第62話 Sランク冒険者へ(ミレーヌside)
私はミレーヌ。ダンジョン都市ローナのAランク冒険者だ。自分で言うのも難だが、奴隷パーティを組んでいるものの私の存在はギルドへの貢献や治安に一役買っているらしく、周りから評価は良く認められているといっていい。
だが、冒険者としては昔ほど情熱を持てないでいる。昔は誰も手に入れることができない財宝を求め、誰も見たことがない秘境を求め命をかけて冒険した。
そして、ダンジョン踏破を目標にこのローナに辿り着いた。
3年程でダンジョンは踏破出来たが、3年もの間、都市で暮らすという行為は、旅による苦難乗り越えて何かを手に入れるという情熱を失わせていた。
私はダンジョン攻略で得た金があれば何不自由なく暮らせる安定した生活の方に魅力を感じローナに居続けることを選んだのだ。自分でも分かっているのだ。冒険者という肩書きは持っているが昔ほどの情熱はなく、真の意味で冒険者たり得ていないことを。
ローナのダンジョンを踏破してからの数年は、そんな思いを胸に燻っていたが、しばらくするとそのままでいいと思えてきた。考え方が変わったキッカケは周りの冒険者から頼られるようになったからだ。冒険者なんて無法者の集まりだ。弱い奴が強い奴に利用されたり、良いように使われるなんてことはザラにある。私はそれが気に食わなかった。特に女性をパーティに誘い、ダンジョンで輪姦すクズは半殺し、時にはガチで殺した。手痛い反撃を食らい死にかけたこともあったが何とか生き残り、そういったクズ共を駆逐し続けた。
奴隷を雇っているのだって、ダンジョンで無茶してパーティが半壊した生き残りとか、騙されて借金奴隷になった冒険者とか、訳あり連中を中心に雇ってる。性奴隷として雇ってるのは、その分早く奴隷から解放されるからだ。そんな事を続けていたらいつの間にか頼られるようになった。誰も何も言わないが、長くローナにいる連中は私がやっている事を理解してくれているのだろう。
そんな事をしていたせいか、ローナ支部のギルドマスターからSランク昇格の打診があった。強さという点において、Sランク冒険者として相応しいのか、疑問に思うところがあり、固辞していたが、ガレスとやったことにより全てのステータスが10%上がった。まぁ、Sランクを名乗れるくらいにはなったかと思い受けることにした。別件でギルドマスターに呼ばれてるし丁度いい。
「リーゼ婆。またシワが増えたんじゃないかい?」
ローナのギルドマスター、リーゼロッテ。70歳を超えたババアだが、いまだ現役で下手したら私より強い。
『正面切って私にそんな事を言うのはアンタくらいなもんだよ。一応言っておくが舐めた口をきいてると痛い目をみるよ』
そう言ってギロリと睨む。この婆さんが私より強い理由。それは今使われた魔眼だ。魔眼を発動させて目を合わせる事で相手の動きを縛る。精神が高ければレジストできるが、そうでなければ動けなくなりババアに嬲られることになる。精神も10%上がってるから試しに軽口を叩いてみたがレジスト出来なかったみたいだ。動けない。素直に謝っておこう.
「冗談よ、悪かったね」
『…ふん、まぁいいさ。しかし、ミレーヌ、あんたまた強くなったんじゃないか?魔眼への抵抗力も上がってるし、何年か修行した様な感じだよ』
「まぁ、色々とね…それより前から打診されてるSランクの昇格の件だけどねぇ、受けようと思う」
『ようやく受けてくれるかい。ミレーヌが居てくれるとバカ共が大人しくて助かるんだよ,
近日中にギルドカードとプレートを発行するから、また連絡するよ』
「了解したわぁ…で、今日の話はそれだけではないのよね?」
『ああ、ミレーヌに聞きたいことがあってね、最近ローナに来たガレスのことだ。随分と気に掛けてるみたいだが、惚れでもしたのかい?』
「さぁどうたろうね…私があと10歳若ければ、進んでガレスの奴隷になっただろうねぇ、と言っておくわ」
『ほー、まぁそのあたりは深く聞くつもりは無いが、強さの方はどうなんだい?指名依頼を受けて斥候役をこなしているようだけど使い物になるかい?』
「私は一緒に潜ったことはないから詳しくは知らないが、ウチのマックス曰く50階層までなら余裕らしいわぁ。斥候役としてはAランクと比べても遜色ないけど耐久が低いのが玉にキズだねぇ。今、タンク役を探してるようだけど…そんな事を聞くってことは何かあるかい?」
『ああ、ミレーヌは聞いているかい?ランブラス街道の盗賊のこと』
「あぁ、何度か商会の馬車が襲われてるらしいね、護衛に付いた冒険者もまとめて全員殺されたと聞いているわぁ。まさか、またやられたの?」
『やられたよ。今回はBランク冒険者パーティが付いていたにも関わらず全滅さ』
Bランクパーティがやられた?盗賊団の数がよほど多いか、少数であっても飛び抜けた強さの奴がいるのか…しかし妙だねぇ
「リーゼ婆、そいつら本当に盗賊団なのぉ?」
『やはり、ミレーヌもそこが気になるかい』
まともな盗賊団であれば自分達が捕まらない様に一箇所で盗賊行為をし続ける真似はしない。ある程度行動範囲を広げ、いつ、どこで襲うか、的を絞らせないように行動するはずだ。だか、今回、盗賊行為を行っている連中は違う。一箇所で、しかも皆殺しするという行為を繰り返している。そもそも皆殺しというのもおかしい。女は盗賊にとって利用価値が高い。自分達の慰み者にするも良し、奴隷として売り払うも良しだ。だが、殺されているとなると…盗賊行為意外の目的があるのかしら?例えば、国が絡んでいたり、個人的な恨みによるものだったり…どれも正解ではない気がするわ。
「嫌な予感がするねぇ。何なら私が出ようか?」
『私もミレーヌに出てもらうことを考えたが、今回は相性が悪いね。数少ない情報で分かっていることは、相手が弓の名手であること。何せ襲われた全員の死因が矢傷によるものなのさ。
そして恐らく人数は6〜7人程度。盗賊団のものであろう蹄の跡が残っていてね、大体そのくらいの人数と予想できる。お前さんのとこのパーティは全員近接戦闘向きだろう?強さからして殺られるとは思わないが、こちらからの攻撃手段がないんじゃないかい?』
確かに婆さんの言う通りだ。負ける気はしないが盗賊を捕らえる自信はない。
『それに相手の情報が少なすぎる状態でお前さんに出てもらうのはどうかと思っているところでね』
「…それで斥候パーティであるガレスへ情報収集の依頼を考えてるってわけかい?」
『そういう事さ。Bランクが殺られているから、あくまで情報収集がメインで、戦闘は避けるような依頼になるね。相手の姿形が分かればいい。アジトが分かればなお良いね』
「まぁ、いいんじゃないか。あそこの奴隷は気配察知Lv10だし、ガレス自身も不意打ち耐性のスキルを持っているしね。ガレスとレイラだけなら俊敏が特化してるから、仮に襲われてもも逃げることが可能だろう」
『じゃぁ、今売り出し中の斥候パーティにギルドからの指名依頼を出すとするかね』




