第22話「尾を掴む者」
オルグレンは肩に大槌を抱えたまま、煤煙の中をゆっくりと歩み出た。視線は一直線にスモークドレイクへ向けられている。
「……外側がどんなに硬かろうと、内側まで同じとは限らん」
大きく振り上げられた大槌がスモークドレイクの頭蓋を叩き割るように打ち下ろされる。巨体はオルグレンにひれ伏すように突っ伏す。スモークドレイクは呻くように唸り、体を持ち上げようとした。だが、その動きは明らかに鈍っている。衝撃が骨と鱗の奥深くまで伝わっているのが見て取れた。オルグレンは間髪入れず、もう一度槌を振りかぶる。二撃目はさらに強烈で、地面を割るような衝撃が坑道全体に響き、岩壁にひびが走った。
「すごい……あのスモークドレイクが押されている……!」
オルグレンは肩越しにちらりと仲間を見やり、口元を引き結んだ。
「……そろそろ、終わらせてやる」
亮太の目の前にKPIの文字が走る。
――【戦闘KPI更新】
対象:スモークドレイク
体力:48%(激怒状態に移行)
行動予測:攻撃頻度上昇/体温急上昇
スモークドレイクの全身を覆う鱗が赤熱を帯び、坑道の空気はさらに重苦しく熱を帯びていく。
(……体温を上げている? 次の攻撃がくるのか……?)
オルグレンは表情を険しくして仲間へ視線を投げる。
「おい、お前ら! 入口まで下がれ! 盾の陰に隠れろ!」
「わかりました!」亮太は即座に呪文書を取り出し、青白い光を展開する。
「ダリオさん、二人を!」
アンデッドのダリオがユリスとリーネを抱え、入り口の方へと急ぎ足で戻ってくる。その間にもKPIは赤く点滅し、警告の文字を走らせていた。
――【警告:スモークドレイク攻撃準備完了】
攻撃予測:範囲火炎放射
オルグレンの構える紺碧の盾の後ろへ、アンデッドのダリオがユリスとリーネを抱えて駆け込んできた。
「よし……! これで後は俺が!」
亮太が前へ出ようとしたその時、足首を冷たいものに掴まれた。
「……っ!」
振り返ると、煤煙の下からスモークファングが這い出し、鋭い牙をむきながら亮太の足を地中へ引きずり込もうとしていた。
(よりによって、こんな時に……!)
「おい、早くしろ! もうすぐあいつが炎を吐くぞ!」
オルグレンが声を張る。
「スモークファングに足をつかまれてます!」
「なんだって!? 何とかして足を振りほどけ!」
「どうする……どうすればいいんだ……!」
亮太は必死に足を蹴り、引き抜こうとする。だが相手の力は強く、地面ごと足を引きずり込まれそうになる。
頭に浮かぶのはユリスの言葉――「あんた、戦闘じゃ何もしていないじゃん」
(せめて足を引っ張るだけは……絶対に嫌だ! 自分の力で……乗り切る!)
必死の抵抗でスモークファングの顎をこじ開けかけた、その瞬間。別の個体が背後から這い寄り、肩口に爪をかけてきた。
「ぐっ……やばい……!」
状況は一気に悪化する。黒煙の奥では、スモークドレイクの喉が赤く光り始めていた。
(まずい……! 時間がない……!)
オルグレンがこちらに駆け寄ろうとする。
(このままじゃ、皆に余計なリスクをとらせてしまう……)
「オルグレンさん! ダリオさん! そのまま出口に向かってください!」
「お前はどうするんだ!」
「大丈夫です! 考えがあります!」
オルグレンは顔をしかめたが、短く返す。
「……わかった! 必ず戻って来いよ!」
管理人の声が坑道に響いた。
「お前ら、負傷者は皆もう脱出できた! ありがとう! 早く上へ!」
オルグレンと2人を連れたダリオは、最深部の外へ退いた。
「……さて」
亮太は震える足で立ち上がる。
(考えがあるなんて言ったけど……最悪だ。なっっっっっっんも思いついてない!!!)
(やばいやばいやばいやばい! このままじゃマジで死ぬ!!)
黒煙の中で、スモークファングが足に絡みついたまま牙を食い込ませてくる。
(こいつらの弱点は風……でも俺には風魔法なんて使えない! どうすれば……!)
脳裏に、先ほどの鉱員の声が蘇る。
「煙に巻かれちまった! あれじゃ捕まって地中に引きずり込まれる!」
――そうか。
「……このままでいいんだ!」
地面に転がっていたユリスの折れた剣の破片を拾う。スモークドレイクの口が開き、赤白い光が溢れ出す。足を掴んでいたスモークファングが異変に気づき、慌てて潜ろうとした。
「おりゃぁぁぁぁぁーーっ!!」
地中に姿をくらますすんでのところで尻尾を掴み、地中へ引きずられる。暴れるスモークファングに負けじと、折れた刃を突き立て必死にしがみつく。
「いっっっっってぇぇぇぇぇぇ!!!」
全身が切り裂かれそうな痛みの中、悲痛な叫びが坑道に響き渡る。直後、頭上を真紅の炎が薙ぎ払い、坑道全体を焼き尽くした。その声はかき消され、亮太の姿は、既に地中深くへと消えていた――。
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