第25話「コナリの門をくぐって」
採掘場を発った一行を乗せた馬車は、丘陵を越えて街道を進んでいた。風は乾いて心地よく、険しい峠道とは違って揺れも少ない。
(思っていたよりずっと道が整備されてるな。物資の往来もこちら側ならやりやすそうだ……)
やがて視界の先に、大きな城壁と白い石造りの建物群が現れる。塔の頂には王国の旗が翻っていた。
「見えてきたぞ、コナリ町だ」
オルグレンが低く言い、拳を組んだ。
「……ついに」
亮太は胸の奥で息を呑んだ。
「すごい……本当に商人の町なんですね」
リーネが目を輝かせ、窓枠に身を乗り出した。
「物が集まれば人も集まる。……だが揉め事も増える」
ユリスは傷の癒えた腕をさすりながら、少し緊張した表情で町を見つめた。
「俺、こんな大きな町に行くのは初めてです……」
亮太は小さく頷きながら、心の奥に熱を覚えていた。
(……ここからが本当の勝負だ。この町で、ギルドの未来を切り開いてみせる!)
馬車の車輪は町の石畳へと差しかかる。
馬車は街門をくぐり、石畳を鳴らしながら大通りを進んでいく。
両脇には軒を連ねる商店、道端で商売する露天商、色とりどりの看板。活気に満ちた声と香辛料の匂いが入り混じり、旅の疲れを一瞬忘れさせるほどだった。
「人が多いな……」
ユリスが圧倒されて目を丸くする。
「これが交易の町か。商売の匂いしかしねぇ」
オルグレンが鼻を鳴らす。
「ちょっと待って! あのお菓子屋さん美味しそう!」
リーネは指をさしながら窓から身を乗り出した。
「……リーネさん、まずは宿ですから」
亮太が苦笑いしながら制する。
やがて、馬車は広場近くの宿屋に辿り着いた。白壁に木の梁が映える三階建ての宿。看板には「青の翼亭」と刻まれている。
宿の主人は恰幅のいい女性で、一行を見るなり腕を広げた。
「おやまぁ、冒険者さん方かい? ちょうど大部屋が空いてるよ。荷物も任せておくれ!」
亮太は財布を握りしめながら、仲間を見渡した。
「ここを拠点にしよう。まずは体を休めて……それから町の情報を集めよう」
全員が頷き、それぞれ荷を解いて腰を下ろす。
ダリオは無言のまま窓辺に立ち、外の賑わいを見下ろしていた。
夜。宿の灯りの下で仲間たちが休む中、亮太は一人で外へ出た。
(少しでも町の情報を集めておきたい……散策しながら様子を見てみるか)
石畳を踏みながら通りを進む。ふと背後に気配を感じ、亮太は足を速めた。
(……つけられてる?)
曲がり角を折れるたびに、ちらりと背後を確認する。二度、三度。やはり同じ距離を保って歩く影がある。
(間違いない……誰かがついてきてる。誰だ……?)
意を決して振り返ると、そこには――栗色の髪をざっくり後ろでまとめた女性が立っていた。
「なーんだ、やっぱり気づいてたんですね。気づかないふりするなんて、意地悪だなぁ」
亮太は警戒を隠さず尋ねる。
「えっと……あなたは?」
「そうだ、まだ名乗ってませんでしたね!」
女性は胸に手を当て、芝居がかった仕草でお辞儀をする。
「私はマリーナ。記者をやってます。町の噂話や出来事をまとめて、記事にしたり人に伝えたりするのが仕事です!」
(……記者? 現代でいう芸能記者とか新聞記者ってやつか?)
「なるほど……それで、どうして俺を尾行してたんですか?」
「そ・れ・は――!」
マリーナはもったいぶった言い方で亮太へ迫る。
「あなたが噂になっているからですよ! ペガサス支部の英雄だって! 宿で“亮太さん”って呼ばれてるのを耳にしちゃって! 思わずついてきちゃいましたよね!」
「…………」
「ちょっと今、“やばいやつ”って顔したでしょ!? 全然! 全然違います!」
マリーナはポケットから一枚の紙を取り出す。
「安心してください!ほら、名刺だってあるんですから」
手渡された紙片には洒落たロゴと「自由記者 マリーナ」とだけ記されている。
「もし会いたくなったら、この名刺を酒場のマスターに見せてください。それが合図になりますから!」
「いや、会わないですよ。あなたみたいな怪しい人に」
「ふふっ。でも、亮太さんにはここへ目的があってきたんですよね? 困ったときには、情報通の私がお手伝いできます。その代わり……少し記事にさせてもらいますけどね。それじゃお休みなさい!」
大きく手を振ると、マリーナは路地の闇にすっと姿を消した。
「……えっ、あ、ちょっ……」
亮太は取り残され、手元の名刺を眺める。
(……嵐のように去っていったな……)
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