第71話 奴隷への勧誘
『あ、あの、貴女は奴隷よね、貴女に私を救うように命じたのは誰かしら?』
『…クリスティーナ・フェアリーテール侯爵令嬢』
『クリスティーナさんが私を救うように命じたのね、本当によかっ』
『罪人が軽々しくクリス様の名を呼ぶな!』
レイラの迫力にフローラは押し黙る。
『貴女は元貴族でしょ。国が国外追放と断じた貴女をクリス様が救うことができないことくらい分かるはずよ』
『そうね、それは理解している。じゃぁ貴女が私の前に現れた理由は何?』
『クリス様の慈悲よ。フローラ、あなたはクリス様に頭を下げた…そうよね?』
『ええ、ノルンさんの事を聞いた時、有り得ないと思ったわ。彼女とはそれ程仲は良くなかったけど、彼女が罪を犯すようなに人間でないことは私にだってわかる。
そして事件の詳細を知って、マリアーノ家の寄子の男爵が関わっていると分かったとき、父の差し金だと確信したわ。
私は父を問い詰めたけど、知らないの一点張り。聖女の選定に集中しろと言われ、それ以上話しを聞いてくれなかった。
私は正面からノルンさんと聖女の座を争うつもりでいたのに…
私は本当に申し訳ない気持ちになりノルンさんに謝りたかったの。
でもそれが叶わない状況だった。だからせめて彼女の親友であるクリスティーナさんに頭を下げたのよ』
『クリス様は、貴方のその行動から貴方の心情を正確に把握していたわ。だから貴女が選べる選択肢を増やすため私を遣わした』
『選択肢を増やす…?』
『今、貴女が選べる選択肢は2つ。1つは1人で生きていく道。もしその道を選ぶなら、私はこのまま貴女を放置して去るわ。1人で生き抜く自信があるならこちらを選びなさい。
そしてもう1つはクリス様が用意した道。私と同様に奴隷となって冒険者として生きていく道よ』
『奴隷?冒険者?』
『私はCランクの冒険者パーティ所属している。私のパーティは俗に言う奴隷パーティで、マスターと二人の奴隷で構成されている。
クリス様はマスターの実力を認めておられて、私のパーティの後ろ盾になっていただいているの。
分かりやすい言い方をするわ。マスターに体を捧げれば、冒険者としての生活は保障するということよ』
『そんな、体を捧げるなんて…』
「話は終わったか?」
オレはレイラとフローラに声をかける。
『誰!?』
フローラが警戒するように声を上げる。無理もない。いきなり盗賊に襲われたからな…いや、その盗賊を皆殺しにした張本人を警戒してるかもな。
『大体のことは話したよ。
フローラ、この人が私のマスターさ。名前はガレス。そしてその横にいるのがキャロル。もう1人の奴隷だよ』
レイラが紹介してくれたが、オレが口を開く前にキャロルが不満を漏らす。
『レイラ張り切り過ぎ。こっちに盗賊が来ると思ってマスターの周りに罠を張ったのに全部無駄になった』
『盗賊が弱すぎたのさ。私のせいじゃないよ』
「2人ともそのへんにしておけ。フローラ、オレはガレス。お前を助けにきた。お前にはオレの奴隷になってもらう」
『助けてもらったことには感謝しています。本当に…でも、急に奴隷になれと言われてもどうすればいいか…』
「レイラから聞いていると思うがオレたちはクリス様の命で動いている。だからお前を表立って救うことはできない。あくまでも"ノルン様を無実の罪に陥れたマリアーノ家の者への報復としてお前を奴隷に堕とす"という建前で動いてるわけだ。つまりお前が奴隷になることは必須だ」
『それは分かります。頭では理解できているんです』
「フローラ、お前以外のマリアーノ家の人間がどうなったか知っているか?ほとんどが処刑された。だがお前だけは"国外追放"となった。不思議に思わないか?」
『もしかしてクリスティーナさんが?』
「そうだクリス様が根回しした結果だ」
正確にはクリス様のお願いに応えた裏の人間たちのおかげだ。本当に優秀だなアイツら。
「クリス様がここまでお膳立てしたのに、フローラはこの話に乗らないのか?」
『……』
「最後にもう1つ。仮にオレの奴隷にならないとして、1人で生き抜く自信はあるか?世間知らずの元令嬢なんざ、誰にとってもカモの様なものだ。よっぽどのお人好しに奇跡的に出会わない限り、生きていけないと思うぜ」
それを聞いたレイラがボソッと独り言を言う。
『奴隷のために命を張るお人好しなら目の前にいるけどねぇ』
うるせーぞ、レイラ。
すると覚悟を決めた様にフローラが答える。
『わかりました。ガレスさん、私は貴方の奴隷になります』




