第36話「暴かれる死の商人」
ドンッ――。
重い扉が弾かれるように開き、一人の商人が飛び込んできた。派手な衣装に息を切らせ、額には汗が光っている。
「ゴルド様! 大変ですぞ!」
ゴルドが怪訝そうに眉をひそめた。
「何が起こった?」
「王都一の鍛冶屋、オルグレンが商会に姿を見せております!」
「……ふむ」
ゴルドはゆっくりと腕を組み、ちらと亮太へ視線を向ける。
「すまないが、亮太氏。少し席を外しても構わないか。友人が緊急の用件で来たようだ」
「……ええ、もちろん」
亮太は静かに頷く。
ゴルドは立ち上がり、豪奢なローブを揺らしながら部屋を後にした。
扉が閉まる音が響くと同時に、亮太は小声で呟いた。
「……リーネ、今だ。出てきてくれ」
すると背後の壁が剥がれ、そこからリーネが滑り出てきた。髪は乱れ、肩は上下し、息は荒い。
「はぁ、はぁ……死ぬかと思いました……」
(……隠れるだけで息切れって……ニンジャも楽じゃないな)
リーネは表情を引き締めた。
「時間がありません。今のうちに探しましょう!」
二人は書斎の机や棚を手分けして調べ始める。
「机の引き出しは……違う」
「棚には古文書ばかり……でも、この辺りは生活記録っぽい」
「床下……隠し板か?」
二人は、一瞬黙り込む。亮太の額には汗が滲んだ。
(……本当に証拠はあるのか?)
一方その頃、腕を組んだオルグレンと、椅子に優雅に腰掛けたヴァネッサが待っていた。そこへゴルドと商人が現れる。
「ふぅん……いよいよ来たわね」
オルグレン達は立ち上がり、堂々とゴルドに歩み寄った。二人は力強く握手を交わす。
商人が興奮気味に説明を続ける。
「この方こそ、王都一の鍛冶師オルグレン殿! 貴族や親衛隊、高名な騎士たちに武器を納めてこられた。その美しさと実用性は誰もが称えるところ!しかし近年は活動を休止されていました。ですが、復活第一作をぜひゴルド様にと!」
「ほぅ、それは素晴らしい話だ」
ゴルドは目を細め、オルグレンに視線を向ける。
「だが、どうしてここへ?」
オルグレンは低く応じる。
「聞いたぞ。あんたが王国のために武器供給を増やそうとしていると。……なら、俺も力を貸したい」
「ふむ……王都一の腕か。確かに価値がある。詳しくは後ほど。今は――」
書斎に戻ろうとした瞬間、ヴァネッサが滑らかに立ちふさがる。
「あら、本当にそれでよろしいのかしら?」
「む……あなたは?」
「商人ヴァネッサ。オルグレン様の調整役よ。ちなみにオルグレン様は復帰にあたり、貴方の名をまず挙げられました。しかし……ほかにも訪問先がいくつも控えておりますのよ」
ゴルドの瞳がかすかに揺れる。
「……なるほど。しかし、我々が今欲しているのは、あなたの作る精巧な一振りではなく、多くの兵士に行き渡る大量の武器だ」
「ふん……そうだろうな」
オルグレンが笑い、鋭く言い放った。
「だが、大量生産をしたいのに、工房の連中に嫌われているじゃねぇか。…………俺なら説得できる古い友がいる。どうだ?」
ゴルドの目が鋭く光る。
「本当か……!?」
ヴァネッサが艶然と笑みを浮かべる。
「まぁまぁ。あまり焦っても品がないですわ。結局のところ……もう少しお話し合いなさってはいかが?」
「……わかった、わかった。芝居がかった口ぶりはやめろ」
ゴルドは額を押さえた。
「オルグレン氏、その話は可能なのか?」
「あぁ。ただし、あんたが“うん”と頷いてくれたらな」
「……よかろう。今日中に場を設けよう。ただし――今は客人を待たせている。すぐに帰ってもらい、書斎で改めて話そう」
踵を返そうとした瞬間、オルグレンが再び声を投げかけた。
「それとゴルド氏、少し事前に聞きたいことがある」
「……それは後ほどに――」
「ゴルド氏」
ヴァネッサが切り込む。
「オルグレン氏は“今”確認したいのです」
ゴルドは深くため息を吐き、立ち止まった。
「……ありました!」
リーネが机の底板を外し、束ねられた書類を引きずり出した。
亮太が覗き込み、息を呑む。
「これは……完全に違法な交易品ばかりだ……!」
ページには、闇魔石、禁呪の魔導書、死霊の素材、奴隷契約書……。
そして何より――敵国帝国への武器輸出記録が並んでいた。
「……やっぱり……!」
リーネの声が震える。
「ここ最近、帝国への取引が急増している……!」
亮太は唇を噛み、力強く頷いた。
「これで決まりだ。……証拠を持ち帰ろう!」
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