第35話「謁見」
「……さて、いよいよか」
亮太は深呼吸し、重厚な商会の扉を押し開けた。
受付に座るのは、以前自分を門前払いした男。分厚い台帳を小脇に置き、面倒そうに顔を上げる。
「ゴルド氏にお会いしたいのですが」
亮太が真っ直ぐに告げると、受付は鼻で笑った。
「またあなたたちですか? 勝手な面会は――」
「ちょっと、しっかり確認してください! 今回はルシアンさんからの紹介を受けているんです」
「ル、ルシアン様……?」
受付の目が一瞬大きく開き、慌てて台帳を乱暴にめくり出す。やがて記載を見つけ、表情が変わった。
「こ、これは……! 失礼いたしました。では面会の手続きを――」
だがすぐに口調を引き締め、冷たく言い放つ。
「その人数ではお通しできません。せめて四人に絞ってください」
後ろを振り返ると、オルグレン、リーネ、ユリス、ヴァネッサ、そして無言で立つアンデッド・ダリオ。
亮太は短く息を吐いた。
「……よし。ヴァネッサ、リーネ、それにオルグレンさん。お願いします」
「承知した」
「わかったわ」
三人が頷く。
ユリスは不満げに唇を尖らせた。
「……俺はダリオと待機、ですか」
「すまん、ユリス。頼んだ」
亮太は軽く肩を叩き、足を進める。
(――よし、ミッション開始だ!)
前夜、宿のテーブルを囲んだ食事の席。
湯気の立つスープをすすりながら、オルグレンが腕を組み、低く唸った。
「本当にリーネが証拠を押さえられるのか?」
亮太はパンをちぎりながら答える。
「実は……ルシアンさんの紹介で、ゴルドに直接会えることになったんです」
「本当ですか……!」
ユリスが驚きの声を上げる。
「俺がゴルドと遠征クエストの話をして時間を稼ぐ。その間に、リーネと皆で商会内部を探して証拠を見つけてほしいんです」
「だが、証拠がどこにあるか見当もつかん」
オルグレンの言葉に、リーネが真剣な表情で首を振る。
「……一番大事な秘密は、自分の手元に置いておくものじゃないですか? だから、きっと書斎にあると思います」
「でも俺はゴルドとその書斎で話すことになる。どうやって彼を部屋から出す?」
リーネは少し迷った末に小声で答える。
「……私に考えがあります。少し無茶ですけど、ゴルド氏を一時的に部屋から出す方法を」
そしてその大胆な方法を話した。
「無茶だが……理にはかなっているな」
オルグレンが渋く頷く。
ワインを傾けていたヴァネッサが、にやりと笑った。
「ふふ……それなら私もお膳立てしてあげようかしら。ゴルドを部屋から出す“口実”を作るのは、得意中の得意よ」
案内された応接室の奥――。
重厚な扉の前に立ち、亮太は緊張で喉を鳴らす。
(……前世の営業だってそうだった。大口の客に会う前は、いつも心臓が飛び出そうだった。でも……ここで怯んだら、終わりだ。行け!)
ノックすると、落ち着いた声が返る。
「入ってくれ」
扉を押し開けると、広い書斎の奥に、一人の壮年の男が立っていた。
豊かな体躯に威圧感をまといながらも、にこやかに両手を広げる。
「やぁ、よく来てくれた。ルシアンからは有望な若者がいると聞いて楽しみにしていたよ。まぁ座りたまえ」
「ありがとうございます。本日は貴重なお時間をいただき、本当に感謝しています」
亮太は深々と頭を下げ、緊張で汗ばんだ手を握りしめる。
ゴルドはソファに腰を下ろし、興味深そうに亮太を眺めた。
「ふむ……若いな。何歳だ?」
「19です」
「ははは! 若い! 若いときは君のような行動力が何よりの武器だ! その点、うちのせがれは全く……」
(……随分おしゃべりな人だ)
亮太は鞄から丁寧にまとめた遠征クエストの計画書を差し出す。
「今回、私たちのギルドが挑戦しようとしている遠征クエストについて、ご協力いただきたいのです」
ゴルドは顎に手を当て、じっと計画書を読み込む。その目は穏やかに見えながらも、どこか底知れぬ光を帯びていた。
(……全然表情が読めない。この人、只者じゃない……)
計画書に目を通したゴルドは、亮太を見据える。
「なるほど……若いが、実にチャレンジブルで独創的。まるでダイヤの原石だ」
口調は仰々しくも熱を帯びていた。
「だが、原石は磨かなければ宝石にはならぬ」
彼は身を乗り出す。
「君の話は面白い。だが――私の提案も聞いてもらおうか」
――その時。
外から、重い物音が響き渡った。
亮太は息を呑む。
(……まさか、リーネたちが……!?)
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