第66話 変異種の正体
さて、麻痺毒をたっぷり塗った矢が当たったからな動けなくなっているはずだ。
跳弾で射抜かれた太腿の痛みに耐えながら歩いて距離を詰める ー いた。こちらに気付いた様で必死に動こうとしているように見える。なぜなら奴は勝負を諦めてないからだ。その理由はわかる。ギルマスから聞いた話だと、馬車の襲ったのは6〜7人いると言っていた。奴しか襲ってこなかったということは、仲間のケンタウロスがいるということだ。…隠れてはいるがオレの不意打ち耐性の範囲内いるな。不意打ち耐性の射程が大分伸びた。どうやらさっきの死闘でスキルレベルがあがったようだ。
他の6体はまとまってるな。四方から囲めばまだ勝機はあったものの…こちらの様子をうかがっているようだが、連中の攻撃を待つまでもない。まとまっているなら一網打尽にするだけだ…しばらくすと小さな悲鳴が聞こえた。終わったようだな。
オレは、オレを狙おうとしてるケンタウロスたちを、後からヤエに襲わせた。まとまっていたので、全員蜘蛛の巣で捕らえてもらったのだ。
蜘蛛の巣に捕らえられているケンタウロスには子供のケンタウロスもいた。というか雌もいる?家族か?すると信じられない事が起こる。
『おい…頼む。家族は見逃してくれ』
喋った?…魔物って人語を話せるのか?これも変異種だからだろうか。思えばヤエはオレの言うことを理解して動いている。口があれば喋れても不思議ではないか。
「いくつか聞くが、最近この街道で馬車を襲っているのはお前だな?」
『そうだ…』
ケンタウロスの変異種曰く、元々大きな群れにいたらしいが、変異種の特異性が仇となり群れから奇異の目で見られていたという。腕に自信があった変異種は1人で生きていこうと群れから離れることを決意する。1人でも生き抜く自信があったそうだ。あの強さなら頷ける。
だが、いざ群れから抜け出そうとすると一体の雌がついてきた。無下に扱うわけもいかず、一緒に旅をすることに。旅の過程で伴侶として扱うようになり、子を成し、それを繰り返し今に至るらしいが、子供の数が多くなってきて食料を確保するのために安易に馬車を襲ってしまったらしい。一箇所に留まるのはよくないと分かっていたが、1番下の子供は生まれたばかりで長距離を移動できないない状態。もう少し育つまで待ってから移動しようと考えていたらしいが、先に追っ手がかかったと言うわけだ。まぁ、正確に言えばオレは追っ手ではないが。
「すまないが、お前は馬車を襲った時に冒険者を含め皆殺しにしてるだろう?同業者を殺したやつから許しを請われても、はいそうそうですかと許すわけにはいかんのよ」
『そうか、そうたな。せっかく転生したからもう少しあ楽しみたかったのだかな…』
「なに?今、転生と言ったか?お前、転生者か?」
『ああ、転生者だ。この世界では転生者は沢山いるのか?』
「ああ、いるぞ。冒険者の1割くらいは転生者だ。かく言うオレも転生者だしな」
『そうなのか?…転生者の好で何とかならんものかな?』
「今回の依頼はギルドマスター直々の依頼だしな、恐らくどうにもならんだろう。しかし、魔物の転生者なんて初めて会ったぞ…」
『ちょっっっとまったぁぁぁ!!』
うおっ!!急に頭に響く声!こんなことするやつは1人しかいねぇ。
『神託よ』
「サクヤ、クソうるせえんだよっ!一度くらい神託っぽい神託をしろよ!」
『あり得ないわ』
「何が?」
『魔物の転生者よ』
「そうなのか?」
『ええ、神様や天使は人間の魂を選び転生させるのよ。転生先が亜人間なら問題ないけど、魔物だと姿形が違いすぎるから転生させてはいけないの。それに最近、天界で魂の数が合わないという噂が流れているわ。何者かがシステムに介入してる可能性がある。とりあえずこっちで動いてみるから、悪いけどそいつ証拠?証人?として生かしておいてくれる?よろしくね』
「わかったよサクヤ。生かす方向で動いてみる」
・・・・・・
『おい人間、急に独り言を言い出してどうした?』
「ああ、すまん。神託があってな。喜べ、神様がお前を生かすように動けとさ」
『本当か?家族も一緒に生き残れるのか?』
「正直まだ分からんが交渉はしてやるよ。でもダメだったときは恨むなよ」
『ああ、少しでも可能性があるなら頼む』
オレはケンタウロスと語りながらレイラの救援を待つのであった。




