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閑話 クリスティーナ戦争の気配を感じる

『そんな馬鹿な、私が開発した魔導ゴーレムが冒険者ごときにやられるなんて、あり得ない、あっていいはずがない』


さて、ゴーレムは倒したけどこれからどうしよう。この男(ジョーイ)の扱いとか、ファフニール帝国への対応とか、一歩間違えれば国際問題になりかねない。頭が痛いわね。そんなことを考えているとソフィア団長とミゲル副隊長が過激なことを言う。


『こいつどうする?私たちを殺そうとしたのだから、それ相応の報いを受けてもらうべきよね』


『首ちょんぱでいいだろ。連れて帰るのも面倒だし』


とても国の要職に就いている人間の発言とは思えないわね。するとペドロ師団長がまとな対応で二人を制してくれた。


『短絡的な考えはよせ。ここは陛下に指示を仰ぐべきだろう。こいつを生かすにしても殺すにしてもな。

まぁ我が国は何ら含むことはないし、本来なら堂々とありのままを国際的な見解として述べてもいいのだが、他国が絡んでくるといろいろ面倒だからな。我々だけで判断しない方が良い』


すると意気消沈していた男は焦ったように問いかけてきた。


『待て、き、貴様ら冒険者ではないのか!?』


装いは冒険者だから勘違いしたのも無理はないけど、そもそも冒険者だろうが襲っちゃダメよね。ここは私が答えておくか。


「我々はリンドブルム王国の者です。国王陛下より勅命を受けクイーン・キラービーの討伐のためにここに来ました。

ファフニール帝国との国境付近に巣ができてしまったため、騎士団や魔法師団を動かすと貴国を刺激しかねないという理由で少数精鋭かつ、冒険者を装い討伐を行った次第です。

あなたがやったことは自国の新兵器テストのため、他国の騎士団を襲い対人戦データを取ろうとしたということになりますね」


『そんな馬鹿な…』


さて、間抜けな男(ジョーイ)は大人しくなったし、さっさと撤収しましょう。

他のファフニール帝国の人間が近くにいるとも限らないし、もうこれ以上のトラブルはゴメンだわ。

そのあとはクイーン・キラービーの素材の回収と、ゴーレムの残骸の回収を手早く終わらせて帰路についた。

流石王家所有のマジックバッグ。素材も残骸も全部入ったわ。これ褒美にくれないかしら。


・・・・・・


ー 数時間後 ー


クリスティーナ一行とゴーレムが激戦を繰り広げた森にフードを被った男女が辿り着いた。


男『ゴーレムの反応が消えたのはこのあたりか?』


女『はい、そうです。この森の荒れ様、ここで何者かがゴーレムと戦ってゴーレムを破壊したと見ていいでしょうね』


男『キラービーの死骸が大量にある。蜂は剣撃で殺されているな。ゴーレムがやったわけではなさそうだ…む、巣もあるようだ』


女『状況から察するにクイーン・キラービーと戦闘した何者かが、ジョーイのテスト機と戦闘になりゴーレムを倒した…といったところでしょうか』


男『うむ、その可能性が高い。クイーン・キラービーを倒し、さらに、ウチの魔導ゴーレムを倒せる冒険者。しかもクイーン・キラービーの遺体も、ゴーレムの残骸もない。大容量のマジックバッグを持っているということだ。確実に高ランク冒険者だな』


女『そうなると地方都市の冒険者ではなくリンドブルム王国の王都所属の冒険者でしょうか。我々が追うには危険が大きすぎますね』


男『仕方あるまい、皇帝陛下に報告し指示を仰ごう…』


・・・・・・


ー数日後、王都にてー


『厄介な問題を持ち帰ってきたのぉ』


厄介な問題というのはもちろんファフニール帝国のジョーイという男のこと。

成り行きとはいえ他国の重要人物(と思われる)と戦い、拉致してしまったのだ。とはいえ拉致せずそのまま返してしまったら、あること無いことを吹聴される可能性がある。ファフニール帝国とははっきり言って仲が悪いから場合によっては戦争になることも考えられた。仕方がない。

問題はジョーイをどう遇するかね。今回のことはジョーイが喧嘩を売ってきたのだからこちらに非はない。しかし魔導ゴーレムの存在が問題だわ。魔導ゴーレムはファフニール帝国にとって超需要な機密であることは間違いない。たった1体で今回の討伐メンバー相手に五分の戦いができるほどの兵器だもの。その情報と試作機が我が国に漏れたのだ。我が国にジョーイがいると分かれば、返還を求めるだけでは済まないだろう。

ファフニール帝国はその漏れた機密によって、我が国でゴーレムが作られるのを避けるため、戦争を仕掛けてくる可能性もある。こちらに非がないからと言ってバカ正直に事実を伝えるのは愚策でしょうね。となると、しばらく黙ってるのかしら。


『クリスよ、旅の道中は冒険者を装ったのだな?』


「はい。ジョーイとかいう男も冒険者と勘違いしておりましたし、貴族がクィーンを討伐したとは思わないでしょう」


『ふむ、ではファフニール帝国が何か問い合わせてきても知らぬ存ぜぬで通すかの』


…戦争を吹っかけられる危険性がある以上、仕方ない決断よね。


『恐らくファフニール帝国は近い内に戦争を起こすじゃろう。魔武具使いと五分で渡りあえる兵器が10体もあれば大概の戦は勝てるじゃろうて。態勢さえ整えば躊躇はすまいよ。情報が漏れたことも戦争を早める要因になるであろうからな』


漏れた以上、利用される前に利用する可能性がある国を潰しに来るってことね。迷惑な話だわ。


『仮に早い時期にファフニールが戦争を起こすにしても、多少の猶予はあるじゃろう。ファフニール帝国は我が国より、隣国のニーズヘッグ王国との仲の方がより険悪じゃ。数年前まで戦争をしてたしの。やつらを放置して我が国に攻め込んでくることはあるまいよ。恐らく奴らを潰してから我が国に戦争を仕掛けてくるじゃろうて。

その間に対策を立てることになるが、さて宰相よペドロの方はどうなっておる?』


『陛下への報告を怠るほど研究に没頭しておりますよ。ゴーレムの方にも興味津々ではありますが、まずは蜘蛛による戦略魔法陣構築を実現させよとの勅命を果たすため寝食を忘れるほど作業に集中しているようです。既にマジック・スパイダーの進化条件を満たす方法を確立したとの報告が入っております。ペドロ本人からではなく彼の部下からですが』


あの男は相変わらずね。まあ結果が伴ってるから良いけどさ。


『どうやら魔手甲の技術を応用して蜘蛛用の魔武具を完成させたようです。魔法師団の研究室ではマジック・スパイダーの数が増えているそうです』


…マジック・スパイダーの進化に成功してるなら私とオットーの蜘蛛を返してくれないかしら。公爵令息が普通に借りパクするとかおかしくない?


『ふむ、順調ならばそれでよい。しばらくは状況の推移を見守ろうかの。クリス、状況が変わったらまた呼ぶのでな、それまではいつもの生活に戻るとよい』


「お話いただけるのはありがたいのですが、私はあくまで1人の侯爵令嬢に過ぎません。国家機密を聞く立場にはないと思いますが…」


『なに、機密だけに大っぴらに話すわけにもいかんのでな、1人の年寄りとしては話し相手が欲しいのじゃよ。クリスなら事情を知っておるし、茶でも飲みながら話を聞くだけでよいのでな、また付き合っておくれ』


「かしこまりました。お茶のお誘い楽しみにしております」


この時、更なる面倒ごとに巻き込まれることを、クリスティーナは知る由もなかった…

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