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第6話「迫る監査、王都の影」

朝、支部の扉を押すと、ギルドマスター・バルドが珍しく先に立っていた。

「おお亮太、昨日は助かったぞ。装備貸出の渋滞、見事に解けた」

肩をどん、と叩かれる。笑っているのに、どこか落ち着きがない。




バルド


士気 62(+7)/焦り 35→58(↑)




(……感謝してる顔に見えるけど、焦りが異様に高い。何か隠してるな)



バルドは目を細めて、苦笑い。

「……お前はさすがだな。なんでもお見通し、ってわけか」


「実はな。王都の監査が、一週間後に来る。毎年この時期は皆へとへとだ。亮太、お前にも協力を頼みたい」


 胃の奥がひやりとした。前世の“本社監査”が脳裏をよぎる。机の中まで穿られる、言い訳のきかない審判日。




「もちろん」

「ちょうどこれから全体会議をやるところだ。お前に先頭に立って進めてもらいたい」

(こりゃ、残業覚悟だが——やるしかない)




広間の長机に、バルド、パメラ、ミーナ、ロッコ、若手のラルフが並ぶ。


パメラが静かに手を挙げた。

「合格ラインを先に共有しておきます。王都の評価は細かいけれど、おおざっぱに言えば“主要5指標のうち3つが合格なら、ひとまず予算は据え置き”。2つ以下だと減額の対象です」




「五つは——」パメラは机上の紙を指で揃え、順に読み上げる。

「財務、在庫管理、依頼達成率、顧客満足度、それから労働環境」




1. 財務……収支の安定・費用の見通し・差分の小ささ


2. 在庫管理……把握率・保全・滞留の少なさ


3. 依頼達成率……納期遵守と成功率


4. 顧客満足度……〔依頼者満足度70%+冒険者満足度30%〕での一括評価


5.労働環境(残業・安全・待遇・教育)




判定:5指標のうち3つ以上が基準達成 ⇒ 予算据え置き




(労働環境……一番解決したい指標だ。)




「そして現状はこうです」



【KPI更新】


現状/目標


①財務:−34%/2% 以上


②在庫管理:70%/80%


③依頼達成率:70%/90%


④依頼者満足:70%/75%


⑤労働環境:10%/75%


予算据え置き条件:主要5指標のうち3つ以上が合格



「……厳しいな」


バルドが腕を組む。




短い沈黙。




「……亮太、どうしたの?」


ミーナが不思議そうにこちらを見つめていた。

労働環境の数値の低さに、俺は唖然とした。

(残業と教育、穴だらけだ。今すぐは上がらない——順番を間違えるな)




視線が俺に集まっていた。


(絶望的な数値が並んでいる。だが社畜をなめてもらっちゃ困る)




「みなさん……絶対に3つの指標は合格ラインに乗せましょう。②在庫管理はロッコさん、④顧客満足度はミーナさんにお任せします!この2つはあともうちょっとで基準に到達できる」




「おう!」ロッコが即答する。

「もちろん」ミーナも頷いた。




バルドが顔を上げる。「――で、三つ目はどれを取りに行く?」

全員の視線が、もう一度俺に集まる。




「③依頼達成率を取りにいきます」俺は板の数値を指で叩き、はっきり言った。

「労働環境は構造課題で、今すぐは動かせない。財務も黒字化までは遠い。でも達成率は段取りで押し上げられる。残業は増やさず、今日からやれることがある」


「具体的には?」

「——足です!」

「足?」

「みんなで動いて、期限が近くて短時間で終わる依頼を次々こなします。利益は度外視しても件数を稼ぎに行く」

(正直、達成率はこれしかない)

「ほう、お前にしては珍しく精神論だな」


バルドが口角を上げる。

「もちろん、策はあります。パメラさん、ミーナさん、協力をお願いします」

「任せて」


パメラはすぐ頷く。




ロッコは顎を上げ、短く笑った。


「監査の時期は、いつも終わった後にひいひい言ってるんだ。だけど、今回はお前のおかげで去年よりうまくいきそうだ。俺はお前にいつでも協力してやる。必要なら言えよな」

「……心強い。ありがとうロッコさん」




バルドが全員を見渡して、拳を胸に当てた。


「よし。足で取りに行くぞ」


バルドは胸に当てた拳をそっと下ろし、大きな掌を机の上に差し出した。皮は剣だこで固く、掌には白く細い古傷がいくつも走っている。




「――手を」 


最初に俺が重ねる。ざらついた温みが掌から直に伝わってきて、思わず力が入った。

 すぐにロッコの節くれだった手がのしかかった。


「在庫は任せろ」

 ミーナの小さな手がそっとその上へ。


「窓口は明るく回します」

 パメラは炭筆の匂いの残る指先で静かに触れ、


「数字は私が守る」

 ラルフは汗ばんだ掌を重ね、「い、依頼処理は任せてくれ!」と息を弾ませる。

 六つの手がひとつになった。


 手が離れる瞬間、全員の視線が同じ方向を向いていた。




「乗り切るぞ!」

「おぉー!」


声が揃う。




(絶対にやりきってみせる……!)




監査まで__あと 7 日

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