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第18話「北方峠へ」

ギルドの財務を改善する――そのために亮太が選んだ手段は、新たな仕組み“遠征クエスト”の導入だった。それが実際に機能するのか。そして、この仕組みに欠かせない仲間を得られるのか。その答えを探しに、亮太は三人の仲間――剣士ユリス、薬師リーナ、そしてアンデッド・ダリオ――とともに、北方峠の採掘場へ向かう。




北方峠への街道は、街道とは名ばかり。岩だらけの坂道に、濃い霧が立ち込め、道端の森からは獣のうなり声が漏れている。


「……これが峠までの道のりか」

亮太は顎に手を当て、冷静に周囲を観察した。


(運搬用の荷車だと、雨の日には車輪が泥に取られて止まる。坂道なら滑落や横転の危険もある。そこに魔物まで出没するとなると――確かに定期的な護衛クエストが発生する。……さすがはパメラさん。遠征クエストの趣旨を完璧に把握している)




ユリスが不満げに口を開いた。

「……ねぇ。労働環境を改善って言ってましたよね? なのに、なんでこんな危険で険しい山道を歩かされなきゃいけないんですか?」


冷ややかな視線が亮太に向けられる。まるで「言ってることとやってることが違うじゃないか」と突きつけられているようだった。


亮太は肩で息をつき、苦笑混じりに返した。

「……正直、その指摘はもっともだ。けど、これを成功すれば、今後は“効率的な遠征”を標準にできる。今日の苦労が、明日を楽にするんだ」




その時――。


ガサリ、と茂みが揺れ、突如3体の巨大オオカミが飛び出してきた。赤く光る目、涎を垂らし、群れでこちらを狙っている。ユリスは即座に剣を抜き、鋭い突きを繰り出す。そして見事オオカミを貫いた。




――【戦闘KPI更新】


巨大オオカミ×3→×2




しかし若さゆえの動きは速いが、無駄も多い。横合いから飛びかかってきたオオカミに押され、体勢を崩しかけた。


「ユリス!」


そこへアンデッド・ダリオが無言のまま突進し、信じられない膂力でオオカミを地面に叩きつけた。骨が折れる音とともに魔獣が絶命する。




――【戦闘KPI更新】


巨大オオカミ×2→×1




亮太は背後から残りの一体を凝視する。




――【戦闘KPI更新】


巨大オオカミ:弱点 脚部



(……弱点は脚部か!)


「ユリス! 脚を狙え!」

ユリスの気合の一撃が見事に決まり、オオカミは呻き声を上げて倒れ込んだ。




――【戦闘KPI更新】


巨大オオカミ×1→×0 (戦闘終了)




血の匂いがまだ漂う中、荒い息をつくユリスに亮太は手を差し伸べた。


「大丈夫?」


しかしユリスはその手を払いのけ、乱れた息のまま立ち上がった。


「……結構です。自分で立てます」


彼は汗で濡れた前髪を振り払い、ぎらりと目を細める。

「俺たち新人が安い給料で魔物相手に血を流す羽目になるんですね。……矛盾してませんか?」


その声には疲労よりも、刺々しい苛立ちがにじんでいた。


リーネが慌ててユリスの腕を支える。

「ユリス、言いすぎよ。亮太さんは、私たちを危険に晒したくてここに連れてきたんじゃない」


だがユリスは首を振り、冷たく言い放った。

「……早く行きましょう。立ち止まっている時間が、一番無駄ですから」


彼の背中は、痛みを押し隠すように強張っていた。




――【KPI更新】


【ユリス(剣士)】


士気:20/100 ↑


(あれ?どうして士気が上がったんだ?)




魔獣との戦闘を終え、険しい山道をさらに登った先。霧の切れ間に、黒煙を上げる掘削場と粗末な掘っ立て小屋が見えてきた。金属を叩く音が岩壁に反響し、硝煙と鉄の匂いが鼻を突く。


「……ここが北方峠の採掘所か」


亮太は肩の汗をぬぐいながら周囲を見回した。木組みの櫓が組まれ、坑道からは鉱石を積んだ荷車が次々と押し出されている。労働者たちの顔は煤に汚れ、疲労で険しい。


(ここで採取した鉱石を、次のコナリ町で加工・納入する流れ。ただ掘るだけじゃ足りない。武器を打てる鍛冶師が必要になる)




亮太は坑道の入り口付近にいた管理人風の男に声をかけた。

「すみません、この辺りで採取した鉱石を使って武器を作れる鍛冶師を探しているんですが」

男は怪訝そうに眉をひそめた。

「武器だぁ? ここは採掘が専門だ。採った石は加工まではするが、鍛冶はコナリ町に任せるのが普通だろう」


亮太は首を横に振る。

「クエストの一環なんです。ここで採って、そのまま武器に加工して運ぶ――ひとつの流れにまとめたいんです」

「……そういう無茶を言うなら、あいつくらいしか思い当たらんな」


「それは……誰なんです?」


男はふっと鼻を鳴らした。


「オルグレンってやつだ。この採掘所の最深部にこもってる変わり者で皆からは“頑固鍛冶”って呼ばれてる。掘った鉱石をその場で叩いて、試作品みたいな武器を作るのが趣味でな。面倒くさいし、気難しいが――腕は確かだ」


「なるほど…それならまさにうってつけだ!」


ユリスが険しい顔で小声を漏らした。

「えっ、最深部って……一番危ないところですよね」

リーネがたしなめるように肩に手を置く。


「そんなに意固地にならないの。遠征に必要な人なんだから、会いに行きましょう」

ユリスは不満げにうなずく。


「わかりましたよ…」


「そのオルグレンさんを探しに行こう!」

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