閑話 クリスティーナ ペドロの策にハマる
ニーズヘッグ王に先程御前会議でお伝えしたのはニセの戦略魔法であると伝えようとしたが、会議が終わった直後に再度面会のお願いをするのも不自然なので、ジオ殿下が私たちに会いに来るのを待ち、ジオ殿下経由でお伝えすることにした。
『今までの様子をみる限り、ジオ殿下なら放っておいてもクリスを目当てに会いに来るだろう。その時に真実を話そう』
うーん、やっぱりそう思うかー。他国の王族だし態度をはっきりさせないと無礼だよね。でも今は戦争中で余計なことを考えてる暇なんてないし…
するとジオ殿下の遣いの者が現れた。ジオ殿下からの夕食のお誘いだ。私が答えようとするとペドロ師団長が勝手に答える。
『夕食のお誘いはとてもありがたいが、私は戦いの準備で忙しいから辞退させてもらおう。もちろんクリスティーナ嬢はそのお誘いをお受けするので安心して欲しい。
それからクリスティーナ嬢から殿下にとても大切な話がある。可能であれば2人きりで話したいことがあるので取り計らってもらえないだろうか』
………は?余りの唐突な話に思考が停止していた。その間に遣いの者が戻っていった。
「ちょっっっとぉぉぉ!
何しちゃてくれてるんですかぁぁぁ!!」
『これも情報漏洩を防ぐためだ。本当の戦略魔法について私と殿下が密談してみろ。もし敵に嗅ぎつけられたりしたら何かあると思われるだろ?
だか、クリスと殿下の密談なら敵も色恋沙汰と勘違いしてくれるだろうさ』
「敵より前に、本人に勘違いされるに決まってるでしょぉぉぉ!!」
・・・・・・
結局、一度承諾したお誘いを断るのは失礼になるということでジオ殿下と一緒に夕食を食べている。あぁ、何故かしら、ジオ殿下の機嫌がとてもイイわ。
『?クリス、右手の甲が少し赤いがどうしたんだい?』
「少しぶつけてしまいまして…大したことはないので大丈夫です」
本当はペドロ師団長を殴ったからだけど、とてもそんな事は言えない。
食事が終わりそうになり、ジオ殿下から質問される。
『2人切りで会いたいと聞いているが、私の部屋で問題ないだろうか?』
「えっと…ジオ様の執務室などがあればそちらで…あくまでお話をしたいので」
『そ、そうか、では執務室に行こう』
それから執務室に向かう途中、ジオ殿下は独り言のように『焦ってはダメだ』とか、『ちゃんと段階を踏まないと』と呟いていた。心の声が漏れてますわ殿下。
そして執務室で2人切りになれたので、殿下が暴走しない様に本題から切り出す。
「ジオ様へのお話とは他でもありません、ファフニール軍に放つ戦略魔法のことです」
『戦略魔法…そ、そうか、そちらの話か』
あぁ、あからさまに残念そうだわ。
「御前会議でお話した戦略魔法の内容は全て嘘でございます」
『……どういうことか、全て話してくれるのだろう?』
「はい、もちろんでございます。実は…」
・・・・・・
『なるほどな。
情報が漏れることを踏まえ、ニセの情報を流したと。そしてこれからニセの弱点についても、自然な形で情報が漏れるように動いて欲しいというわけか…
そして!今言った重要な情報を自然な形で私に伝えるため、クリスが私に2人切りで会いたいと言えば、私が喜んでそれに乗ってくるだろうというペドロ師団長の策に私は完全ハマってしまってしまったのだなっ!自分が情けない!』
いやいや、何故最後が一番感情がこもっているのですか?
確かにペドロ師団長は悪辣でしたけど。
「ジオ様へに対する無礼、誠に申し訳ございません。ペドロ師団長は私がキッチリしめておきました」
ジオ殿下が不意に私の右手を取り、優しく撫でる。
え?え?急に何?どうしたの?
『しめておいた…か、だからこの右手の甲が赤かったのだな』
あ、バレた。
「あははは、その、ペドロ師団長が勝手に話を進めたのが悪いんですよっ!きゃっ!」
撫でられていた右手を引っ張られ、抱きしめられた。
「ジ、ジオ様…」
『クリス、ペドロ師団長に乗せられはしたが、私が君を想う気持ちは本物だよ』
「あ、はい、その、えっと…」
どうしよう、なんて言おう、言葉が出ない。私ってこんなポンコツだったのぉ〜
『…困らせてしまったね。決戦前に非常識だった』
そう言って私を抱擁から解放する。
『もし、ファフニール帝国との戦いに勝利し、生き残っていたらもう一度、君に想いを告げるよ。その時に答えを聞かせてくれるかい』
「はい…分かりました」
『その時は今の続きをさせてくれると嬉しいかな』
「そ、それは約束しかねます」
『ハハハ、残念だ』
・・・・・・
魔法師団が泊まる宿舎に戻ってきた。
『なんだ、朝まで帰ってこないと思っていたのだかな』
「もう一度、殴られたいのですか、ペドロ師団長?」
『これ以上からかうのは止めておこう。何か共有する情報はあるか?』
「殿下の方でも間者や調略は警戒しているそうです。ですから裏切りそうな輩には目星がついているとのことでした。
その裏切りそうな輩に、ニセ戦略魔法の弱点が伝わるように上手く動いてくれるそうですよ」
『ほう、では上手くいきそうだな』
「あと、失念してましたが、戦略魔法陣構築中の防御はどうするのですか?ゴーレムを作るような連中ですよ。戦略魔法が切り札と分かったら長距離攻撃用の武器とか用意する可能性があるのでは?」
『ああ、失念していた。
その可能性を考えるのは不要だと、クリスに伝えることを失念していたよ』
「何か策があるのですね?」
『策と言うほどのものではない。ソフィアとミゲルの派生スキルは見ただろう。当然ながら私もLv10の派生スキルを習得したが見せていない』
「そういえば、そうでしたね」
『見せていないのは別に出し惜しみしたわけではない。私の派生スキルは防御のスキルだったのだよ。
如何なる攻撃をも防ぐ絶対防御。戦略魔法陣構築時間の1分程度なら私の魔力は余裕でもつ。安心したまえ』
「へぇ~凄い自信ですね。Lv10の派生スキル、見れるのを楽しみしてます」
『…言っておくが、ソフィアやミゲルの様に派手ではないからな。期待するなよ
…あぁ、そうそう、この前アクア様の立体映像の話をしただろう。転生者の研究員に話したら是非やりたいと言っていた。明日にでも会って欲しい』
「分かりました…
策に関しては我々の手を離れましたね。後は敵に情報が伝わってから、こちらの予想通り動いてくれるか…ですね」
『うむ、そうだな。成功するにしても、失敗するにしても、戦略魔法を派手に撃てるのだ。今から楽しみで仕方ない』
ブレないなぁ、この人は。
私は戦争のこと…だけでなく戦いの後のことも考えないとなぁ




