第20話「王都一の鍛冶師――オルグレン」
現場に駆けつけると、煤と鉄粉の漂う坑道に、異形の魔獣が蠢いていた。
四足の体に煤のような煙をまとい、赤く爛々と輝く瞳。鉱員たちが掘削中に巣を突き破ってしまったのだろう。怒れる魔獣が、牙を剥いて作業場を蹂躙していた。
――【戦闘KPI表示】
魔獣種:スモークファング×9
特徴:煙幕生成・炎耐性
「こいつら……魔物か」
亮太は思わず息をのむ。採掘場の鉱員たちは必死に欠けた剣や錆びた槌で応戦する。だが煙幕に翻弄され、次の瞬間には牙が食い込み――。
「うわああっ!」
血を吸い尽くされた鉱員の体は、干からびた人形のように地面へ崩れ落ちた。
「やめろぉぉぉ!」
その惨状に、ユリスが抑えきれずに駆け出した。剣を振るい、勇猛果敢にスモークファングへ斬りかかる。
「……!」
亮太はあまりの光景に一瞬固まり、声が出なかった。
「……戦闘中に立チ止マルナ…ワカゾウ」
低い声でダリオが吐き捨てるように言った。その言葉で亮太はようやく我に返る。
「クソッ……前が見えない!」
煙幕に包まれ、ユリスの視界は奪われた。複数の影が取り囲み、その牙が腕に食い込む。
「ぐっ……!」
瞬時に体内の水分を吸い取られ、ユリスの顔が苦痛で歪む。
(まずい……このままじゃ!)
誰よりも早く動いたのは薬師リーネだった。
「離れなさいっ!」
袖から抜いた短刀が、ユリスに噛みついていた牙を切り落とす。そのまま喉元を突き刺し、一体を仕留める。
「ユリス、無茶しすぎ!」
支え起こしながら叱責すると、ユリスはかすかに息を漏らした。
「……すみません」
二人を囲むように、さらに数体のスモークファングが煙を吹き出し、視界を閉ざす。
「煙に巻かれちまった! あれじゃ捕まって地中に引きずり込まれる!」
鉱員たちが青ざめて叫ぶ。
「……ダリオは……?」
誰かが声を上げた瞬間、轟音が坑道に響いた。
「……フンッ」
アンデッドのダリオが大剣を大きく薙ぎ払う。その風圧で煙幕が一気に吹き飛び、視界が晴れる。露わになった魔獣たちを、ダリオは迷いなく叩き斬る。骨を砕く音とともに、二体、三体と次々に倒れていく。
――【戦闘KPI更新】
スモークファング 残数:8 → 3
(さすが……歴戦の冒険者だ!)
ダリオの猛攻でスモークファングの数は大きく減っている。亮太は額の汗を拭いながら、拳を握る。
(……俺もやらなきゃな)
視界に、魔獣の情報が浮かび上がる。
――【KPI更新】
魔獣種:スモークファング
特徴:煙幕生成・炎耐性
弱点:風・浄化魔法
(……風属性が弱点か!)
亮太は声を張った。
「奴らは風属性に弱い! ユリス、風魔法だ!」
「っ……はぁ、はぁ……」
肩で荒く息を吐きながらも、ユリスは頷き、剣を杖のように支えながら呪文を紡ぐ。
「《エア・スラッシュ》!」
次の瞬間、鋭い風の刃が坑道を切り裂いた。
煤煙を裂いて駆け抜ける風が、スモークファングの黒い体を次々と切り裂く。
赤い瞳が断末魔の光を放ち、獣たちは崩れ落ちていった。
――【戦闘KPI更新】
スモークファング 残数:3 → 0 戦闘終了
坑道に静寂が訪れる。
「大丈夫か、ユリス」
亮太が駆け寄る。ユリスは血のにじむ腕を押さえ、苦笑いを浮かべた。
「……大丈夫です。――でも、あんた、見てただけでしたよね」
(うっ……! やめてくれ、俺だって分かってる……!)
亮太は内心で顔を覆いたくなる思いを必死に押し隠した。
その間にも、鉱員たちは必死に仲間を担ぎ、救助活動に奔走していた。そこへ、先ほど坑道の入り口で会った管理人の男が駆け寄ってくる。
「おう! スモークファングを倒してくれたのはあんちゃん達か! 本当にありがとな!」
「無事でよかったです」
亮太が応えると、管理人は視線を横にやり、驚いたように口を開いた。
「おいおい、オルグレン。お前がここまで来るなんて珍しいじゃねぇか」
オルグレンは槌を肩にかけ、そっけなく返す。
「……まぁな」
「どうだ! そろそろこいつらのために護身用の武器を作ってくれないか? 支給されてくる武器じゃ心許なくてな」
だが、オルグレンは冷たい声で遮った。
「俺は他人のために武器は作らない」
「王都一の鍛冶師と呼ばれたその腕が腐っちまうぜ。……聞いてるんだ。あの事件はお前のせいじゃないってこともよ」
「……!」
亮太の目が大きく見開かれた。
(王都一……? やっぱりただの鍛冶師じゃない……! しかも事件って――?)
オルグレンは顔を背ける。
その瞬間――。
ゴオォォォン……!
大地を揺るがすような轟音が坑道の奥から響き渡った。岩壁が震え、天井から砂と小石が降り注ぐ。
「な、なんだ!?」
鉱員たちが顔を上げ、青ざめた表情で奥を見やる。再び轟音。轟音と共に岩壁が崩れ落ち、黒煙が吹き荒れる。
「……まさか……あいつ、なのか……」
オルグレンの目がかすかに見開かれた。管理人が慌てて坑道の奥へ駆け寄る。
「ま、まずい! 封じていた壁が……崩壊しちまってる!」
坑道の奥からゆっくりと姿を現したのは、煤を纏う竜――スモークドレイクだった。その体躯は人間の数倍に過ぎない小型種。しかし、その存在感は坑道の狭さを埋め尽くすほど圧倒的だった。煤で黒ずんだ鱗は炎のように赤く光を帯び、口元からは絶え間なく煙が漏れ出ている。
「……これが、竜……!」
想像以上の威圧感に、足が思わずすくむ。
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