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第74話 トントン拍子

レイラたちの調査結果を聞いたところ、レベッカと家令のトルネオは恋仲らしい。

レベッカはダンジョンで魔武具を探し、伯爵の忠告を正面から受け、領民のために勉強している。これも全て愛しい人のためなのだろう。

しかし、トルネオはレベッカがいない間は領都で豪遊し、女を取っ替え引っ替えしている。オレたちがダンジョンに潜って手に入れた魔武具を売って作った金を使ってな。

おかしいと思っていたんだ。魔武具を売った金はそれなりの金額なのに、レベッカは毎月ダンジョンに潜りにきていた。誰かが金を使い込んでいるとしか思えなかった。


フローラがキレ気味に意見をのべる。


『ダリオ様に全てを報告しましょう。レベッカさんが可哀想です。家令を更迭して代わりに優秀な文官なり何なり雇えばレベッカさんの真面目な性格なら将来きっといい領主に成長しますよ!』


この間までマトモな貴族令嬢だったからなぁマトモな意見が出るのは当然か。


「フローラの意見は正しい。でも誰もそれを望んでいない」


フローラがキョトンとする。


「さっきダリオ様と話した限りではダリオ様は男爵領に街道を通したいと考えている。レベッカと揉めずに領地を取り上げる方法を探してる。

片やオレはタンク役のメンバーを探してる。レベッカほど適任な女性はいない。

ではそれを実現するためにはどうするか。家令が女を囲って豪遊しているところにレベッカを放り込むのが手っ取り早い。

レベッカが怒りに任せて家令を殺してくれれば男爵家の痴情のもつれを外で晒したことになる上、今まで領地運営の実務を担ってきた家令がいなくなり運営に支障をきたすことになる。ダリル様が男爵家から領地を取り上げるのに十分な理由になり得るだろうよ」


フローラは納得できないと面持ちだ。


『そんなレベッカさんをはめる様な真似はしたくありません』


やれやれ。とりあえずフローラの機嫌は置いといて、問題はレベッカを奴隷にできるかどうかだな。

トルネオ1人殺しただけでは、恐らく奴隷堕ちにはならないだろう。トルネオの方が悪どいことをしてるからな。トルネオはいつも取り巻きと一緒に豪遊してるらしいが、取り巻きまでまとめて殺してくれれば奴隷に堕ちるかもしれない…レベッカがそこまで狂気に走ることはないか?

何にせよレベッカには現実を知ってもらう。


しばらくするといつも通りレベッカがダンジョンに潜りにローナにきた。

しかし今日は逆に俺たちからレベッカに指名依頼をする。


「レベッカ、ついてきて欲しい場所がある。報酬はオレたちが事前に入手しておいた魔武具だ」


『どういう風の吹き回しかしら?』


「たまにはダンジョンではなく、外を冒険するのもいいだろう」


『わかったわ。じゃぁ行きましょう、グラナダへ』


「………」



・・・・・・


ー 領都グラナダ ー


何と言えばいいのだろう。事が上手く運びすぎている。


ここは領都グラナダの歓楽街。女性と一緒にお酒を飲む店の一角でレベッカがトルネオに剣を突きつけていた。


『レ、レベッカ!!何でお前がここに?』


『知りたいの?でもね、これから死ぬ貴方に教えるのは無駄よね。貴方を信じた私が馬鹿だったわ。さようなら』


『ま、待て、レベッカ!話をきい、がぁ』


一閃。あっさりと首が落ちた。

そして逃げ出そうとした取り巻きどもの首も同じ運命をたどった。


『ふぅ、すっきりした。あ、ごめんなさい。貴女達に危害を加えるつもりはないから安心してね』


と、レベッカは首がない死体を前にガクブルするお店の女の子にやさしい?声を掛けていた。


それから憲兵がきてレベッカを連れて行った。その後、ダリル様より『後は任せろ』との力強いお言葉をいただいたのだった。


ー 三日後、サンチェス伯爵邸 ー


ダリル様に呼び出されたので来てみると、そこにはレベッカと奴隷商の姿があった。ダリル様が満足気に話し始める。


『ガレス君、君が良い仕事をしてくれたおかげで思惑通りに事が進んだよ。だから君の希望も叶えよう。レベッカは奴隷堕ちを了承した。君のパーティに加えるといい』


「ありがとうございます。レベッカを奴隷として雇わせてもらいます」


と言った感じでトントン拍子に事が進んだ。


そして、伯爵邸を出た後、グラナダの宿屋の一室にオレと4人の奴隷はいた。


「さて、レベッカが新たに奴隷として加わったわけたが、最初にはっきりさせておきたいことがある。

レベッカ、お前トルネオが金を使い込んでいることを知っていたな?それだけじゃない。ダリル様とオレの思惑にも察しがついていた。違うか?」


『何だ、バレていたのね。その通りよ』


フローラが混乱したように質問する。


『え?何で?知っててわざわざ奴隷に堕ちる道を選んだってこと?』


『その通りよ。もう少し詳しく話すわ。

先代が…父が亡くなる前、私は王都の第2騎士団に所属していたの。私は騎士として身を立てようと思っていた。だから最初の内はあらゆることに本気で取り組んだ。でもね、少しずつ分かってきたのよ。女性が軽んじられている事がね』


この間まで王都いたフローラが質問する。


『第3騎士団に所属を変えようと思わなかったの?第3騎士団なら女性だけだから軽んじられることは無いはずでしょ』


『そうね。今思えばその通りだと思う。でも当時の私は意地になっていた。元々性別なんて関係なくのし上がってやると意気込んで第2騎士団へ入団を希望したからね。結局足掻いても何も変わらず、時だけが過ぎていった。


そんな中、父が亡くなったと連絡があった。トルネオから、私が跡を継がないと男爵領は国に返還される。そうなったらお世話になった父に申し訳がないと言って男爵位を継ぐように私に勧めてきたの。騎士団の生活に嫌気が差していた私は男爵位を継ぐことを決意した。


最初の内は楽しかったのよ。トルネオは私の幼馴染でね、やるべきことは教えてくれたし、領民はいい人ばかりだったからね。協力して領地を運営していくうちにトルネオと距離が近くなり付き合う様になったわ。騎士として生きていく道を諦め、領主として、女として生きるのも良いかなと思ったりもした。たださすがに騎士から領主になってすぐに結果は出ず領地運営は赤字だったわ。仕方なく私はアナタたちと一緒ダンジョンに潜り魔武具を手に入れる形でお金を得た。そこから何かが変わり始めた。


最初は仕方なく始めたダンジョン攻略だけど、トルネオが頻繁にダンジョンに潜ることを勧めてくるようになったのよ。

いくら私が馬鹿でもね、赤字より魔武具を売ったお金の方が多いことくらい分かる。そしてちょっと調べればトルネオたちが豪遊してるこなんてすぐに分かったわ。

それが分かった時点で私はどうでもよくなっちゃったのよ。

騎士としては中途半端、領主としては無能、女としてはあっさり裏切られる…今までの私の人生って何なんだろうって。


でもね、そんな中でも1つだけ心から楽しめることがあった。それがアナタたちとのダンジョン攻略よ。

1番最初は奴隷パーティの主人なんてクズだと決めつけていたわ。でも一緒にダンジョン攻略していく中で分かったわ、アナタたちの間には揺るぎない信頼…いいえ、愛情にも近い想いが存在することに。

そして戦闘を何度もこなすうちに感じたの、私は騎士として頼られているって。信頼されて命を預けてくれているって。

私が第2騎士団で手に入れることが出来なかった信頼と、トルネオとの関係では感じることの出来なかった愛情がこのパーティにはあった。それに気付いてからね、このパーティに本気で入りたいと思うようになったのは』


「だからグラナダではわざと奴隷堕ちになるように動いたわけか」


『そういうこと。逆指名依頼を受けたときに何となく察してたけど、トルネオが豪遊してる現場に放り込まれたときに確信を得たわ、コイツらを殺せば思い通りになるってね』


するとフローラがオレに疑問をぶつける。


『そういうことだったのね。マスターはなんで分かったの?私は全然気づかなかった』


「逆指名依頼の時、レベッカには行き先を告げていないのに、グラナダと分かっていたからな。

そしてトルネオだけでなく取り巻きも殺した。多分トルネオだけでは奴隷堕ちにはならなかっただろう。きっちり殺すあたり、こっちの意図を理解していると思ったわけだ」


『なるほどね〜』


そしてレベッカも疑問に思ってたことを質問する。


『ねぇ、フローラって最近ガレスのパーティに入ったのよね。もしかして王都に住んでた?どこかで見たことがあるような気がするんだけど…』


『そうね、元貴族だったから王都に住んでたわよ。第2騎士団にいたならどこかで会ってるかもしれないわ。ウチは没落しちゃったけどね、マリアーノ家って知ってる?』


『は?マリアー…ノ?マリアーノ侯爵家!?フローラ・マリアーノって聖女最有力候補だった?なんで奴隷パーティにいるのよ!?』


『あははは、やっぱりそういう反応になるよね。実はね…』


・・・・・・


『…ちょっと待って、マスターと繋がりがあるのはダリル様かと思っていたけど、クリスティーナ様がパーティの後ろ盾なの?』


「その通りだよ。またそのうちクリス様から指名依頼があるかもな」


『ふ、ふふふ、思っていたより凄いパーティなのね。私の選択は間違っていなかったわ。このパーティのために私の全てを捧げる。絶対に皆の期待に応えてみせるわ』


「頼もしいな。期待してるぜ、レベッカ」

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