第27話「夜の語らい」
夜。宿の一階食堂。木製の卓を囲み、簡素なシチューとパンを前にして一行は腰を落ち着けていた。
アンデッド・ダリオは相変わらず無言。骨ばった手で皿を掴み、黙々と食べ続ける。
「……あの、ダリオさんって一人で十人分くらい食べてません?」
ユリスが呆れたように囁く。
「全然大丈夫じゃない……」
亮太は食費計算を想像して額を押さえた。オルグレンが低い声で話題を切り替える。
「さて、今日の動きだが……。俺の方は工房筋を当たってきた。昔からのつてに話をしてみたんだが――断られた」
「えっ、そんな…」
「ああ。王国の武器を打つ仕事は受けられないらしい。理由までは深くは語られなかったが……どうやら単純に“嫌っている”わけじゃなさそうだ」
(工房が王国向けを作らない理由……探りに行かなくちゃな)
オルグレンは肩をすくめ、苦々しくパンをちぎった。
「悪いな。協力できずにすまん。もう少し当たってみるさ」
「とんでもない! むしろ感謝したいくらいです」
亮太は深く頭を下げる。
「それで――商人はどうだった? よい人材は見つかりそうか?」
オルグレンが問いかけた。
亮太は今日掴んだ名を口にする。
「“ゴルド”という交易商人です。王都や辺境で取引を広げてきたベテランで、組合に顔も利く。交渉力も信用力も抜群……ただ、利益優先で危険を軽視しがちだとか」
「計算に強い奴は確かに頼もしいが、利益ばかりを追う奴か……」
オルグレンが唸る。
次にユリスが声を上げる。
「俺は“ブランツ”って人を聞きました。元は傭兵で、引退して商人になったそうです。護衛も交渉も力で押すタイプ。山賊や魔獣が出てもある程度は戦えそうですね」
「傭兵上がりか。護衛クエストにはもってこいだな」
(ただし、数字や細かい駆け引きは苦手そうだ……)
「リーネ、君は?」
視線を移されたリーネは、少し間を置いて俯いた。
「どうかした? 体調でも悪い?」
「……いえ、大丈夫です」
それから、彼女は少し躊躇いながら口を開いた。
「“ルシアン”という小商人の名前を聞きました。表向きは普通ですが、裏では王国軍や貴族と繋がっているみたいで……。秘密裏に情報を集めたり、依頼の先を読んで動いたりできるそうです」
「ふむ……表と裏の顔か。上流と繋がりがあるのは心強いが、火種を抱え込む危険もあるな」
オルグレンは渋い顔をする。
リーネは心なしか肩を落とした。
「……やっぱり危ないですよね」
「いや、いいんだ。ありがとう」
亮太はまとめるように口を開く。
「候補は三人。交易商人ゴルド、護衛商人ブランツ、影商人ルシアン」
「それで――誰を一番の候補にする?」
亮太は息を飲む。頭の中に、あの金髪の商人の姿が浮かんだ。
(……大通りでのあの振る舞い。がめついけど肝が据わってた。あれは商人らしい商人だ)
「実は……今日の昼間、町で見かけた金髪の女商人がいました。名前は……まだ聞けていないんですけど。彼女の立ち回りは印象的で、ぜひ候補に加えたいと思ってます」
「ふむ。名はわからんのか?」
「はい。町を通りかかったときに見ただけで。でも、まずは今日挙がった三人――ゴルド、ブランツ、ルシアンに話をしてみるつもりです。その過程で彼女にも接触できるかもしれません」
「そうだな。わざわざ一人に絞る必要もない。複数に声をかけて、相手を見極めるのも手だろう」
オルグレンは顎を撫で、納得するようにうなずいた。
「話もまとまったので、今日は一旦これまでにしましょうか」
仲間たちはそれぞれ席を立ち、片付けに動き出した。
(商人の候補は出揃った。後はどうやってアポイントを取るか……)
その時、ユリスが真剣な眼差しで声をかけてきた。
「亮太さん。少し……外で話しませんか?」
「へ?」
夜風が心地よい石畳の通り。宿の明かりを背に、亮太とユリスは並んで歩いた。ユリスは口を開く。
「改めてですけど……採掘場では助けてもらったこと、感謝してます」
「ユリス……」
「俺は昔、冒険者に村を救ってもらいました。その姿に憧れて、剣を取ったんです。俺も、多くの人を救いたいと思って」
彼は剣を抜き、空に向かって掲げた。月光を受け、刃が淡く光る。
「だからもっと強くなりたい。もっと経験を積んで、スモークドレイクだって簡単に倒せるくらいに」
亮太は彼の横顔を見て、胸の奥で思う。
(やっぱりユリスはいろいろ尖ってるところはあるけど……根は真面目なんだよな)
「亮太さんは……どうしてギルドのために働いているんですか?」
「えっ……」
思わず言葉が漏れる。
脳裏によみがえる前世の断片。
眩い照明の下、壇上に立ち拍手とともに表彰を受けた瞬間の光景。
「よくやったな」「お前のおかげだ」──上司の声が、誇らしげに耳へ届く。肩を叩かれ、握手を求められた。
けれど、同じ脳裏にはもう一つの光景も浮かぶ。
終電間際のオフィス。書類の山と光を落とした蛍光灯の下で、背筋を丸めてキーボードを叩く自分。
「……楽しいから、かな」
「楽しい?」
ユリスは訝しむ。
「その割にはいつも“残業が残業が”って、宙を見ながらいっつも苦しそうに見えますけど」
「えっ……」
(KPIの数字見て頭抱えてたとき、そう見えてたのか!)
気恥ずかしさを押し隠し、改めて言葉を選ぶ。
「確かにきつい時もあるよ。でも、目の前の目標を達成できたとき――やっぱり嬉しいし、楽しいんだ」
ユリスは少し照れくさそうに口元をゆるめた。
「……今のその感じ、悪くないと思います。一緒に頑張りましょう!」
「……ああ」
亮太も笑みを返す。
(よっしゃ、がんばるぞ!)
――【KPI更新】
【ユリス(剣士)】
士気:15→60/100 ↑
KGI:冒険者ランクCに昇格する/より多くの人を救いたい (目標追加)
KPI:評価ポイント 12/100
残業ゲージ 30%
二人の間にしばし心地よい沈黙が流れる。しかし、ユリスは再び真剣な顔になった。
「それと……リーネさんの様子、少し変じゃなかったですか?」
「え? そうだった?」
「俺の勘違いならいいんですけど」
ユリスはそれ以上は言わず、夜空を見上げた。
亮太は小さくうなずき、心に引っかかりを覚える。
(リーネ……何かあるのか?)
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