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第64話 弓 vs 弓

弓勝負か。先ずは…

「ヤエ、射程上昇の魔法陣を5つに命中率上昇の魔法陣を1つだ!」


ヤエが指示通り魔法陣を描く。


「ウィンドアロー!」


放った矢はケンタウロスの手前の地面に突き刺さる。やはり射程が足りない。若干軌道が山なりになるが、狙いを少し上に向けて同じ魔法陣で矢を放つ。


「ウィンドアロー…っうおっ!危ねえ」


矢を放つタイミングを狙ってきやがった。

こっちの矢は軌道が少し山なりになったが、命中率上昇の魔法陣の効果でケンタウロスを追尾する…が、ダメか!命中率上昇の魔法陣1つ程度では効果が薄いし、山なりの軌道では相手は躱しやすい。

どうする?この距離では当てられる気がしない。距離を詰めて射程上昇の魔法陣を他の魔法陣に回せるようにするか、もしくは当たらなくても効果がある矢を放つか…ダンを殺したときの音響の矢ならどうだ?いや、あれはダンが剣で矢を弾くほどの至近だったから効果があったんだ。この状況では難しい。距離を詰めるのが現実的か。

ん??珍しく奴が(ケンタウロス)的を外したな。


 ガキィィィン! グサッ!!


「な!ぐぁぁぁっ!!」


オレの太腿に矢が突き刺さった!斜め後ろを見ると、岩があった。まさか、跳弾か!


そうか、そういうことか。奴は上位種なんかじゃない、変異種だ!ミレーヌさんから聞いたことがある。ダンジョンボスで極々稀に通常とは違う強化されたボスが出現することがある。そいつらは魔法もスキルも使い、知能も高い。そういう魔物のことを変異種と言うとか言っていた。そして矢を受けてみて分かった。この矢は魔力を帯びている。オレと同じ魔弓だ。さっきの跳弾もスキルか何かだ。跳弾なんて狙ってできるもんじゃない。しかしマズイぞ。まともに動けない。


するとヤエが自発的に動く。奴とオレの間に幾重にも蜘蛛の巣を張り始めた。今までの矢の威力からして蜘蛛の巣では防ぎきれない気がするが…ヤエがオレに向けて何かジェスチャーしてる。足を治療しろってことか?

分かったよ、ヤエを信じて治療する。

矢はご丁寧に返しが付いてる。付いてる以上、引き抜けない。だから押すしかない。


「ぐぅぅ~、いてぇ!」


矢が太腿を貫いた状態になったので鏃を切り落とし、矢を抜く。クソ痛てえな!!

不意打ち耐性に反応!?しかし矢はオレの横を通り過ぎた。そうか、ヤエの蜘蛛の巣では奴の矢を絡め取ることはできない。だからヤエは矢が巣にかかった瞬間、巣全体を動かして矢の軌道をずらしてくれたのか。ありがたい。

傷口に中級ポーションを振りかけ、さらに飲む。出血は止まったが痛みが全く抜けない。こんな足の状態では距離を詰めるのは難しいと言わざるを得ん。


「ヤエ、もう大丈夫だ。戻れ」


ヤエがオレの方に飛んできた直後、ヤエのいた場所が射抜かれる。危ねぇ、数秒遅れてたらヤエが死んでたぞ。運が良いのか悪いのか…さてどうする。ヤエのおかげでさっきよりマシになったが、歩くのがやっとの状態だ。可能性があるとすれば…魔石の矢か。

鏃を魔石に変えた矢は5本。射程上昇の魔法陣6つに魔弓の威力を魔石で上げるのが一番単純だが、一度躱されたら、次から安全に大きく躱されるだけだろう。

若干軌道が山なりになるが、射程上昇の魔法陣5つに、魔石に特殊効果を付与する魔法陣で矢を放つか…!!くっ…奴の矢がカスり頬から血が垂れる。

恐らくマトモな方法では勝てない。それならこの方法に賭けてみるか!

ヤエに射程上昇の魔法陣5つに特殊魔法陣1つを描いてもらい矢を放つ。


「ウィンドアロー!」


若干山なりの軌道を描き、矢は地面に刺さる。

それから2本目、3本目、4本目と放つが当たる気配は全くない。5本目をつがえたとろで膝が落ちる。


『しまった!』


奴の矢が迫るが、ヤエが咄嗟に近くの木に糸を絡ませて、オレを抱えながら糸を引き寄せる様に移動し何とか回避できた。


「助かったぜヤエ、さぁ5本目だ、ウィンドアロー!!」


5本目も当たることなく地面突き刺さる…

ふぅ~、次で最後の攻撃だ。麻痺毒を鏃に塗り矢をつがえる。鷹の目で奴を見ると丁度こっちを狙っていた…が急にキョロキョロし始めた。異変に気付いたな。奴は今、5本放った魔石の矢の中心にいる。


 ー 時限式魔法陣発動 ー


 ドゴォォォォォン!!


10秒ごとに一斉に爆発する様に調整した時限式魔法陣を組んだ矢を放った。奴は変異種で身体能力も高いはず。四方からの爆発のダメージを最小限に抑えるために取る行動は…上に逃げるしかないよなぁ!!


「空中なら躱せまい、ウィンドアロー!!」


矢はケンタウロスに向け真っ直ぐ飛び、防御姿勢を取っていたケンタウロスの腕に突き刺さったのだった。

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