第30話「回復師の本音」
夜のコナリ町。
石畳の路地を行き交う人影は昼と打って変わって少なかった。
「リーネ……一体どこに消えたんだ」
仲間たちは手分けして捜索に走ることにした。
オルグレンは北の広場へ、ユリスは市場跡へ。そして亮太は裏路地を探し回る。
しかし――どこにも姿はない。
やがて三人は合流し、肩で息をつきながら顔を見合わせた。
「駄目だ。見つからん」
オルグレンが首を振る。
「……彼女が行きそうな場所は広場も教会もいなかったですね」
「ここまでくると、人さらいを疑った方がいいかもな」
「縁起でもないこと言わないでください!」
ユリスが声を荒らげる。
「この時間にまだ開いてる場所……酒場だな」
――そして。
酒場の扉を開いた瞬間、聞き慣れた声が耳を突いた。
「わたしぃ~~、回復師むいてないんですぅぅ~~!!!」
「リーネ!」
カウンターに突っ伏し、頬を真っ赤に染めている。立派な――いや、最悪な――酔っ払いであった。
「ひっく……わたし、もう回復師なんてやりたくなぁい!」
亮太が慌てて駆け寄る。
「どうしたんだよ!? 何があったんだ!」
「どーもこーも、飲んでるんですよぉ! 酒をね!」
グラスを振り回す手元は危なっかしく、今にも零れそうだ。
「おい危ない!」
肩を支えようとすると――
「いーやーでーすー!」
リーネが亮太の腕を素早くはたき落とし、抵抗する間もなく彼の首に腕を回した。
「ぐえっ!? ちょ、なんで!? 酒癖悪っ!!」
「もうギルドも辞めまーす! わたし、回復師やめますぅー!」
「イタタタタ! マジで絞めんな!!」
リーネは少し落ち着くと、涙目で話し出す。
「うっぐ……わたし、回復魔法が超下手なんです……!これ以上亮太さんたちの足手まといになりたくないんです……」
オルグレンは腕を組んで唸る。
「……酔ってるせいもあるだろうが、本心なら本人の自由にさせた方がいい。早めに打ち明けてくれれば、こちらも助かる」
「それは言い過ぎじゃ……」
ユリスが食い下がる。
「本人が辞めたいと言うなら尊重すべきだ」
オルグレンの言葉はきっぱりしていた。
(でも彼女は道中すごく頼もしかった。……っ!そうだ!)
「いいや、足手まといじゃなかったよ。スモークドレイクからオルグレンさんを守ったのは誰だ?リーネのあの時の瞬発力がなければ、きっと助けられなかった」
オルグレンは目を細める。
「確かにな……」
リーネはぼんやりと瞬きをした。
「でもその後ユリスの手当もろくにできなかったし……やっぱりわたし、回復師向いてないのかなぁ」
「そもそも、どうして回復師になったんだ?」
リーネは唇を尖らせた。
「友達に言われたんですよ。女の子が成功するなら“後方職”だって」
(ってことは……リーネ自身が選んだんじゃなくて、勧められるままに決めたのか)
「じゃあさ、そもそもどうして冒険者になろうと思ったんだ?」
「それは……みんなが冒険者やってたから。楽しそうだなーって思って」
亮太は内心で苦笑した。
(……就職のとき、“雰囲気が良さそうだから”で会社を選んだ俺と同じか。自分の適性を考えず、流されて選ぶ……そりゃミスマッチも起きるわな)
リーネは少し俯き、グラスの中を見つめる。
「人間って、働かないと生きていけないじゃないですか? だから、せめて少しでも楽しい場所がいいなって……」
「じゃあリーネは、なりたい職業って最初から無かったんだな?」
「そうですよ!」
亮太は小さく息を吐き、KPIウィンドウを開いた。
【リーネ(回復師?)】
士気:20→5/100 ↑
KGI:???
KPI:??? 15%/95%
残業ゲージ 40%
(……やっぱり。ひょっとしてこの“???”って表示、リーネの今の不安定な状態が関係しているんじゃないか?)
「だったら――これから探し直そう。適性を。リーネに一番合った仕事を!」
そう言った矢先、カウンターにもたれていたリーネは――
「すぅ……」
カウンターに突っ伏し、寝息を立て始めた。
「……あれ?」
ユリスが苦笑する。
「気持ちよさそうに寝ちゃいましたね」
亮太は額を押さえ、ため息をついた。
「……仕方ない。一旦、宿に帰ろう」
オルグレンがリーネを軽々と担ぎ上げ、三人は賑わう酒場を後にした。
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