


朗らかな笑い声が背後から響いた。振り向くと、分厚い胸板を揺らしながらギルドマスター・バルドが立っていた。

その顔には心配よりも「ほら見ろ」と言わんばかりの愉快そうな笑み。


「お、お頭……!」


ロッコが気まずそうに頭をかいた。バルドは二人をぐるりと見回し、顎を撫でながら低く言った。

「で、ワームは? 生き残りはいねぇか? それに卵だ。あれを残したら、また巣食うぞ」


「た、卵……?」

亮太はロッコとともに再度棚や床を探り、黒い塊や卵らしき物がないかを丁寧に確認していく。

やがて、二人は顔を見合わせ、小さくうなずいた。

「……大丈夫そうです。全部死に絶えてます」

「卵もなし、です」


バルドは満足げに頷くと、豪快に肩を叩いた。

「よし、今日はそれで十分だ!お前らもう帰るぞ!」


「いや実は片付けが残っていて…」


そう口にしたとき、ミーナがそっと声をかけた。

「今日はもう遅いです。お二人とも、そのままじゃ煤と薬臭で体を壊します。一旦、汚れを落として休んでください」


「でも――」

食い下がろうとした亮太に、ミーナは少しだけ声を潜めた。


「……実は、マスターから向かうように言われていたんです。嫌な予感がすると」


亮太とロッコは顔を見合わせ、苦笑しながら肩をすくめる。


「それに、もうすぐ冒険者の皆さんが帰ってきます。一緒に達成件数を確認しましょう!」


その提案に押されるように、二人はうなずき、倉庫を後にした。




――そしてギルドの大広間。依頼を終えた冒険者たちが疲れを癒すために、酒場のテーブルを囲み、わいわいと盛り上がっていた。

ジョッキを打ち鳴らす音、笑い声、そして焼き肉の匂いが、活気ある夜を彩っていた。




バルドは腕を組み、豪快に笑う。

「おいおい、いつにもまして盛り上がってるじゃねえか!」


亮太もその様子に目を見張った。

(……いつもの倍は声が響いてる。みんな、達成感があるんだな)


ミーナは軽く頷くと、帳簿を手に集計役のラルフのもとへ歩み寄った。

「ラルフさん、お願いします」


ラルフは机に広げた紙束を片付け、立ち上がると咳払いを一つ。

「本日の依頼進捗を発表ですが――」


広間の視線が一斉に集まる。

「22件中……10件達成!」




【KPI更新】


達成依頼件数:10/22 ↑




「おおおおおおっっ!!!」

真っ先に声を上げたのはロッコだった。豪快に盃を掲げて吠える。


「自分で発表しましたけど一日で十件!? 本当ですか!? 今まで二、三件が関の山だったのに!」

ラルフは信じられないというように鼻を鳴らしながらも、目尻に笑みを浮かべる。


「これなら……いけますね!」

ミーナが胸に手を当て、ほっとしたように微笑む。


ロッコが大声で「おおおーーーっ!!」と両腕を突き上げると、大広間の空気が一気に弾けた。


その様子を見ていた冒険者たちが、理由もよくわからないまま「おおおーー!」と一緒に声を上げる。

――数字もKPIも理解してるわけじゃないのに、声を合わせてくれる。

効率的とは言えないが……こういう“勢い”が組織を動かす時もあるんだよな。




わっと拍手が広がり、酒場の空気はますます熱を帯びていった。


その勢いに乗じてバルドが「今日は俺の奢りだ!」と立ち上がるが、

パメラが即座に冷ややかに制した。


「マスター……馬鹿騒ぎもいいですが、帳簿は赤字です」


場の空気が一瞬凍り付いたが、直後にまた大笑いが起きる。

「やっぱパメラだ!」と誰かが叫び、冒険者たちもまた「パメラ姐さんに乾杯!」と囃し立てる。




熱気に包まれたその輪を見渡しながら、亮太は深く息を吐いた。



(……いろいろあったが、この進捗なら……いける。四日後の期限までに、間に合わせられる!)




【KPI更新】

現状/目標


①財務:−34%/2% 以上


②在庫管理:58%/80% ↓


③依頼達成率:78%/90% ↑


④顧客満足度:78%/75% ↑


⑤労働環境:10%/75%


予算据え置き条件:主要5指標のうち3つ以上が合格


期限まで、あと4日。



ここまで読んでくださりありがとうございます!

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