第38話「重大な決断」
亮太たちが逃げ込んだのは、華やかな表通りから外れた下町だった。石畳はひび割れ、裸足の子どもたちが走り回る。
亮太は思わず振り返り、追ってきた道を睨む。
「………………」
胸中に渦巻くのは、不安――リーネのことだ。
「ニンジャちゃんが心配なのね、亮太?」
隣のヴァネッサが覗き込む。
亮太は唇を噛み、吐き出すように答えた。
「……やっぱり戻って探したほうが――」
その手を、ヴァネッサが強くつかんだ。
「今戻ることが危険なのはわかってるでしょ。あの子を信じなさい。必ず戻ってくるわ」
一瞬迷ったが、やがて亮太は頷いた。
「……そうだな」
案内されたのは、木造の家々が肩を寄せ合う一角。
「ここが私の家」
ヴァネッサが扉を押し開けた瞬間――
「おかえりなさい!おねぇちゃん!」
10人ほどの子どもたちが雪崩のように飛び出してきた。明るい声で狭い室内が一気に活気づく。
「……多すぎない!? 全員ヴァネッサさんの姉弟なのか?」
亮太が思わず目を丸くする。
「血がつながってるのは半分。でも、家族同然よ」
「へぇ……意外と面倒見がいいんですね」
ユリスが感心すると、ヴァネッサは片眉を上げる。
「ふふ、剣士ちゃんは大好きなニンジャちゃんの面倒見がいいものね」
「なっ……何言っているんですか!?仲間として助け合うのは当然でしょう!」
赤くなって慌てるユリス。
「そうよね~あくまで仲間よね~」
「馬鹿にしないでください!」
その様子に子どもたちがくすくす笑う。
――ノックの音が鳴る。
「……おい」
扉を開けると、オルグレンとアンデッド・ダリオが立っていた。
「まったく……俺を置いて逃げやがって」
ぼやくオルグレンだが、無事な様子に皆は胸を撫で下ろす。
「全員揃うまで、奥で休みましょ」
ヴァネッサの案内で、一行はランプの灯る奥の部屋へ。質素な木のテーブルを囲み、ようやく腰を落ち着けた。
「……遅いな」
リーネを案じるように、オルグレンが呟いたその時――
コンコン、と窓が叩かれた。
「……あら、揃ったようね」
ヴァネッサが目を細める。
窓の外には黒装束に身を包んだリーネがいた。
「……リーネ!」
亮太が駆け寄り、窓から引き上げる。フードを外したリーネは汗をにじませていたが、どこか誇らしげに微笑んでいた。
「追手は撒きました。それと……これを」
差し出したのは文書の束。亮太がページをめくると、そこにはゴルド商会の取引記録。禁止された交易品や、帝国への武器輸出の証拠が克明に記されていた。
「すごい……完全に黒ですね……!」
ユリスが息を呑む。
「お手柄だな」
オルグレンも低く唸るように褒めた。
「えへへ……」
リーネは少し照れくさそうに笑った。
亮太は書類を握りしめ、強く頷いた。
「……これでゴルドを告発できる」
だがオルグレンが表情を引き締め、声を落とした。
「そのことだが……亮太、お前に確認したい」
「へ?」
首を傾げる亮太。
「実はさっきの話し合いで、ゴルドと武器納入の件については合意した。……奴は商人として一流だ。奴の案に乗ればギルドの収支は劇的に改善するだろう。本来の目的からすれば、達成だ」
一同の表情が動く。オルグレンはさらに続けた。
「だが俺たちは奴が大悪党だと知ってしまった。悪事の証拠も手に入れた。だからこそ――お前の判断を聞きたい」
(……なるほど。実利を取るか、倫理を取るかを俺に委ねてるのか。前世で言えば……会社での取引相手が不正をしていると分かった時みたいなものだな)
オルグレンは真剣な眼差しを向けた。
「証拠を監査に提出すれば、ゴルドは捕まる。だが町の勢いは衰え、遠征クエストも立ち消えだ」
亮太の前にKPI表示が浮かぶ。
【KPI更新】
現状/目標
①財務:−34%/0% 以上
「たしかに……財務状況を改善するためにはこの遠征クエストは成功は不可欠だ」
亮太は拳を握りしめる。
「亮太、どうする?」
オルグレンの声が重く響く。
「奴を利用するか。それとも暴くか」
亮太は目を閉じ、深く息を吐いた。
そして、静かに言い切った。
「……告発します。ゴルドの罪を暴しますよ!」
しばしの沈黙の後、オルグレンは頷いた。
「分かった。……奴には断りを入れよう。ただし、告発する当てはあるのか?」
亮太は口元を引き締める。
「……あります。彼女なら、きっと」
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