第37話「大脱出!!」
オルグレンは背筋を伸ばし、ゴルドに一歩詰め寄った。
「なぁ……あんた、敵国にも武器を輸出できねぇか?」
ゴルドの目が細くなる。次の瞬間、腹の底から笑い声が響いた。
「ははは! なんということを言い出す。そんな真似、いかに私でもできるわけが――」
「俺は金が要るんだ」
オルグレンの声が低く響く。
「工房を立ち上げるには、パパっと大金が必要になる。……あんたなら、それをどうにかできるんじゃねぇのか?」
ゴルドの笑みが一瞬止まり、目に鋭い光が宿った。沈黙の後、ゆっくりと口を開く。
「……えぇ、できますとも」
「どうやる?」
「私は帝国の高官とも、王国軍の上層部とも繋がりがある。つまりは……こうだ」
ゴルドは手を組み、指を組み合わせて説明する。
「まず王国に武器を売りつける。その噂を帝国へ流すと、帝国は不安に駆られて軍備を増強する。帝国に武器を売り、その情報をまた王国へ持ち帰る。両者が互いに疑心暗鬼に陥れば、武器は際限なく売れる」
「……なるほど」
オルグレンの表情は険しいが、その声には感嘆が混じっていた。
「天才的だな。悪魔のような考え方だ」
ゴルドはにやりと笑みを浮かべる。
「私はお金のためなら悪魔にでも魂を売ってやるさ。無論、あなたもそうなのでしょうが。後ほどたっぷり話し合おう。オルグレン氏」
その時――背後から重い足音が響く。現れたのは、腕に鋭い爪を装着した男だった。あの時、廃墟で襲ってきた男だとヴァネッサはすぐに気づく。
「ご苦労、ツメガリ」
ゴルドは名を呼び、軽く顎を動かした。
「見回り完了いたした」
「よし。私は客人と大事な話をしている。書斎には今、待たせている者がいるから……先に戻っていなさい」
「承知」
クロウは無言で踵を返し、書斎の方へ歩み去っていった。
ヴァネッサが息を呑む。
「……やっば」
「……急げ、リーネ!」
亮太は慌てて床板を元に戻す。そしてリーネは窓を開けて外へ出た。
「また後で会いましょう!」
「わかった!」
亮太は椅子に座って待つことにした。
(よし!あとは俺が何食わぬ顔で待つだけだ……)
だが――扉が開き、現れたのはツメガリだった。
入ってくるなり口角を吊り上げ、低く笑う。
「これはこれは……また会えたな」
亮太は椅子から勢いよく立ち上がり、早口でまくし立てる。
「ちょ、ちょっと待ってください!俺は紹介を受けてここに面会に来ただけなんです!怪しい者じゃ――」
「……そうでしたか。それは失礼」
ツメガリは一瞬、頭を下げる。
「……!」
亮太は胸を撫で下ろした。
「だがな……俺の目には“ただの客”じゃなく、不審者にしか見えん」
ガシィン、と爪が伸びる音。
「やっぱりバレてた――!!!」
亮太は即座に窓へ飛び込み、ガラスが粉々に砕け散った。
「うおおおおおッ!?」
飛び込んだ先、下を見下ろすと、思った以上の高さ。リーネはここからどうやって脱出したんだと思う間もなく、あっという間に落ちていく。
(落ちる……死ぬ……!)
風が耳を裂き、地面がみるみる迫ってくる。死が目前に迫る感覚。
「うわ――!!!」
その瞬間、風が渦を巻いた。
「《ウィンドクッション》!」
ふわりと体が浮き上がり、地面すれすれで衝撃が吸収される。亮太はよろめきながらも無事着地した。
「亮太さん!大丈夫ですか?」
ユリスが叫ぶ。
「ユリス!」
「ミッションの件、どうでした!?」
「……あぁ、成功だ!」
亮太は笑みを返す。
「さて、逃げるわよ!」
声を上げたのはヴァネッサだった。
「え、ヴァネッサ!?」
「私も顔を見られちゃったのよ!このままじゃ正体がバレちゃうから」
三人が走り出す。上を見上げれば――ツメガリが壁に爪を突き立て、蜘蛛のように追いかけてくる姿が見えた。
「うわああああ!!!」
亮太が絶叫する。
「こっち!この辺りに避難できる場所があるわ!」
ヴァネッサが先導し、細い路地へと飛び込む。
亮太たちは必死に路地を駆け抜ける。背後では、壁に爪を突き立てては蜘蛛のように駆け進むツメガリの姿。
「まだ追ってきてる……!」
ユリスが叫び、ヴァネッサが短く指示を飛ばす。
「ジグザグに! 視界を切るのよ!」
一同は路地の角を折れ、暗がりへと消える。
そのとき――亮太が気づいた。
「……あれ、リーネがいない!」
亮太たちを追いかけるツメガリが路地の角を曲がる。そこへ現れたのは、黒装束に身を包んだ小柄な人影だった。
「そこをどけぇッどかなきゃ殺す! ……いや、殺されろッ!」
両腕の爪を広げ、黒い影に襲いかかる。
ギャァンッ!
黒装束は短刀を取り出し、一閃。鋭く爪を弾き返した。火花が散り、耳をつんざく金属音。
「ぐぉおおおッ!!!」
連撃、連撃、さらに連撃。
ツメガリの長いリーチが襲い掛かるが――
――ギャリリッ! ギャギィンッ!
すべての爪が短刀で受け流され、逆に爪の刃はボロボロにされていく。まるで生き物のように舞う刃に、ツメガリの腕には裂傷が刻まれていった。
「ぬ……ぬぅ……! 貴様……何者だ……」
黒装束の影は、ひと呼吸置いて短く答えた。
「通りすがりの――ニンジャです」
「ッ…!?」
ツメガリは黒装束を見失う。見渡すもどこにもいない。
「どこだ……どこにいる!?」
次の瞬間、ツメガリの背後に影が回り込む。首元を細い腕が絡め取り――締め上げた。
「ぐっ……ぅぉぉ……!?」
ドドドドドドドドドッ――!
喉元に、短刀の柄が無数に叩き込まれる。
のどぼとけを粉砕するような衝撃に、ツメガリは泡を吹き、白目を剥いた。
「あばばばばばばばば……!」
大きく仰け反った身体が、ついに石畳へと崩れ落ちる。爪が石を引っ掻きながら、力なく地面に落ちた。
「ふぅ……みんなのところへ戻らないと」
ここまで読んでくださりありがとうございます!
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