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社畜、異世界でブラック企業をホワイト化します! 〜倒産寸前ギルドを“残業ゼロ”で救う〜  作者: 凪乃
1章

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第20話「王都一の鍛冶師――オルグレン」

現場に駆けつけると、煤と鉄粉の漂う坑道に、異形の魔獣が蠢いていた。


四足の体に煤のような煙をまとい、赤く爛々と輝く瞳。鉱員たちが掘削中に巣を突き破ってしまったのだろう。怒れる魔獣が、牙を剥いて作業場を蹂躙していた。




――【戦闘KPI表示】


魔獣種:スモークファング×9


特徴:煙幕生成・炎耐性




「こいつら……魔物か」


亮太は思わず息をのむ。採掘場の鉱員たちは必死に欠けた剣や錆びた槌で応戦する。だが煙幕に翻弄され、次の瞬間には牙が食い込み――。


「うわああっ!」


血を吸い尽くされた鉱員の体は、干からびた人形のように地面へ崩れ落ちた。


「やめろぉぉぉ!」


その惨状に、ユリスが抑えきれずに駆け出した。剣を振るい、勇猛果敢にスモークファングへ斬りかかる。


「……!」


亮太はあまりの光景に一瞬固まり、声が出なかった。


「……戦闘中に立チ止マルナ…ワカゾウ」


低い声でダリオが吐き捨てるように言った。その言葉で亮太はようやく我に返る。


「クソッ……前が見えない!」


煙幕に包まれ、ユリスの視界は奪われた。複数の影が取り囲み、その牙が腕に食い込む。


「ぐっ……!」


瞬時に体内の水分を吸い取られ、ユリスの顔が苦痛で歪む。


(まずい……このままじゃ!)


誰よりも早く動いたのは薬師リーネだった。


「離れなさいっ!」


袖から抜いた短刀が、ユリスに噛みついていた牙を切り落とす。そのまま喉元を突き刺し、一体を仕留める。


「ユリス、無茶しすぎ!」


支え起こしながら叱責すると、ユリスはかすかに息を漏らした。


「……すみません」


二人を囲むように、さらに数体のスモークファングが煙を吹き出し、視界を閉ざす。


「煙に巻かれちまった! あれじゃ捕まって地中に引きずり込まれる!」


鉱員たちが青ざめて叫ぶ。


「……ダリオは……?」


誰かが声を上げた瞬間、轟音が坑道に響いた。


「……フンッ」


アンデッドのダリオが大剣を大きく薙ぎ払う。その風圧で煙幕が一気に吹き飛び、視界が晴れる。露わになった魔獣たちを、ダリオは迷いなく叩き斬る。骨を砕く音とともに、二体、三体と次々に倒れていく。




――【戦闘KPI更新】


スモークファング 残数:8 → 3




(さすが……歴戦の冒険者だ!)


ダリオの猛攻でスモークファングの数は大きく減っている。亮太は額の汗を拭いながら、拳を握る。


(……俺もやらなきゃな)


視界に、魔獣の情報が浮かび上がる。




――【KPI更新】


魔獣種:スモークファング


特徴:煙幕生成・炎耐性


弱点:風・浄化魔法


(……風属性が弱点か!)




亮太は声を張った。


「奴らは風属性に弱い! ユリス、風魔法だ!」


「っ……はぁ、はぁ……」


肩で荒く息を吐きながらも、ユリスは頷き、剣を杖のように支えながら呪文を紡ぐ。


「《エア・スラッシュ》!」


次の瞬間、鋭い風の刃が坑道を切り裂いた。


煤煙を裂いて駆け抜ける風が、スモークファングの黒い体を次々と切り裂く。


赤い瞳が断末魔の光を放ち、獣たちは崩れ落ちていった。




――【戦闘KPI更新】


スモークファング 残数:3 → 0 戦闘終了




坑道に静寂が訪れる。


「大丈夫か、ユリス」


亮太が駆け寄る。ユリスは血のにじむ腕を押さえ、苦笑いを浮かべた。


「……大丈夫です。――でも、あんた、見てただけでしたよね」


(うっ……! やめてくれ、俺だって分かってる……!)


亮太は内心で顔を覆いたくなる思いを必死に押し隠した。


その間にも、鉱員たちは必死に仲間を担ぎ、救助活動に奔走していた。そこへ、先ほど坑道の入り口で会った管理人の男が駆け寄ってくる。


「おう! スモークファングを倒してくれたのはあんちゃん達か! 本当にありがとな!」


「無事でよかったです」


亮太が応えると、管理人は視線を横にやり、驚いたように口を開いた。


「おいおい、オルグレン。お前がここまで来るなんて珍しいじゃねぇか」


オルグレンは槌を肩にかけ、そっけなく返す。


「……まぁな」


「どうだ! そろそろこいつらのために護身用の武器を作ってくれないか? 支給されてくる武器じゃ心許なくてな」


だが、オルグレンは冷たい声で遮った。


「俺は他人のために武器は作らない」


「王都一の鍛冶師と呼ばれたその腕が腐っちまうぜ。……聞いてるんだ。あの事件はお前のせいじゃないってこともよ」


「……!」


亮太の目が大きく見開かれた。


(王都一……? やっぱりただの鍛冶師じゃない……! しかも事件って――?)


オルグレンは顔を背ける。




その瞬間――。


ゴオォォォン……!


大地を揺るがすような轟音が坑道の奥から響き渡った。岩壁が震え、天井から砂と小石が降り注ぐ。


「な、なんだ!?」


鉱員たちが顔を上げ、青ざめた表情で奥を見やる。再び轟音。轟音と共に岩壁が崩れ落ち、黒煙が吹き荒れる。


「……まさか……あいつ、なのか……」


オルグレンの目がかすかに見開かれた。管理人が慌てて坑道の奥へ駆け寄る。


「ま、まずい! 封じていた壁が……崩壊しちまってる!」

坑道の奥からゆっくりと姿を現したのは、煤を纏う竜――スモークドレイクだった。その体躯は人間の数倍に過ぎない小型種。しかし、その存在感は坑道の狭さを埋め尽くすほど圧倒的だった。煤で黒ずんだ鱗は炎のように赤く光を帯び、口元からは絶え間なく煙が漏れ出ている。


「……これが、竜……!」

想像以上の威圧感に、足が思わずすくむ。





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