閑話 クリスティーナ王族に物申す
我が国とニーズヘッグ王国の国境に広がるゴルベヤの森。かつてアクア様が顕現した泉を中心に学園都市が広がっている。都市の名はサリア。私がこれから3ヶ月間過ごす街だ。
「思っていた以上に開けていて綺麗な街並みね」
『他国の貴族が留学に来ることがあるので、ある程度見栄えをよくするため定期的に改装、改築など都市整備がなされているそうですよ』
と、ソフィア団長が説明してくれる。今回の護衛はソフィア団長を中心に第3騎士団のメンバーが6名、侯爵家からはサンドラとナターシャ、そしてオットーだ。影の皆さんは把握していないがオットー曰く王族以上とのこと。表の護衛を少なくしている分、裏を多くしたのだろう。
学校に着いた。サリア精霊魔法大学。街の中心ではなく郊外と言えるところに建てられている。神聖な泉のほとりに大学があるのだ。その近くに街を作るわけにはいかなかったのだろう。馬車を降りる…先程から感じてはいたけど、さすが神聖な場所、いるなぁ。
すると壮年の男性が出迎えてくれた。
『お初にお目にかかります。私は学長のバルト・オルティスと申します。この度は私共のお願いを聞き入れてくださり誠にありがとうございます』
『気になさらないでください、学長、こちらのサリア精霊魔法大学には我がフェアリーテール侯爵家も何度かお世話になっていると聞き及んでおります。私は運良くアクア様の加護を授かることができましたが、将来我が侯爵家の者がお世話になることもあるかもしれません。私としても良き関係を継続できればと思っております』
とまぁ、社交辞令の応酬が一通り終わった後、宿舎に案内された。学内を周るのは明日からで今日はもう休んでくださいとのことだった。ソフィア団長とサンドラは警備の相談で学長に会いに行っている。今、部屋にいるのはナターシャと第3騎士団の女騎士だ。ナターシャは街にいてさっき帰ってきた。
『基本的にクリスは歓迎されてるわよ』
街の様子と私のことを聞いておいてもらった。
『こちらの認識通り、今回の留学はアクア様の加護を授かったクリスを呼ぶ事で魔法大学としての箔をつける意味合いはあるわ。でもそれ以上にキッカケが欲しいみたいよ』
「キッカケ?」
『10年近く精霊の加護を授かった者が出ていないらしいのよ。アクア様の加護を授かったクリスがいれば精霊が寄ってくるとでも思ってるのかしらね?』
「はぁ、そんな話が街で聞けるってことは、大学関係者ですら気付いてないってことよね」
『何に?』
「ここの泉に精霊がいるわ。恐らく複数ね」
『そうなの?じゃぁ何で10年近くも加護を授かれないんだろう?』
「分からない。明日から探ってみるわ」
・・・・・・
翌日、バルト学長に校内を案内してもらうことになった
『本日は校内の主な施設をご案内いたします。案内には現生徒会長ジオ・ニーズヘッグ殿下も同行します』
ジオ殿下もご一緒ですか。ニーズヘッグ王国第3王子ジオ殿下。王立魔法大学ではなく、こちらに通っているとは聞いていた。殿下の評判はそれなりに良い…はずなのだが、なんだろう?男性として非常に整った顔をしているし、体型も細く問題ない。ただ、身なりがとても悪いわ。私が軽んじられてるのかしら?髪はボサボサ、制服はヨレヨレ。おまけに少し臭いわね。
『えー、少々服装が乱れておりますが、殿下のいつも通りの姿ですので気しないでいただければ幸いです』
「え、あぁはい。大丈夫です』
するとジオ殿下が口を開く
『外見なんてどうでもいいじゃないですか。勉強するのに服装は関係ありません。精霊信仰にも服装は関係ありません。ようは心の在り様ですよ』
言いたいことは分かります。概ね賛成です。ですけど精霊の加護を授かるのに魅力のステータスが関係してるのよねー
10年近く精霊の加護を授かった者が出ていないって外見を気にしていない人が多かったからじゃないかしら?
あり得るなぁ。魅力が高い貴族は王立魔法大学に通うでしょうし、こちらに通っている殿下がこの有様ではねぇ
いくつか施設を回った後、過去にアクア様が顕現された泉を案内された。それなりの大きさだ。すると殿下が質問してきた。
『いかがですか?この泉は我々の象徴です。特に気を使って管理しております。貴女がアクア様の加護を授かった場所と比べてどうですか?』
どちらも精霊にとっては神聖な場所であることには変わりない。比べるのはどうかと思ったが、私は正直に答える。
「私が加護を授かった場所よりこちらの方がよく管理されており、神聖と言えるでしょう』
『…お世辞ですか?こちらの方が神聖であるならば、何故精霊は姿を現さないのか、いや、精霊自体がこの泉にはいないのかっ!納得のいく説明をしてほしいものですね』
はぁ〜、どうやら精霊の加護を授けてもらえないどころか、精霊自体に会えないことを相当気にしているみたいね。気を遣うのも馬鹿馬鹿しいから全部正直に答えてあげるわよ。
「殿下の身なりが悪いので精霊は姿を現さないのですよ。水の精霊は清らかな水を好みます。綺麗好きなのですよ。そんな精霊に今の殿下の装いが好まれるとでもお思いですか?」
『うっ、たかが装い一つで変わるものか!』
「信じていただけないのですね」
私は服のまま、膝がつかるぐらいまで泉に入る。水の大精霊アクア様の加護の効果で、私は水場であれば精霊との交信が可能だ。この泉に住んでいる精霊に姿を現してもらうように呼び掛ける。
すると私の両脇の水に波紋が広がり、次第に盛り上がっていく。水が少女の姿を形取り2体の精霊が現れる。
『そ、そんな馬鹿な、10年近く精霊は姿を現していなかったのに』
と学長が驚く。
『アクア様の加護を持っていればこんなにあっさりと姿を現してくれるのか』
と殿下が仰る。いやいや、殿下が不潔なのが原因だってさっき伝えたでしょ。
ん?おや、この2体は…
「お久しぶりにございます。アクア様とお会いして以来ですね。あの時はアクア様の護衛をなされていたようですが、こちらの泉に住まわれているのですか」
『あら、私たちのことも覚えていてくれたのね、嬉しいわ。そうよ、ここの泉は良く管理されていて常に神聖な状態に保たれているから100年以上はこの泉に住んでいるわよ』
するとジオ殿下が精霊達に質問をする。
『精霊のお二方に質問させていただきたい。今のお話ですと100年以上この泉に住んでおいでなのに、ここ10年近く姿すら現さなかった理由は何ですか?』
『あら、あなたのことは私たちはずっと見てきました。私たち精霊に祈りを捧げ、感謝し、泉が神聖であるように献身的に管理していただいてましたね。本来であれば喜んであなたに加護を授けたかったのですが、その~、装いが少々…』
ですよねー。精霊たちが言い難くそうにしてたので私がはっきり言う。
「はっきり殿下が不潔だからと仰られても問題ありませんよ。これでお分かりになったでしょう。華美である必要はありませんが、人として失礼がないレベルで身なりを整える要が必あると」
するとジオ殿下が頭を下げる。王族がみだりに頭を下げてはいけないと思うのだが…
『クリスティーナ嬢、私が間違っておりました。先程の無礼な発言、お許しいただけるろうか』
「私は特に気にしておりません。ですので殿下もお気になさらないでください」
『ありがとう』
・・・・・・
翌日、身なりを整えたジオ殿下は無事に精霊の加護を授かった。しかも昨日の2体から。2体から同時に加護を授かるなんて初めて聞いたわ。王族の面目躍如と言ったところかしら。
他にも別の場所で身なりを整えた生徒が1名、風の精霊の加護を授かったらしい。これで精霊魔法大学に入学を希望する人が増えるかもね。
そんな事があったので私の留学はジオ殿下はじめ、多くの人に好意的に受け入れられ、留学生活はとても順調だった。
「留学はとても順調ね。ソフィア団長、1週間過ぎたけど護衛の方はどう?問題ないかしら」
『全く問題ありません。これまで暗殺を2回撃退しました』
「…ぇ゙!?」




