閑話 クリスティーナ恐怖の対象となる(複数視点)
(リョウスケ視点)
軍隊に従軍して戦場に向かっている。戦争は有利な状況だから軍の雰囲気は良い。そして新兵器を運んでいる兵士たちに希望が見える。
ひと昔前、そう、魔道ゴーレムがまだ稼働する前とは雲泥の差だ。皇帝陛下はオレが設計した魔道ゴーレムに理解を示してくれたが、最初から全員がそうだったわけではない。
最初は理解してくれなかった人たちもいる。特に今まで前線を支えていた兵士は懐疑的だった。
だが、魔道ゴーレムの稼働にこぎつけ、兵士たちと共に魔獣を狩り信頼関係を深めていった。
そして先日のルシオール攻略戦で魔道ゴーレムは絶対の信頼を得た。
今回の王都攻略戦でもこの電磁砲で戦果を挙げ、兵士たちの危険を少しでも減らしてみせる。
・・・・・・
我が軍は王都から2キロの距離に布陣した。魔道ゴーレムの装備は電磁砲に換装済みだ。
敵は戦略魔法を撃ってくる。戦略魔法陣の構築が始まればしばらくそこから動けなくなる。
そこを電磁砲で狙い撃つ。
「司令官殿、敵の魔法陣構築が始まったら電磁砲で狙い撃ちます。敵損害を与えれば混乱すると思いますのでその混乱に乗じて突撃をお願いします」
『心得た。敵軍に目にもの見せてやりましょうぞ!はははははは!」
士気は高い。ルシオール戦に続き勝てる可能性が高いからな。
それからすぐに敵の戦略魔法陣構築が開始される。そして全軍の兵士がザワつく。
「なんだあれは?」
敵の城壁のすぐ上に美しい女性の姿が浮かび上がる。すると周りの兵士たちの声が聞こえてくる。
『アクア様だ』、『アクア様が顕現された』、『敵はアクア様を味方につけているのか?』
そんな馬鹿な。王都のような人の多い場所に大精霊が顕現するのか?しかも水場らしい水場はないぞ。一体どういうことだ?嫌な予感がする。早々に片付けて不安を払拭しよう。
「狼狽えるな!アクア様が敵に回ろうとも我が軍の力でねじ伏せるだけだ!電磁砲を発射せよ!」
電磁砲の雷魔法を発生させる装置が光り、間をおかず凄まじい勢いで弾丸が射出される。
だが、一発目は若干逸れたのか、弾丸は的を掠め、敵の後方に着弾したようだ。大きな破壊音が聞こえてくる。
「狙いが若干逸れた。ゴーレムよ狙いを修正して敵の中心をしっかり狙え」
再度、電磁砲が発射される。しかし今度は破壊音がない。弾丸はどこへ消えた?
「何が起きた!弾丸はどこにいったのだ!?」
周りの兵士の反応はない。全員、何が起きたかわかっていないのだ。司令官が不安になったのか、話しかけてくる。
『リョウスケ殿、一体何が?まだ効果を得られていないから突撃はしていないが、どうする?』
「次の一発で見極めます。敵に着弾したら突撃してください』
『承知した』
「放て!」
ゴレームが電磁砲を放ち、一呼吸遅れて目の前に轟音が響き渡る。
次の瞬間、俺は体に激しい痛みを感じていた。
「ぐぅぁぁぁ!い、一体何が起こった!
」
電磁砲を放ったゴーレムが木っ端みじんに吹き飛んでいた。俺は近くにいたため衝撃で吹き飛ばされて意識を失いかけた…くっ右腕の感覚がないと思ったら右腕自体がない。
「この威力、被害は電磁砲のものだ。敵は戦略魔方陣構築中のはず…まさか、跳ね返されたのかっ!
くそっ!司令官殿、電磁砲は破壊された。申し訳ないが次の行動に移ってください」
『承知!全軍に告ぐ!これより全軍密集陣形で敵城に突撃する。ゴーレム50体のExモードを起動せよ!!』
50体ものゴーレムがExモードに移行する。
『全軍突撃!!』
電磁砲は破壊されたが、王都は必ず落とす!……!!!なに!?
直上に巨大な魔法陣が展開された?どういうことだ?
まさか、戦略魔法がもう完成したのか!早すぎる。
蒼白い光が降り注いだ直後、周りは白くなり意識が消失した…
・・・・・・
(皇帝ゼクト視点)
「一体どうなっている!!」
宰相向けて言い放つ。
「半日だぞ、戦いが始まったとの報告を受けてから半日も音沙汰無しとはどういうことか!」
宰相も答えに困る。
通信用の魔道具が各部隊に配備されているのに一向に連絡がなく、こちらからの呼び掛けにどの部隊も無反応なのだ。
『申し訳ございません。今現在も連絡を取ろうとしているのですが、どの部隊も応答が無く…』
くっ、応答がないということは負けたのか?有り得ない。
魔導ゴーレム100機に1万の軍隊だぞ。それが開戦直後に通信途絶だと!?絶対に有り得ん。
仮に上手く侵略できなかったり、反撃されたりしたのなら、経過報告があるはずではないかっ!それすらないとは無いとはどういうことだ!?
そこへ補給部隊から連絡があったとの報が届く。
「通信用の魔道具を持ってこい!余が直接話す!」
連絡をしてきたのは補給部隊の末端の兵士らしい。
通信魔道具に叫ぶように問いかける。
「余は皇帝ゼクトだ!!
一体何があった?戦況はどうなっておるか!」
『皇帝陛下…我が軍は、我が軍は全滅いたしました』
兵士の凍えるような声が響く。
「馬鹿な!100機のゴーレムに1万の軍勢だぞ、たった半日で全滅したというのか!?」
『半日?…ハ、ハハハ』
兵士の乾いた笑いが無情に聞こえてくる。
『失礼いたしました、半日ではありません…一発です』
「は?今なんと申した?」
『たった一発の戦略魔法で全滅したのですよ、我が軍は!』
「馬鹿な、有り得ん…敵の戦略魔法は拘束魔法であり攻撃力は持っていないはず」
皇帝の独り言のような呟きに不敬にも怒りを込めたような口調で兵士は答える。
『拘束魔法…?何を仰られているのですかっ!?首脳部は、陛下は、そのようなニセ情報を掴まされていたのですか!?あれが拘束魔法であるものか!
戦場全体がものの数十秒で氷漬けにされたのですよっ!
誰も逃げることは叶わず、悲鳴すら、悲鳴すら凍りつくようにすぐに聞こえなくなった!
私の部隊は補給部隊で戦場から離れているところに待機していたにも関わらず、その馬鹿げた攻撃範囲のせいで部隊の9割以上が氷漬けです!』
「そんな、1万の軍勢が氷漬けにされたのか…」
『ええ、我々補給部隊以外は絶望的でしょう』
「リョウスケはどうなった?電磁砲での攻撃は?」
『分かりません。敵軍が無傷であることから失敗したとおもわれます』
「では、魔導ゴーレムの突撃はどうなった?電磁砲が失敗した場合、Exモードで突撃するよう指示していたはずだ!」
『…陛下、今回の戦略魔法は威力、範囲共に馬鹿げておりましたが、この戦略魔法の最も恐ろしいのはそこではありません』
威力と範囲の他に何を驚異と感じると言うのだ?
『時間です』
「時間…だと?」
『信じられないことに戦略魔法陣構築開始から発動まで1分程度でした。魔導ゴーレムが突撃する暇などありはしませんよ』
「なっ、1分だと!!有り得ん!大体貴様は補給部隊で戦場から離れたところにいたのだろう。魔法陣の構築開始が分かるわけなかろう!」
『陛下の仰る通りです。
ですか、今回は誰にでも分かった。なぜなら、アクア様が顕現されたからですよ』
「アクアだと?」
『ええ、リンドブルム王国の魔法師団がいる城壁の上に、その神々しいお姿を確認できました。我々は、我々はアクア様を敵に回すべきではなかった…
陛下、全てお伝えしましたので通信を切り、敗残兵をまとめて帰還します。もっとも残った兵はここにいる補給部隊数名のみでしょうが…』
そこで通信は切られた…
おのれ…おのれ、おのれ!おのれ!!
「おのれ!!またしても邪魔するか、クリスティーナ・フェアリーテール!!
我が野望がたった小娘1人に打ち砕かれるのかっ!
絶対に、絶対に許さんぞぉぉぉ!!」
・・・・・・
(クリスティーナ視点)
「うぅ〜、なんだろう悪寒を感じるわ」
するとペドロ師団長がすかさずツッコむ。
『何を言ってる、目の前に氷があるのだ。悪寒などここにいる全員が感じているだろう』
戦略魔法発動から半日経った。
氷は徐々に溶けつつあるが、溶け切るまでは時間がかかりそうだ。
「いや、そういう悪寒ではなく、誰かの恨みを買ったような…」
するとミサキがすかさずツッコむ。
『目の前の1万の死体の怨念では?』
「確かに…でも誰かから強烈な恨みを買っているような…まぁいいか」
『さて、そろそろ行くか。面倒だがな』
「話が順調に進めばいいですね」
これから御前会議に会議に参加する。こちらの要望がすんなり通ればいいなぁ
・・・・・・
ニーズヘッグ王が機嫌良さそうに挨拶をする。
『皆のものよく集まってくれた。まずはリンドブルム王国魔法師団に感謝を。ペドロ殿、卿らおかげで勝利を得ることが出来た。心から感謝する』
『ありがたいお言葉をいただき、恐縮でございます』
『さて、卿らに集まってもらったのは他でもない。今後の基本方針を決めるためだ。何か意見のあるものはおるか?』
すかさずペドロ師団長が発言する
『陛下、今後のリンドブルム王国の援軍としての行動について発言をしてよろしいか?』
『うむ、聞かせてもらおう』
『今回の援軍の目的はファフニール帝国軍の侵攻から王都守ることにありました。それは我が魔法師団の戦略魔法により成し遂げられたと自負しております。目的を達成できた以上、ここにいる意味はございませんので自国に戻る所存です』
『むぅ、確かに危機は去った。そしてファフニール帝国軍に大打撃を与えた。だが、今後ファフニール帝国軍の再侵攻は無いとは限らぬのではないか?ペドロ殿はその辺りをどうお考えか?』
『陛下の仰る通り、再侵攻の可能性はございます。で、あるならば、外交によりそれを防げばよろしかろう。
今回の戦は大勝利に終わり、ファフニール帝国軍は大打撃を受けた。このタイミングであれば有利な条件で休戦協定を結ぶことが可能でしょう。これ以上リンドブルム王国は手を貸すつもりはございませんが、そのことをファフニール帝国側は知りません。もし、休戦を断るならニーズヘッグ王国、リンドブルム王国両軍を相手にすることになる、という様なことを匂わせれば、ファフニール帝国も折れるでしょう。
そうですね、私ならば…ルシオールの無条件解放、及び、ルシオールの残虐な行為に対する賠償を要求し、向こう10年くらいの不可侵条約を結ぶ…くらいでしょうか』
すると、ニーズヘッグ王国の高官たちから反論の声が上がる。
『大勝利を収めた今こそ、逆侵攻の好機ではありませか!今の勢いそのままに、ルシオールを奪還し、奴らの都市でルシオールの恨みを晴らせばよい!』
何人かがその声に同調する。
それを聞いた私はカチッときたので思わず発言してしまった。
「逆侵攻と仰っていますが、そのための戦力はどこにあるのですか?失礼ながら貴国はルシオールで多く戦力を失った。そのような余裕はないと思われます。
もし我が軍の戦略魔法をあてにしているなら考えを改めて下さい。今回はルシオールで残虐行為を行ったファフニール帝国軍を許すことができなかった。そのファフニール帝国軍に鉄鎚を下すためにあの戦略魔法を使ったのです。
逆侵攻を行い恨みを買うような行為に戦略魔法を使うことはありません。そのようなことを決してアクア様はお許しになりません」
すると会議の空気がガラリと変わる。先程まで逆侵攻と騒いでいた輩が急に大人しくなる。
『そ、そうであっあな、我々は勝利の余韻にあてられたようだ。奴らの愚行を真似することはない。』
『そうそう、アクア様の意に反することなどするはずがない』
ん〜?どうしたコイツラ?
まぁ分かってくれたならいいか。
それから会議は順調に進み外交による対応を進めることが決定された。
ニーズヘッグ王から休戦が確定するまで魔法師団に駐留して欲しいとの要望があり、しばらくここで過ごすことになりそうだ。
「先ほどの会議、私が発言したら急に空気が変わりましたね」
『クリスに逆らったら氷漬けにされるからな、怖かったのだろうよ』
「…は?しませんよっ、そんな事!」
『まぁいいではないか。そう思わせておいた方がこちらも楽だ』
「他人事だと思って…まぁいいです。すり寄ってくる貴族も少なくなりそうですし」
『あぁ、他国とはいえ力がある者にすり寄るのが貴族の性だからな。クリスには早々近寄らんだろう。ジオ殿下以外はな』
「うっ、そうでした」
しばらくこっちにいるし、ちゃんと答えを決めないとね。




