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第7話「束ねて足で走れ」

朝焼けの灯りを受けて、会議室の壁に薄く数値が浮かぶ。




【KPI更新】


現状/目標


①財務:−34%/2% 以上


②在庫管理:70%/80%


③依頼達成率:70%/90%


④顧客満足度:70%/75%


⑤労働環境:10%/75%


予算据え置き条件:主要5指標のうち3つ以上が合格




俺たちは依頼達成率を一週間で達成させなければならない。やることは一つ――足だ)


「パメラさん達成率を合格ラインにするためにはあと何件の依頼をこなす必要があるか教えてもらえますか?」


パメラが手元の帳簿をぱらぱらとめくり、ペン先で数字を弾く。


「……現在達成率は七割。目標は九割だから、全体の件数から逆算して……あと22件。今日から一週間なら――1日あたり3件以上こなさないと間に合わないわね。しかも移動時間込みで」




【KPI更新】


達成依頼件数:0/22




「わかりました。だったら遠距離の依頼は切って近隣の村と町だけに集中して、移動ロスを潰しましょう」


俺が地図に碁石を置くと、ミーナが眉を寄せた。


「えぇ〜っ!?……そんなことしたら、遠くの依頼人からの信用が落ちますよ」


「一週間の間だけです。それにこれにはもう一つの目的がある」


「目的……?」


「束ねる。近場の依頼を一つのルートにまとめて、一筆書きで回る。獣害対応の帰りに道の凹みを直し、その足で薬草を届ける――そんなふうに」


――宅配便のドライバーがやってる方法だ。近場の荷物は全部まとめて、一筆書きで回る。


パメラが帳票をめくり、赤鉛筆で素早く線を引く。


「費目は分冊。依頼は束ねても台帳では別計上。定義違反はしない。それに、ルート化すれば移動距離は三割減、経費は二割削減ね」


――王都の監査は「何件達成したか」で合否を決めるから、束ねた依頼を一件扱いにされたら意味がない。だから同じルートで片づけた依頼も、帳簿上はきっちり件数ごとに分ける必要がある。効率化と件数稼ぎ、その両立には、この仕組みが欠かせない。




ミーナは眉間の皺は解けず、地図と俺の顔を何度も見比べていた。


「ミーナ。顔に“でも……”って書いてあるぞ。まだ引っかかってることがあるなら、今のうちに全部出してみてくれ」


「……そんなに都合よく依頼が集まるものかしら。依頼を受ける範囲を狭めるってことだし…」


「依頼料をこの一週間は無料にしましょう!」


「はぁ……」パメラがため息をつく。


「それは愚策。過去にやったことあるけど、クエストの定義にも入らないような、ろくでもない依頼しか来なくなるわ」


――そうか、安売りは質を下げるだけか。しかし


「ただ安売りをするだけじゃない。そのろくでもない依頼すらも、まとめて正式な依頼にしてしまうんだ!」


「件数を稼ぐためにも世帯単位で達成できそうなものにしよう。屋根の茅や瓦のズレ直し、井戸や水路の掃除、薬草の調合……ついでに肩もみやお喋りも全部込みだ」


パメラが手を止め、わずかに口角を上げた。


「ふふ……“1世帯総合クエスト”ってわけね。」


ミーナは半信半疑で首をかしげる。


「……肩もみとお喋りがクエスト扱いになる世界って、ちょっとどうかしてるわよ」


「今は達成率が命だ。ミーナ、依頼料を引き下げる通達を周辺の村や町に伝えてくれ」


「ええ、でもどういう触れ込みにしよう…?」


「だったら“一週間限定で依頼料無料”って書いときなさい」 パメラがさらりと挟む。




――その通達が村々に届いたのは、昼過ぎだった。


各地の掲示板には、大きな赤文字でこう書かれている。


「一週間限定 依頼料無料キャンペーン!

家の修繕から井戸掃除、肩もみまで――何でも承ります!」




「タダでやってくれるのか! じゃあ、うちの納屋の屋根、直してもらおうかね」「おばあちゃんの薬草もついでにお願いできる?」

「じゃあ……こないだ落ちた井戸の桶、引き上げてもらえるかな」


依頼は雪崩のように集まり始めた。

ただし、その多くは確かに“ろくでもない”レベルのものだった。




パメラは集まった依頼を見て、赤鉛筆を走らせる。

「この村と隣村、依頼内容が被ってるわね……まとめて回れるようにする」


ミーナは地図上に細い糸を伸ばし、一筆書きのルートを描き出す。

「こうすれば午前中に三件、午後に二件……一日五件も可能です!」


俺はその中の一つ、薬草調合の依頼票を手に取り、しばらく眺め込んだ。


――単に薬草を調合するだけなら“雑務”扱いでクエストにならない。

「……これ、あともう一工夫すればクエストにできそうなんだけどな」


パメラは赤鉛筆を止め、淡々と口を開く。

「採取を含める。調合に必要な薬草を現地で摘み、そのまま調合、配送までを一括で請け負う」


亮太は思わず指を鳴らした。

「……それだ」


パメラは依頼票をひらりと机に置き直す。

「筋を通せば、ただの作業も正式な依頼になる。それだけの話よ」




こうして“クエストとして受注できそうな依頼”に肉をつけていった結果――

なんと、クエストが一気に二十件を超えた。


ミーナが目をまんまるにして、身を乗り出す。

「えっ、すごい! こんなに増えるなんて……! これなら、もう達成できそうですね!」




亮太は帳簿をパタンと閉じ、全員を見回した。

「よし、この流れを崩さずに一気にいくぞ。

遠回りせず、手を抜かず――最後の一件まできっちりやり切ろう」


【KPI更新】


達成依頼件数:0/22


受注依頼件数:27/22




期限まで、あと6日。

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