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閑話 クリスティーナ戦略魔法を放つ

王都の城壁の上で魔法師団200人は待機していた。流石王都の城壁。広い。若干横に広がるが、戦略魔法を撃つことが可能な広さはある。


城壁からファフニール帝国軍を確認していると、王都の城壁から約2キロの距離で停止した。魔道ゴーレム約100機。敵軍約10000人。

するとペドロ師団長が不敵に笑う。


『くくく、予想通りだ。今までの戦略魔法であれば1キロ~1.5キロが射程であることが一般的だ。それを踏まえ射程を少し伸ばす魔法陣も組み済み。我々の戦略魔法の射程は約2キロ。ドンピシャだ』


「でも射程ギリギリだと撃ち漏らしが発生しませんか?」


『大丈夫だ。威力上昇に伴い攻撃範囲も拡大していると言っただろう。さて敵が小細工を弄する前に始めるとするか』


防御担当のペドロ師団長が魔手甲の魔力を全開放し始める。

それに合わせて立体映像担当の私がアクア様の立体映像を映し出す。

魔法陣構築担当の蜘蛛たちが静かに、かつ、高速に魔法陣を構築し始める。

戦略魔法の魔力源担当の魔法師団200人を代表するようにミサキが叫ぶ。


『62秒でケリをつける!!』


うん???よく分からないけど彼女のいた世界の開始の掛け声かしら?


後ろの王都の方では唸るような歓声が上がる。


『アクア様なのか!?』、『なんて神々しいお姿なの!』『大精霊アクア様、どうか私たちをお救いください!』


などなど、王都の住民の声が聞こえてくる。うんうん、そういう声を聞くと盛ったかいがあったってもんだよ。

直後、ペドロ師団長のスキルが発動する。


『ディストルシオン!』


…ん~?何も起きない?


「ペドロ師団長、何も起きませんが?」


『だから地味だと言っただろう。攻撃されない限りスキルの存在すら分からんスキルなのだ』


蜘蛛たちが粛々と魔法陣を構築していく中、敵軍が一瞬光ったように見えた次の瞬間、


 ヒュン!!


と風を切る音がして何かが通り過ぎた。その直後、


 ドゴォォォォォン!!

 

後方から聞こえる破壊音。一体何が起こったの!?

幸いにも通り過ぎた何かは王都の街中には落ちず、私たちがいる王都の城壁から街の上を通り過ぎ、逆側の城壁にブチ当たった様だ。

城壁はかなりの損害だ。マズいわ、今のは外れたけどアレが命中したら魔法陣構築どころではない。


「ペドロ師団長!!今の攻撃はヤバ」


『狼狽えるな!』


私の言葉はペドロ師団長に遮られる。


『安心しろ、攻撃は外れたのではない。スキルで防いだのだ。我がスキル、ディストルシオンの効果は…』


再び敵軍から光が見え、何かが飛来する!

しかし、今度は後方ではなく、上方に飛んで行った。まるで不自然に軌道を曲げられたかように。


『歪曲。それが我がスキルの効果だ。どんな攻撃でも曲げることができる。決して我々に攻撃は届かない』


それは凄いわね。絶対防御と自慢するだけのことはあるわ。

するとミサキが叫ぶ


『最悪ですね。恐らく今の攻撃は私たちの前世で言うところの電磁砲(レールガン)というやつです。攻撃前に少し光るのは雷魔法を使用しているからだと思います。きっと敵軍にも転生者がいますね。

確かに強力な兵器ではありますが…あり得ない。このファンタジーの世界でロマンがないです!剣と魔法の世界であんな近代兵器を作り出すとか美しくありません。壊してしまいましょう』


「ペドロ師団長…彼女の考えはロマンに集約されるのですか?」


『まぁ、ウチは変わり者が多い。ああいう人間の集まりのようなものだ。

ミサキ!壊すと言ってもじきに戦略魔法が完成する。壊す必要はない。それにそもそも壊す方法がない』


『壊す方法はあります。ペドロ師団長のスキル効果が歪曲というなら、空間を180度曲げてください』


『…やる必要性はないが、面白そうだからやってみよう』


そんなノリでいいのか魔法師団。まぁ確かに面白そうではあるけれど。


三度、敵軍から光が見え、飛んできた弾丸は勢いそのまま敵軍に返っていった。次の瞬間


ドゴォォォォォン!!


敵軍中央に着弾し、もの凄い破壊音と共に巻き込まれた兵士たちの悲鳴が木霊する。自分たちの兵器の攻撃だから自業自得よね。

阿鼻叫喚の敵軍だが、さすがに電磁砲での攻撃は無駄と判断したのか、全軍密集陣形で突撃してきた。

先陣の魔道ゴーレムはExモードのようだ。しかし、時、既に遅し。戦略魔法陣の構築が完了した。完了と同時に敵軍の真上に超巨大な魔法陣が出現する。


私も悪乗りし、アクア様が魔法を放つかのように立体映像を動かす。

空に展開された超巨大な魔法陣。その魔法陣の中心から一筋の蒼白い光が降り注いだと思った刹那、そこを中心に色が無くなり始めたー違う、白く染まり始めた、そしてそれは一気に広がった。そこにいた全ての存在の動きが止まる。動きが止まった人から、ゴーレムから徐々に何かが生え始める…氷の棘、それは時を追うに連れて大きくなる氷の茨になり、氷の林になり、氷の森となり、戦場全体が氷の森に覆われた。

戦略魔法「コキュートス」。この冷酷かつ、無慈悲な魔法よって全滅したファフニール軍は、アクア様の怒りに触れたものの末路として、語り継がれることになる。


・・・・・・


「……ペドロ師団長。攻撃範囲も威力も想像の遥か上をいってますが、これ、予定通りなんですか?」


『ちょっとやり過ぎたな。ここにいても冷える』


「これが"ちょっと"ですか…はぁ、王都の民から寒いと苦情がきそうですね」


『仕方なかろう。ニーズヘッグ王国はルシオールで戦力を失い過ぎた。だからこそ敵軍を氷漬けにする必要があったのだ。氷が溶ければ魔導ゴーレムを無傷で鹵獲出来る。魔導ゴーレムの設定方法はジョーイを吐かせて把握済みだ。ニーズヘッグ王国にゴーレムを運用させれば牽制になる。そう簡単に戦争にはならんだろうよ』


『しかし、良かったんですか?あんなことして』


ミサキが私に質問してくる。あんなことって、どんなこと?


『アクア様の立体映像を動かしてあたかもアクア様が魔法を放ったように見せたことですよ。他国からしたら、アクア様の加護を授かっているクリスティーナ様あってこその戦略魔法と思われたでしょうね。

ファフニール帝国からは生涯恨まれるのではないですか』


しまった。悪乗りしすぎたわ…


後から知ったことだが、この時、ニーズヘッグ王も恐怖を感じていたそうで、ジオ殿下に必ず口説き落とせと勅命を下すほどだったらしい。

余計ことはするものじゃないわね…

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