閑話 クリスティーナ アクア様を盛る(複数視点)
(皇帝ゼクト視点)
「リンドブルム王国の連中め、厄介な魔法を開発したようだな。まさか新たな戦略魔法を開発していたとは。
しかも水の大精霊アクアの力を利用する拘束魔法だと?前例がなく従来の防御戦略魔法が有効かどうかすら分からぬ。魔道ゴーレムさえも拘束できると豪語しているようだが、どう対処すべきか…」
ニーズヘッグ王国はルシオールを落とした後、かなりの混乱がみられ、王都とて間者を送り込むことは難しくなかった。
そのためリンドブルム王国の援軍が到着したことはすぐ把握できた。
そして援軍を率いるペドロがニーズヘッグ王国の無能どもに聞かせた戦略魔法の情報も筒抜けと言っていいレベルだった。
問題はこの戦略魔法だ。ここまで情報が筒抜けだとブラフの可能性もある。だが、それでは魔法師団のみで援軍にきたという事実の説明がつかない。
リンドブルム王国はルシオールを短期間で落とした我が軍に対抗するための戦力は魔法師団のみで十分と判断したのだ。
その判断をクリスティーナ・フェアリーテールの存在が後押ししている。アクアの加護を授かり、サリアを守護した英雄を捨て駒に使うはずがないのだ。
そう考えると戦略魔法は本物か…いや、もしくは別の対抗手段が存在するか。何にせよ隠している何かがあるはずだ。
『陛下、ご報告申し上げます。以前から調略を仕掛けているニーズヘッグ王国の貴族から重要な情報を入手しました』
そう言いながら宰相が入室してくる。
「何?どのような情報か?申せ」
『はい、今回リンドブルム王国が開発した戦略魔法には弱点があるとのことでございます。
この戦略魔法は珍しく広範囲に有効な魔法らしいのですが、逆に密集した集団に対しては効果が弱くなるようです』
「どういうことか?なぜそうなる?」
『はい、拘束のために水をが使われるのは既に分かっておりますが、拘束するためには一定量の水が不可欠。
拘束対象の数が多いと、それだけ水が分散してしまい、拘束する力が激減するようです』
「仮に密集して対抗したとしてまとめて拘束される危険性はないか?」
『何でもこの戦略魔法は対魔道ゴーレムを想定して開発されたものであり、あくまでゴーレムを個々に拘束することを前提にしているそうです。
ゆえに相手が集団であっても個々に拘束するという動きをするとのことです』
「なるほどな。密集か…全軍で密集して一気に王都を落としにかかるという手段が有効か?
しかし、その情報は信用できるのか?密集させて何らかの方法で一網打尽する気ではないか?」
『魔法師団を率いるペドロはこの弱点だけは慎重にかつ、特定の人間にしか伝わらぬように指示を出していたようで、ニーズヘッグ王国でも一握りの人間しか知らぬ情報とのことでした。信憑性は高いかと。
なお、この情報を流した貴族から"戦後の報酬"を上乗せして欲しいとの懇願も合わせてきております』
「…主だった者を集めよ。王都攻略の方針を決める」
・・・・・・
我がファフニール帝国の前線に出ていない高級武官や高位貴族が集められ、宰相から現在集められた情報が伝えられる。
「我々は有利な状況にあるが、リンドブルム王国には煮え湯を飲まされておる。奴らが援軍に来ている以上、油断できん。王都をどのように攻めるのが有効か卿らの意見を聞きたい」
様々な意見が出た。
調略で得た情報を信じ、密集陣形で全軍による突撃を敢行するとか、情報が揃い過ぎていることから戦略魔法はブラフの可能性が高いと判断し、分散して攻めるべきとか、こちらは防御戦略魔法を展開し、まずは敵の戦略魔法を確認すべきとか…たがどの意見も余を納得させることは出来ないものであった。
そんな中、リョウスケが発言する。
『敵の切り札が戦略魔法なら戦略魔法の魔法陣構築中に攻撃して戦略魔法を撃てないようにすれば良いのではないでしょうか』
「それは道理だが、敵も馬鹿ではあるまい。防御手段を講じているであろう」
『敵の防御力以上の攻撃をすれば良いだけです。魔導ゴーレムの追加装備として電磁砲と言う兵器を開発中です。超長距離から凄まじい威力の攻撃が可能な兵器なのですが、ようやく試作機が完成しました。実戦で試したいと思いますので私自身の出陣許可をいただきたい』
リョウスケがこの様な行動に出る時は自信があるときだ。魔導ゴーレムの時もそうだった。
「よかろう。電磁砲とやらでの攻撃、及び、リョウスケの出陣を許可する。見事戦果を挙げてみせよ」
ファフニール帝国帝都から戦場まで電磁砲とやらの試作機を運ぶとすれば10日以上かかるだろう。敵に時間を与えてしまうが仕方ない。確実な勝利のためだからな。
もし、電磁砲による戦果が得られない場合は全軍密集陣形で突撃する。その際、最初からエクストラモードを起動させ、戦略魔法陣の構築が終わる前に城門を突破する。ゴーレムの半数50機程度Exモードを起動させれば、短時間での城門突破も可能であろう。
これで戦果が得られない場合は一旦後退する。まぁ、リョウスケは自信がありそうだからな。後退などという事態にはならんだろう。
リンドブルム王国軍に大精霊がついていようが力でねじ伏せてくれるわ。
・・・・・・
(クリスティーナ視点)
「おー、これは凄いわ。リンドブルム王国軍に大精霊がついてくれているように見えるわね」
『そう思ってくれますか〜、メッチャ嬉しいです』
そう答えたのは転生者の研究員ミサキだ。彼女曰く魔法万能で立体映像にはもってこいらしい。今は部屋の中で立体映像を映し、アクア様の姿を調整していた。
私の記憶のアクア様と、映し出されるアクア様、全く同じでは芸がないので、より美しく、より神々しく見えるように試行錯誤していた。
『しかし、見た目だけのためによくそれだけ時間をかけるものだな』
そんなペドロ師団長の嫌味にもミサキは笑顔で反論する。
『分かってないっすねー、こういうのはロマンなんすよ。例え実益がなくても理想を追求したくなるものなのです!』
そんな実益がないことをしながらなファフニール軍が動くのを待っていたが、思いの外長く待つことになった。
そして約2週間後、遂にファフニール軍が王都に向け進軍を開始した。




