表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/40

第16話「理想と現実」

ギルドの広場に到着。すると、受付カウンターの前で数人の冒険者が声を荒げているのが目に入った。


「それにしたって依頼料少なすぎだろ! 村の魔物を倒したってのに、どうしてこんなに安いんだよ!」


ミーナは慌てたように書類を抱え、必死に頭を下げている。

「ご、ごめんなさい! 依頼料は依頼主の提示額でして……私たちでは増やせなくて……」


(またクレーム対応か……)

亮太は足を止め、少し距離を取って様子を見守った。


やがて、ミーナがいつものように丁寧に言葉を尽くしてなだめると、冒険者たちはぶつぶつ言いながらも、なんとか帰っていった。



「ふぅ……」

大きく息を吐いたミーナが顔を上げたとき、視線が亮太に気づいてぱっと表情を明るくした。


「あっ……亮太さん!」


しかしすぐに彼女は少しばつの悪そうな顔で近寄ってくる。

「この前の宴……その、酔っぱらってご迷惑を……あんまり記憶ないんですけど、私、何かやらかしてませんでした?」


亮太は頬をかきながら曖昧に笑った。

「いやいや、大丈夫。特に何も」


(……というか、俺も途中から記憶ないし)


「そ、そっかぁ……よかったぁ」

ミーナは胸を撫で下ろす。

「それにしても大変だったね。さっきのクレームでしょう?」


「いえいえ……冒険者の方々も必死なんです。命をかけて働いてるのに、報酬が少ないのは納得いかないでしょうし……」

(そうだよな……そういえば、冒険者って実際どういう仕組みで働いているんだろう?)


彼は改めて口を開いた。

「ミーナ、ちょっと聞きたいんだけど。冒険者って、今どういう仕組みで働いてるんだ?」


ミーナは姿勢を正し、簡潔に説明を始める。


「基本的にはランク制です。冒険者は登録時に最下位のFランクから始まって、依頼をこなすごとに評価点が溜まっていきます。一定の点数に達すると昇格試験を受けられるんです」


亮太はカウンターに身を乗り出した。

「その……クエストの“評価されるポイント”って、どうやって決まってるんだ?」


ミーナは少し言いづらそうに目を逸らしながら答えた。

「……正直に言うと、私もよくわかっていなくて……パメラが決めているんです。彼女は数字や会計に強いから」


「パメラが?」


そのとき、奥からパメラが現れ、淡々と答えた。

「えぇ、誰もやらないから私が決めてる。現状は依頼料の高い案件ほどポイントがつく」


(……それってまずくないか?)


「つまり……金持ちの依頼人ほど、評価ポイントが高くなるってことじゃないか?」


パメラは肩をすくめた。

「一概にそうじゃない。ただ……実際、そういう傾向になりつつあるのは否めない」


(やっぱりか……。これじゃ、実力とか努力とかじゃなくて“金のある依頼人に好かれるかどうか”で評価が決まってしまう)


亮太は息を吐き、真正面から尋ねる。

「これって、評価基準を変えることはできないんですか?」


「無理」パメラは即答した。

「今の財務状況だと評価基準を変えれば、収入が減ってギルドは即破産」


亮太は顎に手を当て、苦笑した。

(なるほど……評価基準ってどういう働きを価値あるものと見なすかってことか。会社で言えば“理念”みたいだな。だけど今のギルドはお金に縛られすぎて理念が形骸化してる……完全にブラック企業じゃないか)


パメラは少しだけ声を落とす。

「方法は……ないわけでもない。せめてギルドが黒字化すれば、評価の仕組みを公平にできる選択肢をとれる」


亮太は深く頷いた。

(つまり……まずはギルドの財務状況を安定させる必要がある。そこからだな)


【KPI更新】

現状/目標

①財務:−34%/0% 以上


ギルドの片隅。机の上には依頼票と地図が広げられ、亮太は眉間に皺を寄せていた。


(……みんな必死に頑張ってるのに、数字は一向に良くならない。報酬も環境もこのままじゃ誰も残ってくれない……仕組みを変える方法を見つけないと)


そんな独り言のような思考を、静かな声が遮った。


「悩んでいるみたいね」


顔を上げると、そこにはパメラが立っていた。

彼女は無造作に机の地図へ手を伸ばし、並んだ依頼票を指先で一筆書きのように結んでいく。


「私はてっきり、あなたがもう気づいていると思ったのだけど……依頼は“つなげて考える”ものよ」


その瞬間、亮太の頭にひらめきが走った。

「そうか! ギルドの財務を立て直すには、まず依頼の効率化か!」


(監査のときに実践したやり方。近くの依頼をまとめて回れば、1つずつ片づけるよりも時間も労力も少なく済む。)


「最適なルートを組めば、収入は安定するし無駄な残業や過労も減らせるはず……ってことですよね?」


「ふふ…そう。遠征クエストってところね」


亮太の脳裏には、もう新しい仕組みが形を取り始めていた。――これがギルドを支える新しい体系になるはず。




そのためには――。


「……まず、初期メンバーをそろえなきゃならないな」

ここまで読んでくださりありがとうございます!

もし続きが気になったら、ブックマークしていただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ