第31話「転職活動はじめました」
「………………」
朝の光が差し込む宿の食堂。柱の陰からひょっこり顔を出し、リーネがそっと亮太の方を覗いていた。頬は赤く、視線が合うとすぐに物陰に隠れてしまう。
(……めちゃくちゃ恥ずかしそうだな)
リーネは意を決したように近づき、ぺこりと頭を下げる。
「き、昨日はどうも……お騒がせしました……」
「まぁ……無事でよかったよ。それで、昨日の話の続きなんだけど……」
「ほんとに……ほんとにほんとにほんとにすみませんすみませんすみません!」
リーネが勢いよく飛び出し、何度も頭を下げる。
「いやいや、違う違う。謝ってほしいんじゃなくて――職業のことだよ」
「……職業?」
「リーネって、今まで周囲に合わせて職業を選んできたんじゃないかな。だけど、誰かにとってピッタリなものが、リーネにピッタリかは別問題だろ? たとえば……靴。人によっては履き心地が最高でも、他の人には合わなくて痛いことだってある」
リーネは小さくうなずいた。
「……なるほど、そうかもしれません」
「だから俺は、リーネの長所が光る職業を探したいと思ってる。もう少し俺たちと一緒に試してみてくれないか?」
「わかりました。でも……どうして一冒険者の私なんかにここまで……」
亮太はわざと肩をすくめて笑った。
「それは――昨日の酒癖の強さが戦闘でも出れば心強いからかな」
「か、からかわないでくださいよ……!」
「冗談だよ。でも、本気で言うと――オルグレンさんを助けたときのあの瞬発力はすごかった。だから一緒に探そう。リーネに合った職を」
リーネはまっすぐに亮太を見て、こくりと頷いた。
「……はい!やってみます!」
(ルシアンからの連絡はまだだ。その間にリーネに合う職を探してみよう!)
さっそく亮太はユリスに相談することにした。
「リーネに合いそうな職、何かあるかな?」
ユリスは即答した。
「シーフですね」
「シーフ……って盗賊のことか?」
「まぁ、そう呼ぶ人もいますけど、今はだいぶ違います。シーフは素早さを活かした前衛職で、モンクと違うのは“鍵開けや罠の解除”みたいなテクニカルなクエストもこなすところです。今や盗みよりも“盗まれたものを取り返す”のがメインですよ」
「なるほどな……リーネ、どうだ?」
「うーん……短刀は扱えるけど、罠の解除みたいな技術が必要なのは…自信ないです」
ユリスは錠のついた木箱をリーネに手渡した。
「じゃあ試してみましょう。シーフの基本は錠前外しです。これをやってください」
「わ、わかりました……」
リーネは挑戦するが――
「えっと……これがこうで、あぁ、ちが……あれ……?」
時間ばかりが過ぎていく。
「……」
ユリスが苦い顔をする。亮太も思わず心の中で突っ込んだ。
(めっちゃ時間かかってるな……)
やがてリーネは肩を落とした。
「……できません……」
ユリスは優しく言った。
「リーネさん、別の職業も試してみましょう!」
「そ、そうだな……さっき言ってた“モンク”はどうだ?」
ユリスが説明する。
「モンクは前衛の代表格です。剣士と違って武器より己の拳を使い、スピードで敵を圧倒します。リーネさん、俺と外で模擬戦してみませんか?」
「えっ?戦闘か」
「大丈夫です、亮太さん。あくまで模擬戦ですから。さ、行きましょう」
見晴らしの良い平地が広がる町の外で、リーネとユリスが向かい合う。その見届け人が亮太といったところだ。
「条件は簡単。俺の喉元に短刀を突き立てられたらリーネさんの勝ちです」
「わかりました!」
勝負開始。
ユリスが先に仕掛け、剣を突き出す。だがリーネは顔色一つ変えずに身をかわす。
「やっぱり反応が速いですね……ですが俺も負けません!」
ユリスが片手を掲げ、短く詠唱する。
「――《疾風剣》!」
剣に風がまとい、動きがさらに鋭くなる。
(えっ、ユリス本気になってないか!?)
しかしこの首元に向かってきた剣劇を、リーネは何度も鮮やか避け、逆にこちらに突き出された腕へ拳を叩き込む。そうしてユリスがひるんだ隙に、短刀を首元へ突き出した。
「……うっ!」
ユリスはのけぞり、亮太が手を上げる。
「勝負あり!だな……」
リーネは息を整えながら、少し得意げに笑った。
「ふふ……やりました」
ユリスも苦笑を浮かべる。
「これならモンクに転職しても……」
「――それはどうかしら?」
背後からかかった声。
振り返ると、金髪の商人ヴァネッサが立っていた。
「彼女がモンクになるのは、ちょっと難しいかもね」
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