第2話「初めての会議」
【カオスな会議】
翌日。
「お前、会議に出てみろ」とギルドマスターのバルドに呼び出された亮太は、ギルドの奥にある小部屋へ案内された。
部屋と言っても、四人掛けの机が一つと、壁に板切れが打ち付けられているだけ。
机の上には紙束、半分飲みかけのマグ、そして誰のものかわからないパンくず。
すでに四、五人が集まっていたが、誰も議題を確認していない。
雑談、愚痴、別件の相談……カオスそのものだ。
視界のUIが自動で切り替わる。
【会議KPI:議題消化率】 15%
【平均発言有効率】 22%
【平均残業ゲージ(会議参加者)】 68%
——これ、会議じゃなくておしゃべり会だな。
【数値表示】
机の端で、会計係らしき女性が分厚い帳簿を抱えてため息をついている。
彼女が視線を上げた瞬間、UIが表示された。
【パメラ(会計係)】 士気:30/100 KPI:経費適正化率 25% 残業ゲージ 70%
……経費の適正化率25%って、無駄が四分の三ってことだよな。
残業ゲージ70%は締め日前の経理並みだ。
反対側では、やる気ゼロの青年が頬杖をつき、机に肘をついたまま目を閉じている。
【ラルフ(書記)】 士気:20/100 KPI:議事録精度 15% 残業ゲージ 40%
議事録精度15%って、ほぼ空白だろ。
というか、残業ゲージ40%なのにこのやる気のなさ……ある意味才能だ。
【改善開始】
亮太は手を叩き、全員の視線を集めた。
「はい、静かに。まず今日決めるべきことは三つに絞ります」
「おお……三つも?」バルドが妙に感心した顔をする。
「多く聞こえるかもしれませんが、今までは何個ありました?」「さぁ……十個ぐらい?」
「それ、時間内に終わるわけないでしょ」
亮太は壁の板切れにチョークで「議題①②③」を書き込み、それぞれの所要時間を宣言した。 さらに発言ルールを設定。
——一人の発言は30秒以内、脱線したら即ストップ。
会議の空気が少しだけ引き締まる。
視界に数値が浮かんだ。
【会議KPI:議題消化率】 15% → 50%
【ラルフKPI:議事録精度】 15% → 18%
まだ道半ばだが、改善は確実に進んでいる。
【数字は伸びたが……】
残り一時間で三つの議題すべてを終える。
最終的な数値は——
【会議KPI:議題消化率】 15% → 85%(+70%)
【ラルフKPI:議事録精度】 15% → 25%(+10%)
おお、きれいに上がった……と思ったのも束の間、もう外は真っ暗だった。
無情にもUIが更新される。
【残業ゲージ】
亮太:30% → 45%(+15%)
バルド:65% → 78%(+13%)
パメラ:70% → 82%(+12%)
ラルフ:40% → 55%(+15%)
「……おかしくない? 数字は良くなったのに、なんで残業こんな増えてんの?」
「だって、いつもよりちゃんと話し合ったからですよ」
パメラが真顔で言う。
「それは正しいけど、正しくない!」
ラルフはあくびを噛み殺しながら言った。
「改善って、結局仕事増やすだけじゃないですか」
亮太は言葉に詰まり、頭上の自分の残業ゲージがじわじわ上がり続けるのを見つめた。
翌朝。倉庫番ロッコから「在庫が行方不明だらけ」という悲鳴が届く。
UIには「在庫把握率 10%」の赤い数字。
亮太は額を押さえた。
「……これは絶対、定時で終わらないやつだ」
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