表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/8

第3話「残業しない改善法、試してみます」

【前世の教訓】


 翌朝。ギルド宿舎の小さな部屋で、亮太はベッドの上に腰を下ろすと、昨日の成果が数値に現れた。




【昨日の平均残業ゲージ】


全員:+25%


主人公:+20%(危険域手前)




数字がはっきりと物語っている。

 昨日の会議改革は成功だった。士気は上がり、KPIも改善。だがその裏で、皆の残業時間が大幅に増えてしまっていた。


「……やっぱりな」


 亮太の脳裏に、前世の夜がフラッシュバックする。未読メールは100件を超え、電話は鳴り止まない。

 営業成績を上げれば案件が増える。案件が増えれば残業が増え、疲労でミスも増える——。

 その連鎖の果てに、俺は深夜のオフィスで意識を失った。


「改善しても、残業が増えるなら意味がない」 


小さく呟く。

 今回こそは、前世でできなかったことをやる。

「今日は“残業ゼロ”で改善をやりきる」




 朝食後、受付のミーナが声をかけてきた。

「亮太さん、倉庫整理をお願いできますか? ロッコさんが人手を欲しがってて」


受付のミーナに言われて倉庫へ向かうと、そこには筋肉質な中年男が立っていた。腕まくりしたシャツから覗く腕はロープのように太い。


「倉庫番のロッコだ。よろしくな」


「よろしくお願いします」

ロッコはじろりと亮太の腕を見る。

「……細いな。干し肉一本分ってとこか」

「単位が食べ物なんですか」


 ロッコに案内され、ギルド裏の石造りの建物へ。 扉を開けた瞬間——鼻をつくカビ臭、油の焦げた匂い、そしてうっすら血のような鉄の匂い。

 薄暗い中、棚は倒れかけ、麻袋や木箱が無造作に積み上げられ、床には錆びた剣や欠けた盾が転がっている。


「……これ、モンスターの巣じゃないですよね?」

「倉庫だ」


ロッコは真顔で答えた。




【ロッコ(倉庫番)】 士気:25/100 KPI:在庫把握率 10%  残業ゲージ 60%




 10%というのは、在庫の9割が「どこにあるか・何なのか不明」という意味だ。

 ロッコ曰く、ラベルなしの木箱や壊れた棚のせいで物資の場所がわからず、必要な品を探すだけで1時間以上かかるらしい。倉庫が止まればギルド全体の仕事が遅れる。






 整理すると課題は三つ。


ラベルなしの箱多数


中身が不明、期限切れや使えない物が混ざっている




棚配置がランダム


取り出しに時間がかかり、作業効率が悪い




売れ残りと必要物資が混在


在庫回転率の低下、赤字要因




「今日の目標は在庫把握率を70%以上に上げて、残業ゼロで終えることです」



「ほう……計画的だな」


ロッコは腕を組んだ。




「まずは分類から始めましょう。棚ごとに用途を分けます。武器は赤、薬品は青、資材は黄」


亮太が説明すると、ロッコはうなる。


「そんな単純なことで……変わるのか?」


「変わります。色は誰でも瞬時に理解できる言葉ですから」

「ほう、そうなのか。じゃあ武器は血の色か……」

「縁起でもない例えやめてください」


「物は試しだな」


二人は棚の左右から同時に攻める。箱を開け、品を確認し、即座にラベルを貼る。

ロッコは片手で木箱を持ち上げ、腰で受け止めて棚に積み直す。

「これ、剣だな……赤!」

「こっちは薬草——青!」




在庫把握率:10% → 25%


残業ゲージ:+2%




「おお、数字が動くもんだな……」


ロッコが笑みをこぼす。

「この調子でいきますよ!」




 次は期限切れ品の選別。

 蓋を開けた瞬間、薬草が茶色く変色しているのがわかる。


「これ、もうダメだな」


「廃棄します。売れる物と捨てる物を分けて……」

「もったいねぇ。干せば茶色い紅茶として売れねぇか?」

「客の胃袋と評判が死にます」




「腰はやられないように気をつけろよ」


ロッコは木箱を抱える。


「これは……。干し肉三日分だな」

「だから何で肉基準なんですか」

「腹に落ちると一番わかりやすいだろ」




 亮太は作業スペースの一角に不要品エリアと大きく書かれた布を広げた。赤や青のラベルが付いた木箱が次々とその上に置かれていく。

 搬出用の通路も確保し、足の踏み場がなかった通路が一気に広がる。


 数値が再び更新される。




在庫把握率:25% → 50%


残業ゲージ:+4%




「おお、半分まで来たか!」

「ここで一息。休憩を挟みます」

「まだ動けるぞ?」

「動けるうちに休む。それが残業を防ぐコツです」




午後は売れ残り武器の再利用。

 壁際に並んだ剣や槍を手に取ると、刃こぼれや錆びが目立つ。


「これじゃ売れねえ」


ロッコが首を振る。

「じゃあ貸し出しましょう。冒険者に無料で貸して使ってもらえば、修繕の口実にもなります」


二人で武器をまとめて搬出し、棚のスペースを一気に空ける。

 作業は順調だ。目の前に緑色の通知が浮かぶ。




在庫把握率:50% → 70%




(やったぞ!)


「おお、えらくスッキリしたな!」

 ロッコが歓声を上げ、亮太も一瞬、達成感に頬を緩めた。


 ——だが、その瞬間だった。


 武器棚の奥に隠れていた壁板がずれ、中から暗い通路が顔をのぞかせた。


「……何ですか、これ?」

「……ああ、忘れてた。第二倉庫だ」

 ロッコが頭をかく。

「危険物置き場でな、整理するなら半日はかかる」


「そんな爆弾みたいな隠し倉庫やめてください」


 通知が即座に赤く点滅する。




在庫把握率:70% → 40%


予想在庫把握率(作業後):100%


予想残業ゲージ:80%超(危険)




亮太は眉を寄せた。

「やれば在庫は完全に把握できますが……今日中に終わらせれば残業ゲージが一気に危険域です」

「どうする?」




ロッコが真剣な顔を向ける。




深呼吸して、亮太はゆっくり首を横に振った。


「今日はやめましょう。第二倉庫は明日やります」

「未完了でいいのか?」

「いいんです。続けられる改善こそ、意味があるんですから」




【ロッコ(倉庫番)】


士気:25 → 60 / 100(+35)


KPI:在庫把握率 10% → 40%(+30%)


残業ゲージ:60% → 55%(-5%)




作業を終えた後、ロッコに工程表を渡した。


「明日用の整理方法をまとめました。よかったらみてください」

手順書には、棚番号ごとの仕分け順序、ラベル色の意味、不要品の判定基準まで書き込んだ。


「……これさえあれば、俺一人でも回せるな」ロッコは笑い、手を差し出した。

「亮太、本当に助かったよ」

「改善は仕組みを残すこと。それが俺のやり方です」




翌日。ミーナが分厚い紙束を机に置く。

「これ、冒険者のクレーム一覧です」

 UIには「クレーム処理率 15%」の赤数字が点滅していた。


「……また新しい課題か」

ここまで読んでくださりありがとうございます!

もし続きが気になったら、ブックマークしていただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ