第32話「未知の職業」
振り返ると、金髪の女商人ヴァネッサが立っていた。陽光を浴びた小麦色の肌に、人懐っこい笑み。
「彼女がモンクになるのは、ちょっと難しいかもね」
(……市場の混乱を収めて、ちゃっかり手数料を取っていった女商人。まさかここで再会するとは!)
亮太は目を見開いた。
ユリスはすぐに剣へ手を伸ばす。
「あなたは誰だ?」
「おっと、怖い顔しないで。私はヴァネッサ、ただの商人よ。面白そうだったから覗いただけ」
リーネが恐る恐る問いかける。
「どうしてモンクはダメなんですか?」
ヴァネッサはくすりと笑い、腰に手を当てて説明する。
「うふふ。別にあなたを否定してるわけじゃないの。ただ知ってる? 今どきのモンクは素早さや瞬発力だけじゃ通用しないの。剣士顔負けの筋力も求められるわ。つまり他のモンクと同じレベルじゃ依頼は回ってこない。屈強さという付加価値のあるモンクに仕事を奪われて終わり、ってこと」
ユリスは思わず声を荒げる。
「……それじゃ、どうしろっていうんですか」
「彼女に合う別の道があるはず。教えてあげましょうか?」
ユリスは警戒を崩さない。
「亮太さん、この女は怪しいです!」
しかし亮太は苦笑して答えた。
「いや……実は彼女が、俺が仲間にしたいと思っていた人なんだ。大広場で見た手際は本当に見事だった」
「まあ、口が上手いのね」
ヴァネッサは艶やかに笑う。
「この人が? だめですよ! 急にふらっと現れて、こんなこと言ってくるなんて、明らかに怪しいじゃないですか!」
ユリスはさらに声を上げた。
「まぁまぁ。大事なのは本人の意思でしょ?」
ヴァネッサが視線をリーネに向ける。リーネは少し迷ったあと、小さく答えた。
「……ちょっと、お話聞いてみたいです」
ユリスがリーネの流されやすさにため息をついた。
ヴァネッサは軽く指を鳴らす。
「話が早くて助かるわ。その前に確認。あなたたち、どういう関係?」
亮太は遠征クエストの件とリーネの職業探しについて説明する。
「なるほど。じゃあ回復師ちゃんはモンクもシーフも合わなかった。――だったら」
ヴァネッサは指を鳴らした。
「ちょうどいい場所がある。ついてきて」
案内されたのは、コナリ町の路地裏。
人目につかない奥にひっそりと建っている大きな廃墟だった。
「こ、ここですか……?」
リーネが不安げに声を震わせる。
「やっぱりやめましょう!」
ユリスは強い警戒を崩さない。
(確かに怪しい場所だな……)
「あの、ヴァネッサさん。ここで何をするつもりなんです? 先に教えてください」
「見た目は不気味かもしれないけど、奥に本棚があるの」
「本棚?」
「ええ、きっと驚くわ」
廃墟の中はひんやりとし、石壁に蔦が這い、天井は崩れかけていた。しかし奥にあった一室だけは、古びた書物が整然と並んでいた。
リーネは息を呑み、そっと手を伸ばす。
「これは……」
ヴァネッサが笑みを浮かべながら答える。
「ここはね、昔の職業や役割を記した書庫。今じゃ聞いたこともない職業ばかりだけど……回復師ちゃんにも何か響くものがあるかもよ?」
リーネは恐る恐る一冊を抜き、ページをめくる。やがて目を止め、じっと見つめた。
「……これ、なんだろう」
ヴァネッサが覗き込み、声を上げる。
「ふむ……近接戦闘のスペシャリスト。隠密行動に優れ、姿を隠して敵を翻弄し、暗闇から急所を突く……。シーフでもモンクでもないって感じね」
亮太も覗き込む。
リーネが開いていたページには、挿絵には黒装束の人物が刃や手裏剣を操り、炎で敵を包む姿が描かれていた。
「……忍者じゃん、これ」
「へぇ~忍者っていうのね。物知りじゃない!」
リーネは顔を上げ、目を輝かせる。
「わ、私……これが気になります」
「へぇ。やっぱり普通じゃ物足りなかったんだ。いいじゃない、忍者!」
その時廃墟の入り口側から重い足音が響いた。
「……ゴルド氏、こちらになります」
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